Topic 1:プリプロダクション
<フルHDの実に64倍という8K×S3Dのデータ負荷>
本作はグリッドの世界から始まり、さらに海底から都市を抜け宇宙へ飛び出しライブ会場にたどり着くという5つのシーンで構成されており、S3Dはパンフォーカスとの親和性が高く効果的なため初期のコンテはほぼフル3DCGに近い演出内容となっていた。「本作の映像フォーマットは、8K(W7,680×4,320、60FPS)かつS3D(=L/Rの2種類)ということでフルHDの約64倍のデータ負荷となりスケジュールなども考慮すると3DCGを多用するのは難しく、中盤の都市を描くタイムラプスなど実写パートの比重を高めることで制作のバランスを調整してもらいました」と高橋氏。それでもほとんどのパートに何かしら3DCGの要素が入っているのだという。
実写素材は8Kデュアルグリーン信号をオリジナル形式の連番ファイルで収録したものをDPX方式に変換したが、高速の変換でも12倍を要したという(しかもL/Rだ)。
「レンダリング、コンポジット、編集素材などデータ受け渡しのためにハードディスクへコピーするだけでも膨大な時間を要するため、事前に仕様やスケジュールを厳格に定め、それに忠実に作業を行うことが大前提でした。小さなミスも許されないのでいつも以上に慎重に作業する必要もあり常に時間との戦いでした」とオンライン編集とグレーディングを担当した近藤貴弓氏。
9月中旬にはMTの駐車場に250インチのスクリーンを設置し、フルHD画質でのプリビズ試写が行われた。本番環境の奥行きや飛び出し感、1/1スケールの見え方をスタッフ間で共有。その後も久里浜にあるJVCケンウッドの研究所内のホールに8Kプロジェクタ(MT所有×1台、JVCケンウッドからのレンタル×1台)を設営するなどして試写を実施したという。「データ転送負荷などの問題から試写は3回が限界でした。完成したのはイベント上映前日で全体を通して見るのもその日が初めてでしたね。イベントに間に合うか不安もありましたが、全スタッフがプロフェッショナルな仕事をしてくれたおかげで無事完成に漕ぎ着けました」と、斉藤氏は語る。
■絵コンテ
演出コンテ(抜粋)。5.1chでレコーディングされたライブBlu-ray『SAKANAQUARIUM 2013 sakanaction ーLIVE at MAKUHARI MESSE 2013.5.19ー』収録曲、かつ最新ツアーのセットリストという条件に加えてMV化されていない(=固定イメージのない)曲ということで『Aoi』が選ばれた。「『Aoi』という楽曲は、サラウンドに適したコーラス、メリハリのある構成が本作にとてもマッチしていました」(田邊氏)。
■事前の検証
<A> プリビズ(プリ・ビジュアライゼーション)のMayaシーンファイル。UI中のハイライトした箇所がMTが開発したS3DツールのMayaプラグイン。アトリビュート(図・右下)でコンバージェンス(視差)等の値を入力すると、near limit、far limit、コンバージェンスのガイドがビューポート上で確認できるので、感覚的に立体設計が行える。
<B> サイドバイサイドのプリビズ映像。
<C> 9月11日(金)に実施されたプリビズ試写の様子。本番環境でも使用するスクリーンにHD品質のプリビズをS3D投影し、250インチでの立体感を検証。レーザー照明装置も持ち込み、立体映像との複合的な演出効果がテストされた。「映像制作に関わるスタッフ、レーザーや美術など空間デザインに関わるスタッフが一同に会し、本番環境での立体感を全員で共有しました」(田邊氏)。
■制作途中の試写と本番
<A> 久里浜にあるJVCケンウッドの研究所内に設けられたホールでの試写の様子。機材やデータ負荷の制約から、制作途中における8K×S3Dによる試写は3回に限られた
<B> 今回用いられたJVCケンウッドの業務用8Kプロジェクタ「DLA-VS4800」。S3D投影のために2台を縦置きしている
<C> 開催前日である2015年 11月11日(水)、ヒカリエホールでのキャリブレーション作業の様子。8K×S3D、そして22.2ch立体音響である本作は、上映できる環境が限られるため今のところ再演の予定はないそうだが、大いに期待したいところだ