<4>ライティング、そしてコンポジット
肌の質感について。Sayaのようなフォトリアルな人体表現では、一般的に写真を元に生成されるのがポピュラーな手法だが、TELYUKAの2人はあえて全ての素材を手描きで作成することにこだわったそうだ。
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その理由は、実写素材を使用する場合、どうしても写真を撮った時点で陰影が入ってしまうことに加え、本当の意味で細部まで自分達の持つこだわりや作り込みを行うことができず、写真の持つ解像度に依存してしまうという2点が挙げられた。
質感にはVRay SSS2マテリアルを用いたスキンシェーダを使い、肌の幾重にも重なった質感表現をレイヤー状に1枚ずつ重ねていくように再現し、日本人ならではきめ細やかな透明感のある質感が生み出された。
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MARIによるスキンテクスチャリングの例
ライティングに関しては、OpenColorIO(OCIO)によるカラーマネジメントを行い、ACES環境にてレンダリングおよび、コンポジットを行うことで実写の背景と完全に一致した環境でのフォトリアルなレンダリングが行えるよう整備された。また、使用するHDR素材はLogoscopeの亀村文彦氏の協力の下、物理的に正確かつハイクオリティなHDR環境が用意できたそうだ。
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通常のHDR環境(右)とロゴスコープ/亀村氏が作成した特製HDR環境によるレンダリングイメージ(左)の比較
そして、コンポジット。NUKEで作業を行なったそうだが、レンダリングイメージの段階でもかなり現実空間に忠実な環境が構築されているため、かなりフォトリアルなルックに仕上がっているのだとか。beauty以外にもひと通りのレンダーパスを書き出しているのだが、コンポジット工程では味付け程度の微調整に止め、物理的に正確な3DCG環境で描画されたルックを壊さないよう細心の注意をもって作業したとのこと。
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NUKEによるコンポジットワーク例
講演の終盤には『Saya』のロードマップが紹介された。その一環として、前述したロゴスコープバーチャルヒューマンプロジェクトと題し、BT.2020に基づいた360度VRによるコンテンツ制作を共同で進めていることが発表された。
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これまで数多く制作されてきたフォトリアルな日本人のキャラクターの中で、不気味の谷を遥かに越え、ここまで圧倒的にリアルに作られたキャラクターが存在しただろうか。その秘訣をまとめていくと、膨大な資料から蓄積された人体に関する知識と、それらをひとつずつ確かな技術で丁寧に再現していき積み重ねていったことで生み出された必然の結果と言えよう。
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「バーチャルヒューマンプロジェクト」問い合わせ先
株式会社ロゴスコープ / Logoscope Ltd.
担当:ジャナック・ビマーニ 博士(メディアデザイン)、研究員、プロデューサー
Janak Bhimani, Ph.D., Researcher, Producer
そして終わりにはSayaのフェイシャルアニメーションおよび、シミュレーションされたボディモーションの最新動画が披露された。まだ実験段階と説明されたが、会場全体がフォトリアルなキャラクターの新たな可能性を実感したことは確実な、実に見事な出来映えであった。
3DCG表現はアーティストのセンスとテクノロジーの両輪によって成り立つものだが、TELYUKAの取り組みはまさにその好例である。今後の展開も大いに楽しみだ。
TEXT_谷口ミツヒロ(テトラ) / Mitsuhiro Taniguchi(TETRA)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
Special thanks to TELYUKA
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CGWORLD 2015 クリエイティブカンファレンス
参加費:無料 ※事前登録制
開催日:2015年11月22日(日)
場所:文京学院大学 本郷キャンパス(東京都文京区向丘1-19-1)
主催:ボーンデジタル、文京学院大学 コンテンツ多言語知財化センター 協力:文京学院大学、ASIAGRAPH CGアートギャラリー
cgworld.jp/special/cgwcc2015