より広い可動域、より美しいシルエットを実現した美少女フィギュアが誕生した。今回は企画から新素体の開発、そしてシリーズ最新情報やイベントのバックグラウンドなど、様々な視点からデジタル造形の活用術を紹介する。

※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 213(2016年5月号)からの転載となります

TEXT_永岡 聡(lunaworks
EDIT_斉藤美絵 / Mie Saito(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

『アイカツ!』フィギュア始まりますっ!

S.H.Figuarts『アイカツ!』シリーズは、原作ファン待望となる初の可動フィギュアだ。企画の起ち上げから商品化まで約3年の月日を費やしている。その経緯をバンダイコレクターズ事業部・木村覚志氏は「『アイカツ!』という作品に目をつけ、企画をかなり以前から進めていました。また、これとは別に新しい可動フィギュアの素体をつくるプロジェクトも進行しており、この『アイカツ!』シリーズでは、その素体を使用しての商品化となっています」と語る。

新素体を作成するまでにいたったというシリーズ第一弾が、『星宮いちご 冬制服Ver.(以下、いちご 冬制服ver.)』である。原型のディレクションを担当したのは、GB2の長汐 響氏だ。「基本的に僕はアナログ原型師ですが、アナログもデジタルも使いながら原型制作をしてきましたので、そこを見込まれたのではないかと思います。本作のようにアナログ、デジタル両方からの制作は珍しいですね」と長汐氏。「人間っぽさがあり、ロボットみたいに硬いものではないので、キャラクターをCADでモデリングすることは難しいです。ある程度柔らかい抑揚が必要なので、デジタルのみではなくアナログもしっかりわかる長汐さんにディレクションしていただきました。原作もCGのキャラクターが活躍するアニメですから、CGもアナログも精通してディレクションしてもらえることが大事と判断しました」と木村氏。

今作は、新しい関節構造をもつ進化した美少女可動フィギュアを実現するために様々なアーティストが携わり、英知を結集していることは特記すべきだろう。『アイカツ!』シリーズのディレクションを担当した長汐氏を筆頭に、新素体の可動機構をデジタル・アナログの併用で作り上げた原型師の宮下憲一氏、『いちご冬制服ver.』の原型をZBrushで作成したT氏、関節機構を本作用に調整したデジタルファクトリーの三橋豊彦氏が加わった。このチームが従来の可動フィギュアとは一線を画した新しいフォーマットのフィギュアを生み出したのである。

STEP001 美少女可動フィギュアの企画

フィギュアとしてのプロポーションを考えるっ!

本企画最初の作業は、目指すフィギュアの体型バランスをいかに落とし込むかを探し出すことであった。「アニメのキャラクターデザインをそのまま商品化するわけにはいきません。フィギュアなりのプロポーションというものがあって、劇中の印象と、手に取ったときの印象は全然ちがうものになります。手に取ったときに、このキャラクターがどれくらいのプロポーションであると気持ち良いかというところを最初に画像で探し始めました。頭の大きさだったり、目の大きさだったり、体全体と足の長さだったり、そういったプロポーションを画像上で割り出して調整をしていくのです。そこが決定してからようやく原型制作に取りかかります。特に『アイカツ!』のキャラクターは足が長いため、それをそのままつくると足が長すぎるフィギュアになってしまい、可動フィギュアとしても遊びづらいものとなってしまいます。線も細すぎるところがありますので、感覚論にはなりますが、そのあたりのバランスを上手くとるために、このような作業が最初に必要となるのです。こうしてできた画像が最終的なフィギュアのゴールとなるのでそこをしっかり共有しておき、フィギュアができてから"やっぱりちがう"ということにならないように最初に固めておくことが大切ですね」と木村氏は語る。

AIKATSU 001-1:フィギュアのバランス

プロポーションの参考に作成していた資料の一部。アニメのキャラクターデザインや劇中に登場する作画はもちろんのこと、現在発売されている他の作品のフィギュア写真も交え、様々なものを参考にしながら画面上で伸ばしたり縮めたり加工を行い、求めるバランスに近づけていく。情報量が多いドレス衣装の画像もキープしておきながら、今回の商品に最も合ったバランスを導き出すのだ


STEP002 キャラクターモデリング①

アナログの目の重要性とデジタルの強みを活かすことっ!

『いちご 冬制服ver.』のプロポーションを決定する間に、裏では新素体の開発が別途行われていた。そこで今作は、モデリング初期では簡易的に関節が入ることを想定しながら、各部位のパーツの形状出しを進めていた。『いちご 冬制服ver.』の原型を担当したT氏もデジタルとアナログの両方を担当できる原型師だ。そのため、髪の毛などニュアンスの難しい部分は数回出力をくり返し、出力のたびに「ここを削った方が良いのではないか」と手で調整したものを3Dスキャンしてデジタルに戻し、トライ&エラーをくり返しながら造形の精度が高められた。「手にもったときの感覚は非常に大事です。ここはアナログ原型師さん的な感覚が必要ですね」と木村氏。「最終的に立体物が完成形の場合は、アナログの原型師でなくてもアナログを見なれている目というのは必ず必要になると思います」と長汐氏も語る。

新素体の関節機構が完成すると、デジタル化した関節を読み込み、その造形を各パーツに当て込みながらさらに調整を加える。このようなやり方ができるのは、正にデジタルの強みと言えよう。例えば、1mm軸を移動することは可動フィギュアにとって大変重要な意味をもち、デジタルでは0.1mm単位でも正確に動かすことができる。手で持った際に味わえるアナログの気持ち良さとデジタルの正確さ、その両方を持ち合わせた今作の精度は非常に高い。

AIKATSU 002-1:ボディ

ZBrushの作業画面


目標となるバランス資料を配置し、画面を透かしながらプリミティブ形状などを配置してパーツの形を調整していく。横には出力サイズの目安となる定規を出している



  • 可動フィギュアのため、Transpボタンを押してSubToolの不透明表示を調整しながら、flip機能などを使ってパーツの厚みと可動域を確保する



  • 片側をある程度完成させたら実際のジョイントを合わせて調整を行う。それぞれのジョイントを色分けしてSubTool上で視認しやすくし、鏡面コピーで反対側も進めていく

AIKATSU 002-2:監修と修正



  • ジョイントを入れ込んで嵌合部の調整を終え、いったんの完成となる。この時点で画像監修に持ち込まれた。監修では腰の幅を狭く、胸の起伏を小さく等のコメントが入り、それに基づいて修正作業を進めていく



  • 各所の修正を終え、仮出力しながらアナログとデジタルのデータ調整を行い、完成となった画像がこれだ。監修を終えたモデルはメリハリが整い、よりシャープな印象となっている

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キャラクターモデリング②

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STEP002 キャラクターモデリング②

おだやかじゃないクオリティは作品愛ゆえにっ!

『いちご 冬制服ver.』のモデリングにかかった制作期間は、監修の直し作業も含めて約3ヶ月。キャラクターらしさをいかに表現するか、細部にわたりその造形にはこだわりが見られる。「大切なのはいかに『アイカツ!』が好きかです。対象の作品が好きかは本当に重要ですね。フィギュア制作は必要に応じてデフォルメをしないといけません。そのときにどうイメージをもっていくかは作品を知りつくしていないとわかりません。設定資料があれば完璧というわけではなのです」(長汐氏)。

S.H.Figuarts『アイカツ!』シリーズは、『星宮いちご』のほかに『霧矢あおい』、『紫吹 蘭』の3人の冬制服Ver.(以下、『冬制服Ver.』)が販売予定となっている。それぞれのキャラクターならではの表情や付属するアイテムも本作の魅力のひとつとなるだろう。キャラクターが並んだときの身長差に関しても作品の設定がしっかりと反映されており、並んだときの身長バランスは基本的に足の長さで調整されている。フィギュアはすねが長いと綺麗に見えるため、伸ばすときはすねを伸ばし、縮めるときはももを縮める。このような調整はデジタルが得意とするところである。一方で「原型制作のサイドと、生産のサイドは同じようなモノをつくっているように見えますが、まだ深い溝があります。原型でつくりたいものと工場でできること、そこをどうわたすかがこれからの課題なのかもしれませんね。ただ原型は生産のことを考えないでつくった方がより先鋭的なものに仕上がると思います。もちろんやりすぎると製品にならないので、どう折り合いをつけるかのさじ加減が難しいでしょう。今回は原型段階では制限を振りきってもらうようにお願いしました」と長汐氏は語る。

AIKATSU 003-1:通常顔

通常の顔を制作する



  • 素体の顔は最初に支給された素体データをそのままを使用している。顔は変えていくが、ダボの位置などはなるべく素体をそのまま活かせるように進められた



  • キャラクターに合うように顔の雰囲気を出す。髪もプリミティブを配置して調整し、ZRemesherでリトポした後、ポリゴンのながれをザックリと整え、顔とのバランスをみる


ポリペイントで目を描き込み完成だ

AIKATSU 003-2:別顔

顔のバリエーションを作成する


通常顔を基にして目や口の形状を変え、開いた口、片目閉じなど別顔を作成していく。監修提出時にはポリペイントで目を描き込み、表情はわかりやすいようにしておく



  • 監修で使用した画像がこれだ。チェック時にもっと元気に口を開けてほしいというコメントがあった



  • 口の形状を大きく開ける方向で修正を行い、完成した別顔

AIKATSU 003-3:髪の毛

後ろ髪を作成する


See-throughで資料に合わせながらプリミティブの形状を調整して髪の形を出していく。ある程度髪の形状ができたらZRemesherでリトポし、ポリゴンのながれを整えていく



  • 毛束の複製や反転などで毛束の数を増やすが、単調にならないように徐々に髪のながれを調整する



  • 毛束をマージしてキリっと見せるところ、ぼんやり見せるところの緩急を付け、他のパーツと合わせた後さらに微調整を行い完成となる

AIKATSU 003-4:出力修正

監修時のデータからデジタルとアナログで調整作業を行なった後、その原型パーツを再スキャンしてデータに反映した比較画像



  • 上が元データで、下が調整後に再スキャンした上半身



  • 左から監修時の元データ、調整後再スキャンした画像、表面をデータ上で綺麗に整えスムージングをかけて仕上げた上腕部のパーツ。この後さらに全体的に調整を入れてようやく完成となる

AIKATSU 003-5:完成パーツ


『冬制服Ver.』の基本となる素体パーツのみを表示した状態。『星宮いちご』、『霧矢あおい』、『紫吹 蘭』の3人のベースモデルとなるものだ。しかし『紫吹 蘭』は身長が他の2人よりも高いため、すねのみ3mmほど長くしたパーツを別途用意している


『星宮いちご』に付属されるパーツ一式。『アイカツ!』ファンにはたまらない"おしゃもじをマイクに持ち替えて!"の「おしゃもじ」や、クリスマス恒例行事のツリー伐採の「斧」が付属する。『アイカツ!』ファンなら絶対欲しいマストアイテムとして、担当者がこだわり抜いた付属品にも注目しよう

STEP004 新素体

常識を打ち破った新関節機構っ!

新素体は宮下氏がRhinocerosとZBrushを併用してデジタルで制作したものを一度3Dプリンタで出力し、さらに手加工による検証・機構の再構築をくり返して最終的にアナログ原型として仕上げられたものだ。「新素体のアナログ原型をデジタル化しながら『アイカツ!』のデザインに落とし込む作業は、今回のプロジェクトならではのものでした。アナログをデジタルに置き換える作業は苦労を伴いましたね。本来アナログ原型の魅力というのは"揺らぎ"にあって、きっちり左右対称ではないところにあるのではないかと考えています。でもその揺らぎが意図したものなのかそうじゃないのかという部分は、なかなか推し量れません。例えば、アナログ原型の素体の状態だと、関節が正位置だと思ったところからさらに曲がることがあります。それが意図したものかどうかの判断が難しいのです。それをCGに置き換える際に、どう汲み取るかはさらに大変です。単純なデジタル化だけならスキャンするだけですけど、フィギュアにする際はそれだけでは通用しないのです」と長汐氏。

新素体は今までにない特徴をいくつも備えている。例えば肩周りなどでは可動域を広げるために関節を引き出す構造があるが、新素体は引き出すとそこにカバーパーツが追従してくるしくみとなっており、関節を引き出しても関節の隙間を補完し、隙間なくラインが繋がるようになっているのだ。通常クリアランスを大きくとるとよく可動するようになるが、その分関節部分に大きな隙間が発生してしまう。特に美少女フィギュアの場合は大きく空いた隙間は見た目に好ましくない。これまで隙間を出さずに動く可動フィギュアの作成は非常に困難と言われてきたが、この問題を見事に解決したのだ。「ここには同じS.H.Figuartsの『仮面ライダー』シリーズで培ってきた技術が入っています。『仮面ライダー』の衣装はピッチリとしたスーツだから隠すものがないため、ラインを誤魔化せませんから。従来は引き出して可動域を広くしていましたが、その分股などに大きな隙間が発生してしまいました。そこでどうしたら隙間が発生せずに綺麗に可動するかをずっと考えてきました。その結論が、足や肩のラインもカバーで綺麗に繋がる新素体です。非常にハードルが高い挑戦でしたが、バンダイらしい新素体が出来上がりました。この新素体はS.H.Figuarts『ボディちゃん』という商品として4月に発売を予定しています。S.H.Figuarts『アイカツ!』シリーズではその新素体を美少女に移植した新たな美少女可動フィギュアシリーズです」と木村氏は語る。

AIKATSU 004-1:新素体のデジタル化



  • 新素体の基となったアナログ原型。この機構を組み込んだ初期の『いちご 冬制服ver.』の原型は、生産工場より「できません!」と一度断られてしまったほど非常に繊細な内部構造をもっていた。これをスキャンしデジタル化していく



  • 原型を分解した状態でスキャンした状態。素体に使用されたパーツは全部で61ある



  • こちらは原型を組んだ状態でスキャンしたもの



  • パーツの軸や表面を綺麗に整え、デジタル上で組み上げた新素体の完成モデル。嵌合部の隙間や各パーツのニュアンスを整え、肩のカバーパーツの形状変更などを行なったことで均整がとれ凛とした印象になっている

AIKATSU 004-2:洗練されたラインと可動域

(左)従来の素体は肘や膝裏の関節が1軸の構造となっていた。それだと膝裏など本来は細くなるところで軸の部分が大きく出っ張ってしまう。しかし関節部分の分割線はできるだけ少ない方がよいため、今までは業界的にも1軸が基本とされていた/(右)新素体はそれを解消すべく、内部機構と関節形状を考え抜き、分割ラインも目立たない2軸構造を肘や膝に採用した。これにより、関節をまっすぐに伸ばした際にも出っ張りが発生せず、綺麗なラインに見え、さらにこれまでより深く曲げられるという大きな成果をもたらした

AIKATSU 004-3:新旧素体の関節機構



  • 従来の素体の展開図



  • 新素体の展開図。肘や膝関節が、従来の素材は1軸であったものに対して2軸になっている。ほかに胸部の可動領域も大きく変更されており、この図を見ただけで従来品とは異なる構造になっていることが一目瞭然だ。理想的な関節機構のひとつの答えがこの新素体にはあるのだ

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仕上げ

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STEP005 仕上げ

『アイカツ!』好きによる『アイカツ!』好きのためのフィギュアっ!

出来上がった新素体の関節機構をいよいよ『アイカツ!』のフィギュアに移植する。「アナログの新素体をスキャンした後、関節をGeomagic Freeformに読みこんで表面を綺麗にしていきます。スキャンも一度では終わりません。まず新素体を組み立ててマスキングテープで固定した状態でスキャンします。その後、パーツを全てバラバラにして再度スキャンします。スキャンすると位置情報がデータ上と微妙にズレてしまいますので、マスキングテープで固定して撮ったスキャンデータをアタリとして、これが正位置だというところを決めてから個別に撮ったパーツをデジタル上で組み立てていきました。後はデータをいじりつつ、どのくらい曲がるかを感じながら調整して仕上げます」と三橋氏。

関節は新素体からの流用となるが、本作のキャラクターに合わせて肩幅を狭くし、強度と渋みを確保するために胸部のボールジョイントの形状を変更し、膝の角度や足首のジョイント軸の位置と形状を調整して足を綺麗に閉じられるようにするなど、『アイカツ!』シリーズに転用するための変更点は多く存在する。新素体の基本的なコンセプトは変えないように、使用する関節機構をキャラクターに合わせて再調整していくのだ。「デジタルによってつくり方は変わり進化していますが、調整に関するこのようなアイデアは、実際に手でカシャカシャと触りながらでないと出ないと思います。そういった意味でもアナログの経験なり視点なりは必要です。デジタルフィギュアといえど手で触ることは大事なのです」(木村氏)。また「今作は『アイカツ!』好きによる『アイカツ!』好きのためのフィギュアです。『アイカツ!』好きじゃなくても動かしてみるとどの角度からもかわいくて、こんなに動くのかと、触れば触るほど良さを感じられると思います。ぜひ手に取って楽しんでいただきたいですね」とバンダイコレクターズ事業部の大木美寿紀氏も語ってくれた。

AIKATSU 005-1:関節の移植



  • 読み込んだパーツは作業の都合上、中央の関節を基点に正面方向から垂直になるよう移動と回転を行い、左足中心に進められた。灰色はオリジナルデータをそのままインポートしたもので、緑色は作業上移動したもの



  • その後、太ももとすねのパーツの移動と回転を行い、太ももとの干渉部分の削りを平均的にした



  • 2軸の機構をもつ関節は3パーツで構成されており、その全てにおいて変更を加えていく。変更点は以下の通り。①もも側の回転軸の抑制②もも側に刺さっている部分を中心から回転できるように加工③すね側の回転軸の変更④受けパーツとすねの関節パーツの形状の変更



  • すね側の軸を中心に0~125度回転できるように関節を調整した。足を曲げたときのみすね側の膝頭が入っていた部分にスペースができることにより、もも側の軸を中心に0~-10度回転することで膝のつながりを良くしている

AIKATSU 005-2:工場修正と出力品チェック


修正指示が書かれたメモ書き。肩の接着面積を増やすための構造変更と、各関節に使用するジョイントの形状や角度に関して、見た目と遊び方両方の視点から細かい指示が入っている



  • 胸部の関節機構の変遷。手順は①胸部上面の肉厚を増加し、接合を変更②胸部内部の関節機構を3軸構成から2軸構成に変更し、ボール受けをドーナツ型から半球に変更③ボールジョイントの拡大と胸部前面の接合部分を変更



  • 腕を曲げたときに関節と上腕が接触する部分がゆるいため、関節が抜けやすくなっていた。そこで腕を曲げたときに発生する干渉の軽減を行うため、上腕を削り、腕がより曲がるように変更している


首関節のボールジョイントを差し込みタイプに変更した。それに伴い、後頭部の接合部とあごを曲げるためのクリアランスも調整している

AIKATSU 005-3:出力品と完成モデル



  • 途中経過の仮出力品。簡易的な出力でも実際に出力をしてみなければ正解が見えない。実際に手で触れることは非常に大切だ。「チェック時には画像も送りますが、基本的には出力したもので長汐氏とやりとりしていました。仮出力に使用した3DプリンタはObjet Edenです。精度は高いですよ」(三橋氏)。「特にバランスをみるときは使いますね。頭をちょっと大きくしてとか、髪の毛を小さくしてとか、手を少し大きくしてなどは可動する必要がないので、無垢の状態で出して確認します」(木村氏)



  • 『いちご 冬制服ver.』の完成組み立て図。手の差し替えパーツや付属パーツも表示されている


『いちご 冬制服ver.』のパーツの展開図。3Dプリンタでの出力時には、総点数と各パーツの形状確認に使用することもできる。今回作成した『いちご 冬制服ver.』の原型パーツ数は全部で83パーツとなる

STEP006 制服からドレスへ

『冬制服Ver.』から『ソレイユVer.』へドレスアップっ!

『冬制服Ver.』の制作が進む中、次のアイテムとして3人の『ソレイユVer.』の企画がもち上がり、イベントでの参考出展を目的とした原型制作を筆者、永岡 聡が担当することになった。『ソレイユVer.』を選んだ理由は「劇中においてみんなが大好きなユニットであり、ライブでも楽曲『ダイヤモンドハッピー』は盛り上がります。何より一番パワーが強く、商品としても次の展開が想定しやすいことから選びました」と木村氏。

『ソレイユVer.』を制作する前に商品仕様の資料と共に長汐氏より『冬制服Ver.』のSTLデータを全て提供していただき、素体の骨組みは流用する方向で進めた。使用したソフトは主に3ds MaxとZBrush。同じ素体を寸分の差もなく、そのままデータ共有できることはデジタルならではの強みと言えるだろう。3ds Maxは全体のモデリングとパーツ分割や嵌合部の制作に使用し、ZBrushは『冬制服Ver.』のパーツから形状変更できる部分での作業とSTLへの書き出しに使用している。

2つの衣装デザインは大きく異なるが、シリーズとして統一性をもたせられるように頭身のバランスは変更せず、しかしステージで登場する華やかな衣装であることからボリューム感や装飾はできるだけ再現するように意識した。『ソレイユVer.』の衣装は形状もデザイン柄もフィギュア化するには複雑であったことから、あらかじめ可動箇所を見越し、どのようなパーツ形状にするか検討も重ねている。特に首まわりでは、『冬制服Ver.』の制服分の厚みが『ソレイユVer.』では素肌となるため、制服の厚み分を薄くする必要があった。しかし可動部位で内部構造もあるため、女性らしい肩幅と柔らかさを表現することと強度を維持する厚みを確保することの両立は困難であった。そこで、素体を共有していることから構造上同じにしなければならない個所やパーツを繋ぎ合わせるピン形状の太さや角度を『冬制服Ver.』に合わせて作成し、強度が足りず折れてしまわないように配慮している。そして『冬制服Ver.』へ簡易的にローポリゴンでモデルを乗せて、可動が入る部分を分割していきながら、調整を進めた。

AIKATSU 006-1:初期のメモ

初期段階で参考用にいただいた資料を基に、デザインや可動に合わせ、どこでパーツ分けをするか、『冬制服Ver.』からの変更点はどこかなど、あらかじめチェック事項を書いたメモ書きのひとつ。デザインに合わせてモールドを掘るか、印刷やデカールでの対応とするかなど、できるだけ具体的に記した。バンダイ側のメモへの回答を受け、分割ラインを決めた後、仕様に合わせてモデリングを開始する


AIKATSU 006-2:モデリングの準備

『冬制服Ver.』のSTLデータを全て3ds Maxに読み込む。軸はすでに揃っていたため、組み立てはスムーズであった。使用するパーツや参考用のアタリパーツを必要に応じて表示/非表示できるようにレイヤー分けを行う。必要なパーツにはキーフレームを打っておき、次のフレームで形状確認やモデリングがしやすくなるよう、位置や角度を調整して準備を整える


AIKATSU 006-3:素体を共有するための調整

本作は素体を共有しているため、新作パーツもできるだけ同じ組み立てができるように配慮する必要がある。衣装デザインは大きく異なる部分が多いため、全て同じとはいかないが、構造上で同じにしなければならない箇所を優先的に作成した後、『冬制服Ver.』のパーツを参考に必要なピンの太さ、長さ、角度を調整して配置した。後は必要に応じてオリジナルの嵌合部分も作成していく


AIKATSU 006-4:3ds Maxでのモデリング


モデリング時は必要な素体の骨組みのみを表示し、骨組みに干渉しないようスペースを確保しながら作業する。スカートは裾の厚みを薄くしながら腰部分の厚みを確保できるように調整を行なった。フリルは量産を見越し、タンポ印刷が可能になるよう柔らかい印象を損なうことなく凹凸が出すぎないように形状を整えている



  • 前腕部のパーツはほぼ『冬制服Ver.』と同じだが、『ソレイユVer.』では肌が露出するため、強度が必要な関節部分の太さは変更せずに、腕の印象が少し細くなるよう調整している。また袖部分が共に別パーツとなるため、ストッパーの形状に合わせで抜型を作成し、袖パーツをモデリングした後、その抜型をProBooleanで抜き出して嵌合部を作成した



  • ブーツでは、すねの長さや形状の雰囲気が『冬制服Ver.』と同じになるようにおおまかなベースモデルを作成した後ディテールを整えていく。膝の嵌合部は『冬制服Ver.』がそのまま使用できるように、必要な部分を切り出して『ソレイユVer.』のブーツと合わせる。足首の嵌合部はブーツらしい太さで足首が見えすぎないよう長くなっているため、『冬制服Ver.』をアタリにして抜型をつくり嵌合パーツを作成した

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修正

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STEP007 修正

ZBrushでの調整と書き出しっ!

素体の内部構造以外に『冬制服Ver.』のパーツを共有しながら『ソレイユVer.』ならではの調整が必要となるパーツには、ZBrushを使用した。例えば星宮いちごの『冬制服Ver.』の髪の毛には象徴的なリボンが存在するが、『ソレイユVer.』では装飾の着いたカチューシャとなり、嵌合個所やデザインが異なる。同じパーツをそのまま利用しながら凹凸の形状を変更しなければならないこのような部分では、粘土のように形状をブラシで変更できるスカルプトツールが非常に有効だ。スカルプト以外でもZBrushはSTLパーツの書き出し作業で役立った。『冬制服Ver.』の素体と齟齬が発生しないよう確認を兼ねていたこともあるが、書き出し時に必要なパーツのみSTLファイルに一気に書き出すことができることもZBrushを使用した理由である。書き出したSTLファイルは「MiniMagics 3.0」「MoNoGon」両方のソフトを使用してエラーチェックとスケール確認を行い、問題がなければ完了とした。

「今回のように横のつながりで制作会社が連携して制作することは珍しい経験となりました。それぞれの良きところで仕事ができたと思います」と長汐氏。「今回のようなケースは非常に重要だと考えています。デジタルとアナログのやり取りは、われわれ企画側がハンドリングするよりチームとして直接やり取りした方がスムーズに上手く良いものが出来上がると実感しました」と木村氏。筆者としては、すでに素晴らしいモデルのベースができていたところからデータを引き継がせていただけたので、後はいかに華やかなステージ衣装をフィギュアとして再現するかに注力できた。今回の『アイカツ!』プロジェクトではそれぞれのアーティストが得意とする部分が十分に活かせるチーム環境があり、そこに参加させていただけたことが何より良い経験となった。なお、『ソレイユVer.』に関しては鋭意企画が進行中であるので、続報を楽しみにお待ちいただきたい。

AIKATSU 007-1:ZBrushでのモデリング



  • 『冬制服Ver.』は大きなリボンが頭のてっぺんで結ばれているため、後ろ髪パーツにリボンをはめ込んでいるが、『ソレイユVer.』ではカチューシャとなり、前髪パーツに飾りを移す必要があった。そこで前後の髪パーツを読み込み、後ろ髪パーツのリボン部分を平らにならしてリボン穴を埋め、前髪パーツにカチューシャのバンド部分を新たに作成した。その後飾りを別パーツではめ込むことができるように嵌合部を作成するが、前髪パーツの厚みはそれほど大きくないため、飾りを差し込む部分は強度を考えて無理のないギリギリの調整を行なっている



  • 『冬制服Ver.』の上腕パーツは制服のシワの凹凸が表現されているが、『ソレイユVer.』では肌が露出されている上、二の腕部分に衣装のフリルが入るデザインとなっていた。そこで肩や肘の嵌合部分をそのまま使用できるように、上腕パーツを読み込んで制服のシワをいったん均等にならし、形状を整えてベースパーツを作成する。そこから制服の厚み分をなくして女性らしい肩に見えるように形状を細めに調整、最後に衣装のフリルを追加し凹凸をブラシで整える。このフリルは脇で胴体と繋がっているデザインのため、脇の付け根まで一体感が出るよう調整するのがポイントだ

AIKATSU 007-2:完成と比較



  • 『冬制服Ver.』と『ソレイユVer.』を並べた比較画面。衣装デザインが異なってもシリーズとしの統一感、同じキャラクターであることがしっかり認識できるように各部位の長さやニュンアスを整えている。また『ソレイユVer.』はステージ上でより華やかな印象となるように、衣装のボリューム感を常に意識した



  • 『ソレイユVer.』の完成イメージ。



  • モデルの完成後、全てのパーツをZBrushに読み込み、最終確認とZpluginの3D PrintExporterを使用して全てのパーツをSTLフォーマットで書き出す



  • 3-ExportのSTLボタンで表示されているパーツを一気に別々のSTLファイルとして書き出すことが可能だ。その際、SubToolパネルのパーツ名がそのまま反映されるので、defaultのままになっているパーツがあれば画像のように名前を書き替えておくといいだろう


『ソレイユVer.』のパーツ展開図。『冬制服Ver.』と共通して使用する緑のパーツ数は52パーツ。『ソレイユVer.』のみで使用するピンクのパーツ数は33パーツとなる

EVENT「TAMASHII NATION 2015 舞台」

こだわりのステージもデジタルですっ!

昨年10月30日(金)から11月1日(日)にかけて、秋葉原UDXおよびベルサール秋葉原の2会場で「TAMASHII NATION 2015」が開催された。"TAMASHII NATION"とは、多数のフィギュアが発表・展示されるバンダイ コレクターズ事業部主催の非常に大きなイベントである。その中のヒロインフィギュアコーナー正面にはスターライト学園を再現したジオラマが用意され、『星宮いちご』、『霧矢あおい』、『紫吹 蘭』の『冬制服Ver.』の3人と、初お披露目となる『ソレイユVer.』の3人の参考出品がそれぞれ展示された。背景には劇中のライブで歌われた『ダイヤモンドハッピー』のステージも再現されていた。実はこのジオラマも、ほとんどデジタルによって制作が進められている。

「いつもだと手でプラスチックを切るなどしてイチからセットをつくっていますが、今回はCG上でモデリングして3Dプリンタで出力しています。3Dプリンタは所有しているObjet Edenを使用し、仮出力と同じ状態の無垢で出力してそれに塗装を施しました。骨組みも簡単なもので、つくりとしてはシンプルにできていますが、"愛"ゆえに観覧車も動きますし"コーヒーカップは回らないんですか?"、"メリーゴーランドは?"、"モニタは?"と様々なものを作り上げていきました。ある程度時間はかかっていますが、デジタルを使ったことでイチから手でつくるより早く作成できましたね」と木村氏は話す。

現在も絶賛進行中であるS.H.Figuarts『アイカツ!』シリーズについて木村氏に感想を聞くと「個人的に『アイカツ!』のキャラクターをずっとやりたいと思っていて、別途新素体もつくりながら、美少女をバンダイらしいやり方でかわいくできないか試行錯誤しながら取り組ませていただきました。今作は新素体の機構でつくる初のS.H.Figuartsシリーズの美少女フィギュアとなります。今までの素体とは考え方が異なるフィギュアになっていると思いますので、ぜひ手に取っていただければと思います。企画的にわがままを言って、そのわがままを実現してくれるアーティストたちに頭が上がらない状態ですね」と話してくれた。

AIKATSU:CGモデル(小物)

『ダイヤモンドハッピー』のステージがそのまま再現されたこだわりのステージは、イベント会場で多くのファンの注目を浴びていた。各アイテムにはモーターが組み込まれており、全て可動するしくみだ



  • ステージ上のコーヒーカップ



  • フィッティングルームは『アイカツ!』カードをセットすることでカード衣装を着ることができる重要な装置である。確認できる情報から可能な限り再現性にこだわった一品だ

ステージ後ろのメリーゴーランドも観覧車ももちろん可動する



  • 両サイドに配置されたモニタには小さな液晶が組み込まれており、『ダイヤモンドハッピー』のライブ映像がくり返し流され、華やかなステージを一層盛り上げていた



  • ソレイユの3人が乗ったステージがこちら

AIKATSU:ステージ



  • 展示全体のレイアウトを検討しながらモーターの組み込みを前提としたステージ全体の設計を行う。外形のモデリングにはRhinocerosとSOLIDWORKSを使用し、全体で約2週間の制作時間を要した。劇中ではかなり大きなストラクチャーとして描かれているため、窮屈にならないようにできる限り大きく、そのバランス感を大事にしたこだわりのステージとなっている



  • 実際に会場で展示されたときの写真。使用した塗料はアクセル塗料で、着彩にかかった期間はステージ全体で4日間。原作やキャラクターの雰囲気に合わせた色味を再現するように「できるだけポップで賑やかに」をテーマとして作成されている



  • S.H.Figuarts
    『星宮いちご』(中)
    『霧矢あおい』(左)
    『紫吹 蘭』(右)

    ※各、冬制服Ver.
    シリーズ:S.H.Figuarts
    原作:『アイカツ!』
    発売予定日:
    2016年5月27日(金)『星宮いちご(冬制服ver.)』
    2016年6月 『霧矢あおい(冬制服ver.)』
    2016年7月 『紫吹 蘭(冬制服ver.)』)
    価格:5,400円
    対象年齢:15歳以上
    全高:約130mm(『星宮いちご』&『霧矢あおい』)、約135mm(『紫吹 蘭』)
    材質:ABS、PVC製
    tamashii.jp/heroine_blog/aikatsu


  • 製品名:『ボディくん』、『ボディちゃん』

    シリーズ:S.H.Figuarts/発売:2016年4月
    価格:4,320円(『ボディくん』&『ボディちゃん』、それぞれPale orange ColorVer.)、6,480円(『ボディくん DX SET』&『ボディちゃん DX SET』、それぞれGray Color Ver.)
    全高:約150mm(『ボディくん』)、 約135mm(『ボディちゃん』)
    材質:ABS、PVC製
    tamashii.jp/special/body_kun
    ©BANDAI



  • 月刊CGWORLD + digital video vol.213(2016年5月号)
    第1特集「メカCG究極テクニック2016」
    第2特集「デジタル造形アラカルト」ほか

    定価:1,512円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:144
    発売日:2016年4月9日
    ASIN:B01BVS06KI