>   >  エキシビジョンにVR関連出展多数! 360度カメラにVR体験ブースも〜SIGGRAPH 2016レポート<4>〜
エキシビジョンにVR関連出展多数! 360度カメラにVR体験ブースも〜SIGGRAPH 2016レポート<4>〜

エキシビジョンにVR関連出展多数! 360度カメラにVR体験ブースも〜SIGGRAPH 2016レポート<4>〜

<2>次世代HMD、360度カメラ、新感覚入出力など最新鋭のVRデバイス

今回の「SIGGRAPH 2016」では、冒頭でも触れたとおり、以前にも増してVR/AR関連デバイスの出展が目立っていた。HMDでは、キヤノンの産業用AR HMD「MD-10」(キヤノンではMR -Mixed Reality:複合現実感- と呼称している)の完成度が高い。フランスTechVizのブースでは、HMDにキヤノンの「MD-10」、ハンドセットとそのポジショントラッキングにARTの「Flystick2」と「ARTTRACK5」を使用して、「TechViz XL」環境下で、エンジンの組立作業のトレーニングをAR環境下で行うデモを体験できた。キヤノンは、すでに対応を済ませている「Unity」同様に、「TechViz XL」に対してもHMDを対応させるプラグインを提供するとしており、今回の展示はそのアーリープレビューの場でもある。

お値段900万円の「MD-10」の映像出力は、FULL HD解像度、54Hzながらクリアで、光学機器メーカーらしく、現実環境を透過しているプリズムや液晶ディスプレイ部分を拡大しているレンズに、廉価なHMDとは確かな違いを感じる。カタログでも、カメラで撮像した周囲の環境とCGの光軸を一致させる構造によって視差を解消しており、独自開発の自由曲面プリズムにより歪みの少ない映像を実現しているとの触れ込みだ。ただし、TechViz XLの組立トレーニングデモは、現実の環境に依存しない内容であったため、この「MD-10」のウリの部分は、正直言ってまったく体感できなかった。

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いかに「MD-10」の性能に優位な点があるとっても、今となっては低解像度、低リフレッシュレートで、ヘッドドラッキング機能を内蔵しないAR HMDが、自動車や航空機メーカー、建築業といった高価格な商材を扱う企業向けとはいえ、Metaの「Meta 2」やSulonの「Sulon Q」といった廉価で高性能なAR HMDに対して勝負できるとは思えない。50万円を切る価格であったとしても現性能であれば微妙なところだ。TechVizの方も、そのあたりは心得たもので、対応するHMDは「MD-10」エクスクルーシブというわけもなく、HTC「Vive」やOculus「Rift」に対して「TechViz XL」を対応させている

TechVizブースのプロモーション映像で、ひとつだけAR HMD活用のヒントになったのは、グリーンバックでの緊急時の被害を最小限にとどめる訓練風景だ。プロモーション映像を見て、2、3世代先のAR HMDは、当たり前にモーションキャプチャに活用される日が来ると思われた。あらかじめ作成しておいたプリビズをモーションアクターに見せても、ファイナルカットがどうなるかアクターが完璧にイメージしながら演技するのは難しいのが現実だろう。プリビズに使用した3D空間をリアルタイムレンダリングしながらアクターが装着したAR HMDに出力すれば、演技の質が格段に向上する期待が持てる。フェイシャルキャプチャをどうするかの問題はクリアしなければならないが、近い将来のモーションキャプチャでは、AR HMDが活用されると予想する。

初出展社が集められた一角で、わずかに2台だけと非常に簡素な展示を行なっていたのが、IDEALENSの「K2」HMDだ。AndroidOS採用のPC不要で単体動作するデバイスで、重量295gと非常に軽量だ。1080x1200の有機ELパネルを2枚持ち、120度の視野角で90Hzのリフレッシュレートとスペックもスタンダードを満たしている。VRコンテンツのポータルサイトWEARVRと協業しているようで、リリース時には100タイトル以上のVRゲームと1万以上のVRムービーが楽しめるようになる。実際に装着してみたが、出力品質もフィット感も悪くない。先ごろ中国での発売日が9月15日と発表されており、価格は3,499元(約5万3千円)とのこと。会場で価格について質問した際も、未定としながらも非常にチープだとしていたことが裏付けられた。日本での価格や発売日は未だ決まっていないが、そう大きく変わらない価格を期待したい。

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IDEALENSの「K2」は中国発のVR HMD。コストパフォーマンスに優れた製品だ

Emargent Technologyのエリアには、日本発のVR HMD「FOVE」が出展していた。120Hz動作で1度未満の目標アイトラッキングを目指す「FOVE」は、注視点に対して高解像度でレンダリングした結果を割り当てるFoveated Renderingをサポートするとしている。解像度2560x1440、110度以上の視野角、目標リフレッシュレート90Hzと既存のVR HMDを超えるスペックでありながら、Kick Starterの支援金額から推測される$500程度の価格に収まれば普及が期待できそうだ。ただ、未発売のVR HMDのなかには、「FOVE」を超えるディスプレイ性能を有するものもあり、最大のセールスポイントであるFoveated Renderingに関しても、同じくEmargent Technologyのエリアで実際に動くものが展示されていたように、NVIDIA、SensoMotoric Instruments(SMI)、HTCが協業して「Vive」に搭載する動きもあり、リリースを待たずして「FOVE」だけの優位性とは言えない状況となっている。価格面での優位性は保たれると推測されるものの、すでにHTC「Vive」に投資してしまっているユーザーなら、追加のアイトラッキングデバイスの価格次第ではあるものの、わざわざディスプレイ出力に大差のない「FOVE」を買い直すとは考えにくい。Kick Starterのストレッチゴールの約束で、Valve'のLighthouseルームスケールポジショントラッキングへの対応をすることになったことにも良い面と悪い面がある。HMDにポジションを検出するセンサーは搭載されるのはいいとして、HTC「Vive」のようにベースステーションやハンドセットがお値段据え置きで同梱されるわけではなく、ポジショントラッキング対応となったがゆえに追加の投資をせざるを得ないのかも知れない。価格面での優位性は縮まる方向だ。

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開発中のプロトタイプと今般発表された「FOVE」の新デザインポスター

もうひとつ、今度はVR Villageのエリアから紹介したいのは、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科によるシナスタジアスーツ(共感覚音圧スーツ)だ。出展者には同校の特任教授でもある水口哲也氏が名を連ねており、今回の「SIGGRAPH」出展にあたり、「Rez」をフィーチャーしながらも着脱が容易なスーツを持ち込んだということだった。ブースには、「Rez」そして「Rez Infinite」のファンが多く訪れており、26個のアクチュエーター(振動素子)が仕込まれたシナスタジアスーツと「Playstation VR」を装着して「Rez」の世界に没入できる環境のほか、周囲に配置された丸いお立ち台にも音圧を感じることだできるアクチュエーターが仕込まれており、「Rez」を体感できた。

共感覚そのものがVRかと言われると微妙なところだが、視覚によるVR体験者をさらに高揚させる装置として有効に機能していたように思う。VR出力デバイスと言えば、1にHMD、2に3Dサラウンドサウンドといった、現実がそこにあるかのようなリアリティを追求するものが多いなか、VRコンテンツが「Rez Infinite」であったからこそ、すっぽりとハマった出展であったと言えるだろう。

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「Rez Infinite」とシナスタジアスーツの融合は「SIGGRAPH」に新感覚のVR体験をもたらした

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その他のExhibition展示として、先の「RealTime Live!」レポートでも紹介したGoogleの「Tango」がブースを構えていた。ブース面積の割にはいたってシンプルな展示で、さほど大きくはないディスプレイにデモ映像を流しているだけで、あとはブース内の広い空間に招き入れ、Zack Moratto氏が深度センサー搭載タブレットで「Dinosaurs Among Us」のデモと、リアルタイムにブース空間を3Dシーンとしてキャプチャしてレンダリングしてみせるという形式だった。このテクノロジの精度とパフォーマンスが上がれば、安価で手軽な3Dスキャナとしての役割を担うようになるかもしれない

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360度カメラのExhibition展示で好対照となっていたのが、Blackmagic Design、NOKIAといった高級機とリコーの民生機だ。Blackmagic Designは、業務用映像カメラを一通りラインナップして展示を行なっていたほか、VR映像向けに、同社の「Micro Cinema Camera」3〜10台(US$9,000〜55,000価格帯)で構成するカメラリグを最小の3台構成で、「Micro Studio Camera」8台〜42台で構成し16台構成以上では立体視映像も撮影可能なカメラリグを最小の8台構成で展示していた。NOKIAの方は1台で360度映像が撮影可能な「OZO」を展示していた。「OZO」は先ごろ値下げされており、現在の価格は$45,000ドル(約452万円)。対してリコーは、昨年10月に販売開始した上位モデル「THETA S」のみを展示すると共に、会場限定価格$329.95(約3万3千円)で販売していた。「THETA S」には手ぶれ補正機能がないものの、ホビー用360度カメラとしてコストパフォーマンスに優れ、カジュアルに360度写真や動画が楽しめる

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VR入力デバイスで目を引いたのは、中国XIMMERSEのVR向けのトラッキングシステムだ。HMDに取り付けて、ハンドジェスチャーやハンドセットの3軸回転と位置を検出する「HAWK」INSIDE-OUTステレオカメラ、部屋の壁に取り付けて、90度4メートル以内のポジショントラッキングを行うOUTSIDE-INステレオカメラ、専用の「X-COBRA」ハンドセットがショーケースのなかに展示されていた。ポジショントラッキングをする必要がないなら、OUTSIDE-INステレオカメラを省略することも可能で、その場合のINSIDE-OUTステレオカメラ1台と2台のハンドセットの構成で$140程度の販売価格を予定しているとのことだった。障害物による遮蔽や検出精度、レイテンシに関して、2台のベースステーションを設置するLighthouse方式と比較してデメリットがありそうだが、なによりKinect同様のステレオカメラは軽量コンパクトで設置に困らない

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<3>有力出展社不在で精彩を欠くゲームエンジン、ミドルウェア

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