>   >  漫☆画太郎の超問題作が奇跡の実写化! 映画『珍遊記』のVFX(スタジオ・バックホーン)
漫☆画太郎の超問題作が奇跡の実写化! 映画『珍遊記』のVFX(スタジオ・バックホーン)

漫☆画太郎の超問題作が奇跡の実写化! 映画『珍遊記』のVFX(スタジオ・バックホーン)

<Topic3>酒場でのバトルシーン

本作の工夫の粋と言えるキラーショット

酒場でのバトルシーンは本作でも一番の見どころになっているが、実はこの酒場、外観に関しては韓国ロケで撮影した東洋風の門にCGで看板などを作り足している。また、スケジュールの都合で韓国ロケに同行できなかった演者に関しては後からグリーンバックで撮影された素材を合成することで対処している。酒場の内部は日本のとある旅館の一室を借りて撮影が行われているが、撮影日をまたいでの演者の着替えやメイクの手間を減らすため、グリーンバックも持参してその場で合成カットの素材も収録したという。キーイングにはAfter Effectsのロトブラシツールも使用しており、人の髪など通常のキーイングでは抜けない部分の最終的な調整では重宝したとのこと。
太郎の上からゴロツキたちがスローモーションで飛びかかってくる印象的なカットは、服をなびかせた上で逆さまにした状態でグリーンバック撮影した演者を、天地を逆にしてAE合成することであたかも上から落ちてきているように見せている。そのゴロツキたちが太郎と戦うと次々と服が破れて飛び散っていくのだが、この表現は服を破くのではなくすでに破いてある服の破片を吊るしてグリーンバック撮影、その破片をMaya上のパーティクルインスタンスで散らしている。また、ゴロツキが着た服が破れる瞬間は、AE上で演者のポーズに合わせた服を合成してシャターエフェクトで弾けさせるという逆転的発想で表現しており、ここでも制限があるからこその発想の工夫が窺える。反面、殴られ飛んでいく裸のゴロツキに関してはAEの2D合成でパースを無視して回転・スライドさせているが、ここでも「簡単に合成とバレるねらったチープさ」を演出することで笑える映像に仕上がっている。

酒場外観の制作



架空の世界でのロケーションは当初悩みどころではあったが、鹿角氏の知人のコーディネーターの勧めもあって原作の雰囲気に合った東洋風の街並みは全て韓国の映画セットにて撮影。ロケハン時にはすでに写真があったので、その時点でCGの使いどころを想定して臨んだ。もともと門だった建物<A>にCGで加工、追加を施して酒場に仕上げている<B>

ロトブラシによるごろつきの合成

酒場に来た太郎がゴロツキから一斉に襲われるショット。監督から「100人くらいから襲われるようなキラーショットをつくりたい」とオーダーされて実現したカットだ。エキストラの演者に20名ほど集まってもらい、通常の酒場のロケと同じ場所<A>にグリーンバックを張りその場で合成素材も一緒に撮影<B><C>。ゴロツキはミニジブとミニクレーンを使って1人ずつ赤いライトを当てながら、逆さの状態をスローで回り込むような動きで撮影D(服のなびきを表現するためにスタッフが服の裾を広げている)、それをロトブラシツールでキーイングし<E>、逆さまにして合成しながらレイヤーを重ねて人数を増やしていく<F>

飛散する衣服の表現





服が破れていくシーンではまず裸の状態のゴロツキの演者と太郎を撮影<A>、そこにまずは破れる前の服を変形させて「着せた状態」まで2Dで合わせそのレイヤーをAEのシャッターで数フレームだけ「散らせる」ことで服の破ける瞬間までを表現<B>。その後に破けた破片が舞い落ちる部分は一部手付けだが、大半をMayaのパーティクルインスタンスを使って動かしている<C>。瞬間的にハイブリッドに素材を入れ替えることで「らしく見える」ようにゴールから逆算して作り上げたショットになった<D>

パース感を無視した演出


太郎に殴られて飛んでいく裸のゴロツキたち。基本的には屋内ロケ時に用意されたグリーンバックの上で演者をひとりずつ撮影していくA 。ここでは「いかにも合成しました」という感じの笑いをねらっているので背景<B>に合わせたパース感や動き等はあえてリアルにせずに、スライドや回転とビデオ合成の時代の単純なクロマキー合成のような手法で合成している<C>~<B>。漫画的な記号を用いることで表現方法そのものでも笑えるように仕上げている

  • 映画『珍遊記』
    新宿バルト9ほかにて大ヒット公開中!!
    監督・編集:山口雄大/制作プロダクション:DLE
    配給:東映 chinyuuki.com
    ©漫☆画太郎/集英社・「珍遊記」製作委員会


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