<5>大人数で1つのモデルに取り組んだ『チャッピー』
このように大規模になった本作品のモデリング工程全体について、松村氏は次のようにふり返る。
「外装に関してはコンセプトアートをある程度参考にすれば良いので、いわゆるモデリングという感じでしたが、内部構造を作成する作業は、まさにエンジニアになってデザイン、設計をしているという感じでした」。
image courtesy of Image Engine
ムースのVFXショットブレイク例。(左上)背景プレート、ムースのガイドとなるドローンが視認できる/(右上)ムース3DCGモデル/(左下)マズルフラッシュや粉じん等のエフェクト素材/(右下)完成形
チャッピーとムースはそれぞれ3~4人ずつのモデラーがパーツごとに分担して同時に制作が進められた。
「モデルチーム全員で工業用ロボットや工場の機械、車のパーツなどの参考写真を集め、使用できそうな部品を3Dで作成し、チーム内で共有することで統一感のある、かつ工業デザインとして説得力のあるモデルを構築していきました。お互いのパーツを常にチェックしつつ、またスケジュール的に厳しいパーツは、チャッピー、ムース問わず助け合いながら作業したので、個別のモデルを担当するような今までのプロジェクトでは得られなかったチームの一体感を味わうことができました」。
各モデラーがパーツごとのファイルを更新し続ける一方で、モデルリードが常に最新のパーツを集め、統合モデルをアップデートし、全体のバランスを確認し、必要に応じてパーツの追加、削除、置き換えを行なった。複数のモデラーで1つのモデルに同時に取り組むため、チーム内でパーツ共有のための管理ファイルを作成し、他でも使えそうな部品があれば、そのファイルにインポートし、更新することで効率化が図られたという。
「プロジェクトの終わる頃には、ホームセンターの商品棚のように、大小の工業パーツが並んだ面白いファイルができていましたよ」。
<6>ニール・ブロムカンプ監督について
最後に、プリプロの段階から本作品におけるモデリングの全工程を通して、ブロムカンプ監督と密に付き合うことになった松村氏に、監督の印象を語っていただいた。
「ブロムカンプ監督はVFX全般について知識が深く、全てのプロセスにとても積極的に参加してくれます。監督の中には断固としたワークフローや要望があり、その上で共に働く私達に何をしてほしいか、どんな問題を解決してほしいかということを常に明確にしてくれました。とは言え、全てを事細かに指示するわけではなく、アーティストたちにも色々と試行錯誤させてくれたり、クリエイティビティを発揮させてくれたりもしました。スタジオに来て、ジョークを言いながらエネルギッシュにアーティストの席をひとりひとり回って、チェックをすることも度々でしたね」。
また制作業務以外でも、ブロムカンプ監督の人懐っこいパーソナリティに魅了されたスタッフは多かったようだ。
「チェックをしながらも、普通の同僚のようにこんなスーパーカーを買いたいんだよねというような会話をしたりもします。それから、夏にディナークルーズを私たちスタッフ全員のためにチャーターしてくれたときには、突然操縦席から現れ、私たちを驚かせたり、といった思い出もあります。ブロムカンプ監督は制作期間中、常にスタッフやプロダクションと協力的な関係にあり、皆がぜひまた一緒に働きたいと思わせる監督です」。
TEXT_奥居晃二 / TEXT_Kouji Okui
EDIT_沼倉有人(CGWORLD) / EDIT_Arihito Numakura(CGWORLD)
Special thanks to Image Engine & GRAMMATIK