これまで首都圏を中心に都市部への集積が続いてきた日本のCG業界だが、近年、地方行政における誘致活動の動きと相まって、新拠点を検討をするコンテンツ企業・クリエイターも増加中だ。本連載では、自分たちが好きな場所で働くクリエイターにフォーカスをあて、その暮らし方や業務スタイルを紹介する。

第1回は東京やスペインを拠点にコンセプトアートを手がけるWACHAJACKの京都スタジオを取材。京都にコンセプトアートスタジオ アトリエタヌキを設立したばかりのJulien Gauthier氏・東條あずさ氏も一緒にインタビューを実施。

なぜ京都という選択なのか、京都独自の魅力や、日々の暮らしぶりについて伺った。

記事の目次

    海外アーティストとの接点を持てる地・京都

    ▲画面左から、Julien Gauthier氏(アトリエタヌキ)、Matilda Gustafsson氏(WACHAJACK)、東條あずさ氏(アトリエタヌキ)

    ――まずは、みなさんと会社についての自己紹介をお願いします。

    Matilda Gustafsson(以下、マチルダ)
    WACHAJACKで国際関係マネージャーを担当しているマチルダです。
    WACHAJACKは、ゲームや映画のコンセプトアートを手掛けるデザインスタジオです。インハウスアーティストだけで約30人在籍していて、それと国内外のフリーランスアーティストとのネットワークを持つことで、どんな案件にでも対応できるデザインスタジオとなっています。私自身は主に海外のアーティストやクライアントとのイベントの企画を担当しています。

    東條あずさ(以下、東條)
    アトリエタヌキの東條あずさです。
    アトリエタヌキは、昨年12月に京都で夫婦で立ち上げたばかりのスタジオです。私たちはもともとカナダのILMという会社で、アートディレクションやコンセプトアートの仕事をしていました。その後フリーに転向し、Blenderの講師やアドオン開発などもしながら、カナダで同名のスタジオを運営してきました。日本への移住を機に京都にも拠点を設け、新たなスタートを切ったところです。

    ――なぜ京都を拠点に選ばれたのでしょうか?

    マチルダ
    まず、海外アーティストにとっての「魅力的な日本」が京都であることですよね。彼らとのコネクションを持つことを考えると、京都に拠点を持っているというのはとても大きい。また、日本国内のアーティストでも、出身が関西で地元に帰りたいという方も結構いらっしゃるので、そうした要望に対応したいと思いWACHAJACKとして拠点を持つことにしました。

    東條
    私も似たようなものですね。私は出身大学が京都で、京都が大好きになって、親もなぜか京都に引っ越してきてて。それで、コロナ禍以降リモートワークも定着したし、必ずしもカナダに住んでいなくても仕事はできるな、ということで大好きな京都に移住してきました。

    ――京都に拠点を設けるにあたって課題に感じた点や、それをどう乗り越えているかを教えてください。

    マチルダ
    正直、クリエイターや企業同士のネットワーキングの機会やイベントが東京に比べて少ないと感じることはありますね。大阪まで足を伸ばせば多少はあるのですが、数もPRも少ないのもあり、なかなか見つかりにくい印象です。

    東條
    私は、あまり課題を感じないですね。強いて言えば、京都って観光スポットなので海外のアーティスト友達がどんどん遊びにきて、カナダにいたときよりも海外アーティストと会う機会が増えてうれしい半面、人が訪ねて来ることがあまりにも多すぎて仕事に集中できないこともあるので、それは課題といえば課題かもしれないです(笑)。

    「京都は街がコンパクトにギュッと収まっていて、人同士の距離が近い」

    • ▲京都おすすめスポット「出町柳の商店街」
      小さいアーケードなんですけど、ふらっと歩いてるだけでも楽しくて、週1くらいで通ってます。レトロな映画館「出町座」とか、その中の本屋とかカフェとか、ほんと落ち着く感じで。商店街の中にたくさん 古本屋さんもあって、気になる本と偶然出会えたり……。
      あと、たこ焼き屋さん(外カリ中トロでだしがきいてて最高)、昔ながらのお豆腐屋さん、朝引き鶏の鶏肉屋さん、美味しいお寿司が手に入る「えびすや」っていうスーパーもあって、 あと商店街の横のお肉屋さんでお肉もばっちり手に入るし……。なんかもう歩くだけでごはんの献立決まる感じです。
    • あと入口の横にある豆餅が有名なふたば。いつもめっちゃ並んでいるんですが、並んでる人が少ないときは運命だと思って絶対豆餅買います。
      あと、「いせはん」っていう甘味処も商店街の向かいにあって、京都で一番そこのあんみつが好きです。「KYOTOGRAPHIE」っていう写真展が京都で毎年あるんですがそこの関係のカフェで「Delta」って店があって、そこのランチがめちゃくちゃ美味しくて、かかってる音楽とかもよくて もう、ここで1日のんびりして終わっちゃう……みたいなこともよくあります。(アトリエタヌキより)

    ――では逆に、京都で働くことのメリットはなんでしょう?

    東條

    やっぱり、イベントが多く文化的に豊かで、刺激に事欠かないことですね。寺社や季節の行事も多くて、ほぼ毎日何かしらの驚きに出会える。当たり前に装束を着たような人や馬が歩いていたりして、そうしたものから得られるアーティスト的なインスピレーションは大きいと思います。

    • ▲京都おすすめスポット 左京区「哲学の道」

      川に沿って続くこの道は、美しい木々に囲まれており、とても風情があります。
      道沿いには小さなカフェも点在していて、仕事で疲れたときに心をリフレッシュするのにぴったり。自然に癒されながら、ゆったりとした時間を過ごせます。
    • また、周辺には小さなギャラリーも多くあり、アートや創作のインスピレーションを得る場所としてもおすすめです。
      特に春の桜が咲く時期は本当に美しく、年間を通して訪れる価値のあるスポットです。
      すぐ近くには銀閣寺もあり、参道にはたくさんの和菓子やお土産が並んでいて、散策がより楽しくなります。(WACHAJACKより)

    マチルダ
    自然がすぐそばにあるのもいいですね。仕事でストレスを感じるとき、ふと外に出て山が見えるだけでもリセットできる感覚があります。東京よりもゆったりした時間が流れている感じがして、暮らしやすさを実感しています。

    東條
    たしかに、自然がすぐそばでいいですよね。街のサイズ的に自転車でどこにでも行けるから、バスや電車に乗るストレスも感じずにすみますし。マッチーなんて、なぜか京都に来てから別人にでもなったかのようにお酒もタバコもやらなくなったよね!

    マチルダ
    そういえば、私もタバコは吸わなくなりましたね。東京にいたときはやめたいと思いながらやめられなかったのに。ストレスを感じても綺麗な山でも見るだけでだいぶ和らぐし、東京に比べて生活が穏やかになったかもしれない。

    ――京都での人脈づくりやネットワークはどのようにしていますか?

    ▲京都おすすめスポット BASSDRUM京都「出町ガジェット」

    現在、私はBASSDRUM京都のコワーキングスペースで仕事をしていますが、
    実は1階には、北原商店さんによる駄菓子屋があり、毎週月曜日と金曜日の14:00〜17:00にオープンしています。駄菓子屋の懐かしい雰囲気に加えて、ラジオアーティストの方もこのスペースを利用されていて、とてもユニークで魅力的な場所になっています!(WACHAJACKより)

    マチルダ
    オフィスを共有しているBASSDRUM(東京、京都、福岡、札幌、NY、台北などを拠点にするテクニカルディレクター集団)が行うイベントに来るアーティストや企業人と交流を持ったり、地元企業に挨拶に伺ったりしています。あと、大学でのセミナーや会社紹介も行ったりしました。そうした活動を通じて少しずつ関係を築いていますね。

    東條
    私は、カナダ時代にBlenderを教えていた生徒さんが関西にいて、そのつながりでスケッチ会をやったりしています。そこからまた人がつながって、今では定期的なペイントグループもできている感じですね。任天堂さんのような大きな企業があることもあり、関西に住んでいるアーティストはかなり多い印象です。

    ▲スケッチ会の様子

    ――地元や行政との係わりもあったりするのでしょうか?

    マチルダ
    私は京都市内で開催されるイベントに参加し、市役所の方ともよくお会いしています。行政としても、どんどん京都に人が来てビジネスを行ってほしいという考えのようで、ものによっては助成や補助金のようなプログラムもあります

    東條
    そんなのあるんですか!? 

    マチルダ
    調べてみると、いろいろ詳しい情報も出てくるんですよ。まだ広く知れ渡っていないようですが、いろんな制度があるのでどんどん利用して、府外から人が来てくれるといいなと思っています。WACHAJACKとしても、京都に来てくれた方々とコラボレーションができるとうれしいですね。

    ――現在京都に拠点を構えられている両スタジオで、すでに提携や連携などはされているのでしょうか?

    東條
    結構遊んだりしています(笑)。

    マチルダ
    そうですね(笑)。あと、人を紹介してもらったり。今はまだ始まったばかりですが、セミナーを開催したり、メンターをお願いしたり、と発展して一緒にやっていけたらいいね、とよく話しています。

    ――東京に比べて、京都の方が連携しやすいと感じることなどはありますか?

    マチルダ
    東京はすごいんだけど、広すぎるな、と思いますね。京都って、ボリュームはあるけれども街がコンパクトにギュッと収まっているじゃないですか。だから、人と会いやすいし、人と人との距離も近いんですよ。東京でもフレンドリーに接してもらえる機会はあるんですけど、京都や大阪でのそれは、より親近感があって楽しい時間を過ごせるように感じます。


    ――他に京都のおすすめポイントなどはありますか?

    ▲京都おすすめスポット「鴨川」
    毎朝仕事前に歩いて、朝日を浴びながらラジオ体操するのが日課だったりします。
    時間があるときは川沿いに座ってコーヒー飲んだり、スケッチしたり、 何より、季節ごとに少しずつ変わる草花や木の様子を見てるだけでほんと癒されます。本っ当~~~にリフレッシュさせてもらってます。鴨川なしの生活は考えられない……。人が多すぎず、でも静かすぎない、ちょうどいいバランスなのも好きなポイントです。あと、よく母の犬と一緒に散歩するんですが、 犬を通じていろんな犬の飼い主さんと仲良くなれて、「京都で友達ほしいな~」って人は犬との生活おすすめかも、です(アトリエタヌキより)

    東條
    えー、なんだろう……空気が、いいですよ、とか?

    マチルダ
    ご飯もおいしいですよ。東京でも食べられないことはないんですが、東京よりも安いので気軽に食べられます。あと、家賃も安いですよね。

    東條
    町家を改造したような素敵なおうちに住んだりもできますしね。一軒家でもハードル低めに借りられたりするので、ひとり身でも家族でも住みやすいのが京都のいいところだと思います。。サイズ感よし、自然よし、文化よしで人もよしで、あと東京と比べると少し価格が手頃です。京都、大好きです

    ――では、拠点を構えるCG業界人として、同業者や弊誌読者にメッセージなどあればいただけますか?

    マチルダ
    京都に住みたい、地元関西に帰りたいという方がいれば、是非一緒になにかできればいいなと思っております。いつでも連絡をお待ちしております。

    東條
    京都にいらしたらぜひ一緒にスケッチとかできたらうれしいです!アーティスト仲間が増えると嬉しいです。

    ――ありがとうございました。

    TEXT_稲庭 淳
    INTERVIEW_池田大樹(CGWORLD)
    EDIT_遠藤佳乃(CGWORLD)