>   >  Image Engineが心血を注いだ、映画『チャッピー』のVFX。 Vol.2:松村智香(ハードサーフェス・モデラー)
Image Engineが心血を注いだ、映画『チャッピー』のVFX。 Vol.2:松村智香(ハードサーフェス・モデラー)

Image Engineが心血を注いだ、映画『チャッピー』のVFX。 Vol.2:松村智香(ハードサーフェス・モデラー)

<3>感情をもつロボットとして人間らしい動きを

チャッピーはロボットでありながら「感情をもつ」キャラクターであるため、実写撮影時にはグレイスーツを着た俳優シャールト・コプリーが演じ、その演技を下に、CGアニメーターがアニメーションさせることになっていた。このためチャッピーのモデルは機械として実際に動作する構造であるだけではなく、人間と全く同じ動きができることも求められた。
「メカニカルな構造でありながら、ヒューマンモデルと同じレベルのアニメーションができることが求められました。そのことを常に考慮して、ロボットでありながら、なるべく動作に制限がなく、スムースに動くように設計していきました。ブロムカンプ監督にはパーツごとにほぼ毎日チェックしていただき、デザインと動作の両面からできるだけ多くのフィードバックもらい、ディスカッションを繰り返して、デザインを完成させていきました」。

CHAPPiE BREAKDOWN REEL from Image Engine

当初からデザインの目標の1つは、シャールト・コプリーの演技や感情表現をチャッピーで再現することにあった。コンセプトデザインを決定する段階からずっと、ブロムカンプ監督やVFXスーパーバイザーと共にモデリングチームは、シャールト・コプリーの演技を再現するために、「メカニカル」なのに「人間の動作」ができるモデルとはどういうものかを話し合っていた。人間らしい感情表現をするために必要な方法を検討した結果、いくつかのパーツが着目された。
「彼の演技を分析したところ、特に手や指の動きが重要であると考えました。そこで手や指に関してはヒューマンモデルと同様の動きができるように設計し、作り込みました。また耳や、ブロー・バー(眉の棒)と私達が呼んでいた目の上のパーツも、ロボットの部品に見えますが、人間らしい感情表現に有効と考え、なるべく可動・回転域を大きく取れるようにデザインしました」。

映画『チャッピー』VFXメイキング(2)

その他にも細かな部分まで調整が続けられた。
「些細なことですが、チャッピーは色々学習する中で、人間のような歩き方や怖がり方をするようになります。そのような場合、アニメーションでは微妙な重心変化やポーズの調整をする必要がありますが、そのようなことも考慮して、『人間』としても『ロボット』としても 自然な動きができるようにモデリングしました。チャッピーは工業的なパーツのみで構成されていますが、ほぼ完全に人間の取る動きやポーズを再現することが出来ます」。
このようにしてチャッピーを構成する1つ1つのパーツは、「人間らしい動き」の実現と、デザイン的な面白さの両面を追求して作り上げられた。

  • 映画『チャッピー』VFXメイキング(2)
  • 映画『チャッピー』VFXメイキング(2)


<4>チャッピーのモデルのバリエーション

さらにチャッピーのモデル制作を複雑にした要因として、チャッピーが物語中で様々な状況の中でディテールが変化していくことが挙げられる。最初は警察用に作られた汎用ロボット(劇中では"スカウト"と呼ばれる)として登場し、事件に巻き込まれることで、一部が破損したり、汚れたり傷ついたりしていく。またパーツが取り替えられたり、表面にペイントされたり、シールが貼られたりもする。モデルチームでは、このようなチャッピーの変化に対応するため、壊れ具合やペイントのちがいなどで大きく分けて8つのバージョン(STATE)を作成した。そのうち、モデルによるバージョンちがいは以下の6種類となった。

・STATE 1:スカウト基本形
・STATE 2:ダメージスカウト
・STATE 5:顔面に石をぶつけられたチャッピー
・STATE 6:腕を切られたチャッピー
・STATE 7:腕を付け直してもらったチャッピー(付属でアクセサリー着用)
・STATE 8:様々なパーツが壊れているチャッピー

......残りのバージョンはテクスチャのちがいで表現された。敵役となるロボットのムースも同様に壊れ状態によってSTATE AからFまで作成された。壊れたり、弾丸を受けたりしたモデル作成にはZBrushも使用されている。このようにして作成された各バージョンのモデルはレンダーレイヤーの形でデータベースに登録された。そしてレンダリングする際には、そのシーンでどのSTATEを使用するべきかを自動参照できるインハウスの管理ツールを使用して、適切なバージョンのデータが読み込まれるワークフローが構築された。

映画『チャッピー』VFXメイキング(2)

WETAが作成した「ムース」のコンセプトアートの一例

  • 映画『チャッピー』VFXメイキング(2)
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