<3>クオリティ90%で制作単価50%をめざす
ここから講師は同社ゲームエンジンチームの高橋聡氏とディレクターの加治佐興平氏にバトンタッチされ、制作現場からみたゲームエンジンの活用について解説された。加治佐氏はゲームエンジンを使用することで、「レンダリングコストの削減と「イテレーションサイクルの高速化「使用ツールの減少に伴うワークフロー簡略化」などのメリットを得られたと語った。
その後、UnrealEngine4を用いて制作された『HAPPY FOREST』と、Unityベースの『THE GIFT』が上映された。前者はVFXアワード2015で先導的視覚効果部門の最優秀賞を受賞するなど、業界が震撼。翌年にUnityを用いて制作された後者では、ストーリー性ももたせた短編として制作され、国内外25の映画祭でノミネート・上映されるなど、高い注目をあつめた。
Real Time Engine Tech Demo - "HAPPY FOREST"
"THE GIFT" (created using "MARZA Movie Pipeline for Unity") 本編
続いてUnityを用いて制作され、UniteTokyo2017で発表された『Ultimate Bowl』の実機デモが行われた。両者はUnityのエディタ上でCGモデルの色を変えたり、被写界深度を変えたりして、即座に結果が反映される点を紹介。データを修正後、即座にリアルタイムCG映像として再生できる様子も示した。加治佐氏は「リアルタイムCGでもプリレンダーに迫るクオリティが出せる」と胸を張った。
Ultimate Bowl 2017
ロボットアスリートのアームカバーの色味をリアルタイムで変化させるデモ。Unity上でリアルタイムCGを制作することで、こうした改善が簡単にできる
もっとも内田氏は、リアルタイムCG映像はまだ発展途上の技術で、さまざまな課題を抱えているという。「きめ細かいキャラクター表現ができない」「派手なエフェクト表現ができない」「肌や髪の毛の質感など、フォトリアルな人間を表現する機能が弱い」などだ。もっとも、これによって得られる効果も少なくなく、内田氏は「クオリティ90%で制作単価50%」を目標に市場を拡大させていきたいとする。
こうした戦略の追い風になっているのが、2017年4月の組織改編でトムス・エンタテインメントの傘下となったことだ。マーザが得意とするフル3DCGをベースに、トムスがもつ豊かな手描きアニメのノウハウをとりいれ、「フル3DCGでもセルルックでもない、新たなクリエイティブをつくりたい」という。その中軸を担うのがゲームエンジンを活用した、新たなCG制作パイプラインというわけだ。
「短編制作を通して得た技術ノウハウをもとに、今後は長編制作に向けたパイプラインを開発してきたい。そのうえでマーザの豊かなアニメーションをリアルタイムに落とし込み、さまざまな案件で課題を克服していきたい」(内田氏)。こうした日本企業の取り組みに、海外(特にゲームエンジンベンダー)も高い注目を寄せ始めている。さらなる取り組みに期待したいところだ。
実際にUnityのシーンファイルを操作しながら『Ultimate Bowl 2017』のデモを見せた高橋 聡氏(左)と加治佐興平氏(右)