>   >  原作絵本の魅力をフルCGで拡張させる!『映画くまのがっこう パティシエ・ジャッキーとおひさまのスイーツ』
原作絵本の魅力をフルCGで拡張させる!『映画くまのがっこう パティシエ・ジャッキーとおひさまのスイーツ』

原作絵本の魅力をフルCGで拡張させる!『映画くまのがっこう パティシエ・ジャッキーとおひさまのスイーツ』

Topic 3 アニメーション&撮影

CGアニメーションとしての確かな進化

本作の魅力は、かわいいキャラクターデザインやポップな背景美術もさることながら、キャラクターたちの子供らしい生き生きとした動きも外せない。ジャッキーをはじめ登場するキャラクターは、頭身が低く、幼児的な動きが多い。『くまのがっこう』シリーズで児玉監督がこだわってきたのが、この幼児特有の動きをどのように表現するかだという。「このような頭身の低いキャラクターの場合、幼児特有のクセを動きの中に入れ込む必要があります。例えばあまり肘を曲げないで動くとか、体重が軽いので重たい動きを付けないとか。たどたどしかったり、転びそうな危うい動きだったり。関節をあまり曲げない状態でかわいい動きが必要になってきます。2017年3月に本作の特報が公開されたのですが、そのアニメーション制作を通じて、ジャッキーたちのアニメーション表現の方向性が定まりました」と本シリーズ特有のアニメーション付けについて児玉監督は語る。だが、この幼児的な動きというのはアニメーターにとっては非常に難しかったという。「このような動きは独特なので、最初のうちは上手いアニメーターほど大人っぽいリアルな動きになってしまいリテイクが多かったですね。そこで、私が中心となってアニメーター自身が担当CUTを演技する様子をビデオで撮影して、どのように動いたら良いのか研究することにしました。頭で動きを考えるのではなく、身体で覚えて動かした方が上手くいきます」と伊藤氏は話す。身体の動きも特徴的だが、本作のキャラクターたちはとても豊かな表情変化が付けられている。D.I.D.としてもこのフェイシャルアニメーションも力を入れてこだわった部分だという。基本的にはモーフターゲットを仕込んでモーファーで変化させているが、ヘルパーを仕込むことでさらに細かい表情変化ができるように工夫された。特に横顔は絵本のキャラクターを再現しようとすると表現が難しく、CUTによっては手付けで変形させるなどして対応している。そして、撮影についても古橋撮影監督を中心にD.I.D.がリードした(T2 studioなども参加)。撮処理で難しかったのは影の表現だったそうだ。「前作ではあまり影がないルックだったので、当初は屋内と屋外で影の色を変える程度で考えていたのですが、今回はグラデーションの影を乗せないといけなかったのは想定外でした」(古橋氏)。3DCGで作成したエフェクトはほとんどなく、木漏れ日などの影や、雨の表現、室内を舞うほこりのエフェクトなども撮影が担当。特に室内シーンのキラキラと輝きながら舞うほこりのエフェクトは、児玉監督がこだわった表現のひとつだ。このエフェクトが入ることで、より空間が強調されて奥行き感のある画づくりがなされている。

最後に、児玉監督は次のように総括してくれた。「企画が始まった当初は、スケジュールがタイトだったため、通常のアプローチでは終わらせることができないというところから始まったのですが、結果的に申し分のないハイクオリティな作品に仕上げられたと思っています。いわゆるアニメではなく、子供向けの"アニメーション"作品には本作のような作画ではなく3DCGを主体とした表現が、今後の市場分野としては非常に将来性や可能性を感じています。ですが、日本人にとってこの分野はあまり制作してこなかったし、まだ不得意な面があるのも事実。本作をつくって、やはりこの分野は積極的にやらなくてはいけないと改めて実感しているところです。通常のアニメとは異なる面が多々あるので制作できるプロダクションが少ないという課題もあるのですが、その意味でも、『くまのがっこう』のシリーズをひき続き制作できればと思います」。

アニメーションへのこだわり



くまのこたちが大きなおひさまのスイーツ用のホットケーキをひっくり返そうと、ハシゴの上からフライパンめがけて飛び降りたが、反動ではじき返されてしまうというCUTのアニメーション作業(上段)と完成形の連番。躍動感あるコミカルな動きに仕上がっている

大きな表情が印象的なCUTの例。村長が孫娘のスーに向かって泣きながら駆け寄るという演技がしっかりとキーフレームで付けられた

CUTによっては、アニメーターたちがその動きを実演した様子をビデオに収録し、リアルな動きやタイミングの参考にされた。「お兄さんくまたちがお菓子をつくる工程をPANしながら見せるCUTを実演した動画です。全ての工程を見えている尺内に収めるには、どれくらいのスピードで動く必要があるのか検証しました」(伊藤氏)

大抜擢された"ほこり"エフェクト

本文でも紹介した"ほこり"エフェクト。登場キャラクターが『ほこりっぽい』と嘆く台詞を受けて、スイーツランドの店内シーンにのみ加える予定だったそうだが、児玉監督が気に入り、キッチンを除く全ての室内シーンに採用されることになった。「AEのシェイプ機能で基となるテクスチャを、明るさちがいで数種類作成しエクスプレッションで回転の設定を加えたものを3Dレイヤーで配置。それを発生源として、ParticularでCUT内にレイアウトしています。合成時にマスクワークで、窓から射し込む光を考慮した位置のみに表示されるように調整しました」(古橋氏)



  • 3D原図



  • 背景美術。本作の背景は全て美術スタッフが手描きしているため、3DCGから原図を出している



  • 背景美術からステンドグラス部分を切り出し、AEプラグインShineでフレア素材を作成



  • 背景にフレアを合成



  • ほこりの基となるテクスチャ素材の例。これらをParticularで画面内に舞い散らす



  • 素撮りの3DCGキャラクター



  • 手描きの背景と馴染ませるためのフィルタ処理(線を拡散させたり、かすかなムラを生じさせる)を施した状態



  • ほこりエフェクトや室内フィルタを合成した完成形

カメラマップでつくるダイナミックなカメラワーク


ジャッキーとミンディが「スイーツランド」のあるフラッペ村にやって来た様子をサイドから捉えたCUT用の背景美術。上手から下手へと6秒間PAN(=ドリー)し続けるため、カメラマップが活用された


カメラマップ用の3ds Maxシーンファイル



  • 本CUTのコンポジット作業UI



  • 以下、各要素ごとに分割した素材の例。手前の街灯と柵



  • ジャッキーとミンディ



  • 中景の建物



  • 村人たち



  • 遠景



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    定価:1,512円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:128
    発売日:2017年10月10日
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