STEP002 キャラクターモデリング②
おだやかじゃないクオリティは作品愛ゆえにっ!『いちご 冬制服ver.』のモデリングにかかった制作期間は、監修の直し作業も含めて約3ヶ月。キャラクターらしさをいかに表現するか、細部にわたりその造形にはこだわりが見られる。「大切なのはいかに『アイカツ!』が好きかです。対象の作品が好きかは本当に重要ですね。フィギュア制作は必要に応じてデフォルメをしないといけません。そのときにどうイメージをもっていくかは作品を知りつくしていないとわかりません。設定資料があれば完璧というわけではなのです」(長汐氏)。
S.H.Figuarts『アイカツ!』シリーズは、『星宮いちご』のほかに『霧矢あおい』、『紫吹 蘭』の3人の冬制服Ver.(以下、『冬制服Ver.』)が販売予定となっている。それぞれのキャラクターならではの表情や付属するアイテムも本作の魅力のひとつとなるだろう。キャラクターが並んだときの身長差に関しても作品の設定がしっかりと反映されており、並んだときの身長バランスは基本的に足の長さで調整されている。フィギュアはすねが長いと綺麗に見えるため、伸ばすときはすねを伸ばし、縮めるときはももを縮める。このような調整はデジタルが得意とするところである。一方で「原型制作のサイドと、生産のサイドは同じようなモノをつくっているように見えますが、まだ深い溝があります。原型でつくりたいものと工場でできること、そこをどうわたすかがこれからの課題なのかもしれませんね。ただ原型は生産のことを考えないでつくった方がより先鋭的なものに仕上がると思います。もちろんやりすぎると製品にならないので、どう折り合いをつけるかのさじ加減が難しいでしょう。今回は原型段階では制限を振りきってもらうようにお願いしました」と長汐氏は語る。
AIKATSU 003-1:通常顔
通常の顔を制作する
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素体の顔は最初に支給された素体データをそのままを使用している。顔は変えていくが、ダボの位置などはなるべく素体をそのまま活かせるように進められた
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キャラクターに合うように顔の雰囲気を出す。髪もプリミティブを配置して調整し、ZRemesherでリトポした後、ポリゴンのながれをザックリと整え、顔とのバランスをみる
ポリペイントで目を描き込み完成だ
AIKATSU 003-2:別顔
顔のバリエーションを作成する
通常顔を基にして目や口の形状を変え、開いた口、片目閉じなど別顔を作成していく。監修提出時にはポリペイントで目を描き込み、表情はわかりやすいようにしておく
AIKATSU 003-3:髪の毛
後ろ髪を作成する
See-throughで資料に合わせながらプリミティブの形状を調整して髪の形を出していく。ある程度髪の形状ができたらZRemesherでリトポし、ポリゴンのながれを整えていく
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毛束の複製や反転などで毛束の数を増やすが、単調にならないように徐々に髪のながれを調整する
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毛束をマージしてキリっと見せるところ、ぼんやり見せるところの緩急を付け、他のパーツと合わせた後さらに微調整を行い完成となる
AIKATSU 003-4:出力修正
監修時のデータからデジタルとアナログで調整作業を行なった後、その原型パーツを再スキャンしてデータに反映した比較画像
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上が元データで、下が調整後に再スキャンした上半身
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左から監修時の元データ、調整後再スキャンした画像、表面をデータ上で綺麗に整えスムージングをかけて仕上げた上腕部のパーツ。この後さらに全体的に調整を入れてようやく完成となる
AIKATSU 003-5:完成パーツ
『冬制服Ver.』の基本となる素体パーツのみを表示した状態。『星宮いちご』、『霧矢あおい』、『紫吹 蘭』の3人のベースモデルとなるものだ。しかし『紫吹 蘭』は身長が他の2人よりも高いため、すねのみ3mmほど長くしたパーツを別途用意している
『星宮いちご』に付属されるパーツ一式。『アイカツ!』ファンにはたまらない"おしゃもじをマイクに持ち替えて!"の「おしゃもじ」や、クリスマス恒例行事のツリー伐採の「斧」が付属する。『アイカツ!』ファンなら絶対欲しいマストアイテムとして、担当者がこだわり抜いた付属品にも注目しよう
STEP004 新素体
常識を打ち破った新関節機構っ!新素体は宮下氏がRhinocerosとZBrushを併用してデジタルで制作したものを一度3Dプリンタで出力し、さらに手加工による検証・機構の再構築をくり返して最終的にアナログ原型として仕上げられたものだ。「新素体のアナログ原型をデジタル化しながら『アイカツ!』のデザインに落とし込む作業は、今回のプロジェクトならではのものでした。アナログをデジタルに置き換える作業は苦労を伴いましたね。本来アナログ原型の魅力というのは"揺らぎ"にあって、きっちり左右対称ではないところにあるのではないかと考えています。でもその揺らぎが意図したものなのかそうじゃないのかという部分は、なかなか推し量れません。例えば、アナログ原型の素体の状態だと、関節が正位置だと思ったところからさらに曲がることがあります。それが意図したものかどうかの判断が難しいのです。それをCGに置き換える際に、どう汲み取るかはさらに大変です。単純なデジタル化だけならスキャンするだけですけど、フィギュアにする際はそれだけでは通用しないのです」と長汐氏。
新素体は今までにない特徴をいくつも備えている。例えば肩周りなどでは可動域を広げるために関節を引き出す構造があるが、新素体は引き出すとそこにカバーパーツが追従してくるしくみとなっており、関節を引き出しても関節の隙間を補完し、隙間なくラインが繋がるようになっているのだ。通常クリアランスを大きくとるとよく可動するようになるが、その分関節部分に大きな隙間が発生してしまう。特に美少女フィギュアの場合は大きく空いた隙間は見た目に好ましくない。これまで隙間を出さずに動く可動フィギュアの作成は非常に困難と言われてきたが、この問題を見事に解決したのだ。「ここには同じS.H.Figuartsの『仮面ライダー』シリーズで培ってきた技術が入っています。『仮面ライダー』の衣装はピッチリとしたスーツだから隠すものがないため、ラインを誤魔化せませんから。従来は引き出して可動域を広くしていましたが、その分股などに大きな隙間が発生してしまいました。そこでどうしたら隙間が発生せずに綺麗に可動するかをずっと考えてきました。その結論が、足や肩のラインもカバーで綺麗に繋がる新素体です。非常にハードルが高い挑戦でしたが、バンダイらしい新素体が出来上がりました。この新素体はS.H.Figuarts『ボディちゃん』という商品として4月に発売を予定しています。S.H.Figuarts『アイカツ!』シリーズではその新素体を美少女に移植した新たな美少女可動フィギュアシリーズです」と木村氏は語る。
AIKATSU 004-1:新素体のデジタル化
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新素体の基となったアナログ原型。この機構を組み込んだ初期の『いちご 冬制服ver.』の原型は、生産工場より「できません!」と一度断られてしまったほど非常に繊細な内部構造をもっていた。これをスキャンしデジタル化していく
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原型を分解した状態でスキャンした状態。素体に使用されたパーツは全部で61ある
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こちらは原型を組んだ状態でスキャンしたもの
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パーツの軸や表面を綺麗に整え、デジタル上で組み上げた新素体の完成モデル。嵌合部の隙間や各パーツのニュアンスを整え、肩のカバーパーツの形状変更などを行なったことで均整がとれ凛とした印象になっている
AIKATSU 004-2:洗練されたラインと可動域
(左)従来の素体は肘や膝裏の関節が1軸の構造となっていた。それだと膝裏など本来は細くなるところで軸の部分が大きく出っ張ってしまう。しかし関節部分の分割線はできるだけ少ない方がよいため、今までは業界的にも1軸が基本とされていた/(右)新素体はそれを解消すべく、内部機構と関節形状を考え抜き、分割ラインも目立たない2軸構造を肘や膝に採用した。これにより、関節をまっすぐに伸ばした際にも出っ張りが発生せず、綺麗なラインに見え、さらにこれまでより深く曲げられるという大きな成果をもたらした
AIKATSU 004-3:新旧素体の関節機構