TOPIC 003 セットアップやモーションキャプチャでの新たな取り組み
「今回新しかったのは、モーションキャプチャの収録前に入念にリハーサルをしたことです」と語るアニメーションリードの藤松幸伸氏。普段は現場でリハーサルを兼ねての収録になることが多いのだが、本作では前もって鈴木清崇監督と一緒にセリフを入れた舞台稽古のようなリハーサルが行われた。ここでタイミングをみたり、感情表現を確認したり、詳細な打ち合わせが行われたという。「単なるモーションデータの収録ではなく、芝居をしながらキャラクターをつくり上げる感覚です。仲間内では"エモーションキャプチャ"と呼んでいます」(藤松氏)。
また、本番の収録も特徴的だ。笑の自宅内のシーンでは3DCG内と同じスケールでセットを組んで部屋を再現し、実際の距離でキャプチャをしている。距離感も演技の大事な要素なので、これで現実感も増すという。このほか、アクションパートは日常演技の役者に代わり、アクション専門の役者で収録。日常の芝居がモーションキャプチャであるため、アクションもキャプチャを収録しないと動きの解像度が合わないという。
フェイシャルのキャプチャはボディのモーションキャプチャの後に別撮りで行われた。本作は一部の話数を除き、基本的に「プレスコ」で収録されたが、これが極めて良い結果につながったという。「声優さんのテンションに合わせて役者さんが表情をつくれるし、リップがぴったり合うのでやりやすかったです」と、フェイシャルリードの石塚優一郎氏。その結果、よく感情が表現された表情モーションができ、フェイシャルチェックの際にディレクションをしていた堀部氏が思わず涙ぐんでしまう一幕もあったという。特に今回は鈴木監督からフェイシャルに力を入れたいという要望もあったので、満足できる結果となった。
セットアップについてはなるべくコストを抑える工夫がされている。SHOTGUNと連携してシーンを構築し、さらにシミュレーションをかけてDFエンジンでプレイブラストを出すところまで自動化された。「いちいちMayaを開かなくても実行できます。これで一度レンダリングして、問題がある部分だけ手動で修正するようにしました」とリギング・シミュレーションアーティストの栁澤孝幸氏。そのほかにも、ネクタイについてはリグで最初から垂れるようにセットアップしたり、髪の毛も自動でめり込み回避できるようなシステムがつくられた。
キャラクターのセットアップ
リギングに関しては、シミュレーションをなるべく回避する方向で設定された。揺れものなどはこれまではシミュレーションを行うことが多かったが、本作では最低限に抑えられている
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劇場版に登場するコンドルのジョーのリギング。ひじを曲げた時の筋肉の盛り上がりをリグでつくれるようにするなど、TVシリーズよりも進化しているという
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同じく、MotionBuilderでのリギング
健の普段着のリグ。ネクタイが自動で垂れる仕様になっている
オートシミュレーション
ヒーローものに欠かせない派手でカッコいいマントの揺れは劇中に多く登場するが、効率化をねらい自動的に付けることができるようになっている。SHOTGUNでプリセットを選んで設定を入力すると、Mayaを起ち上げることなくプレイブラストで連番が出力可能で、レンダリングされたものをチェックしながらアトリビュートを調整して仕上げていく。一度かけてみて大きくめり込みがない場合はそこで終了となる。ほかにも会話やアクションなどの多くのプリセットが用意された
1回目で体を突き抜けてしまっても、プリセットの調節で対応可能だ
プリセットは各キャラクターのパーツごとに柔らかさや風の強さ、シーンの種類などを調整できる
ClothやHairのセットアップ
髪や服などもClothやHairを使ってオートシミュレーションで対応可能。TVシリーズの長い制作期間、服や髪の揺れを自動化できた恩恵は大きい。クロスはnCloth、髪はnHairをベースにしている
モーションキャプチャとアニメーション付け
今回のモーションキャプチャの特徴はリハーサルを実施している点。そして、実寸大で制作されたセットだ
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リハーサル風景。役者はセリフを入れて臨む。いわゆる舞台稽古のようなかたちで進み、芝居が付けられていく。毎回、監督を交えて入念に行われた。ダミアン・グレイの特徴的な言い回しも、このリハーサルから生まれている
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笑の家のリビング図面。Maya上でサイズを割り出し、実寸のセットがつくられている。10メートル×15メートルという広いキャプチャスタジオをもつ同社ならでは
MotionBuilderでの作業画面。実寸でキャプチャしているため、位置が自然に合う
フェイシャルキャプチャ
界堂 笑の表情集。絵コンテから特徴的な顔をピックアップして作成された。担当者がちがっても統一がとれ、いわゆるキャラ崩壊が起こらないようになっている
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フェイシャル撮影風景。プレスコなので声に合わせて役者が顔の表情をつくる。精度は高く、収録したそのままでも完成に近いクオリティが得られる
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Maya上のフェイシャル調整画面。目線の動きに意味をもたせるなど、目の演技に力が入れられた
2月24日(土)公開『劇場版Infini-T Force /ガッチャマン さらば友よ』にむけて
- 独自開発のDFエンジン、2Dアニメの親しみやすさを取り入れつつ3DCGの表現力を活かしたルック、そしてモーションキャプチャにおける新しい取り組み。数々の挑戦を経た結果、TVシリーズ『Infini-T Force』は好評を博した。2月24日(土)に公開を控えた『劇場版Infini-T Force/ガッチャマン さらば友よ』のCGディレクターである池田正憲氏は「TVシリーズが良くできていたので、その集大成として取り組みました。特にライティングは劇場版ということでこだわって、ゴージャスな感じに仕上がっています。TVシリーズ12話の、その先を目指した作品です!」と意気込みを語ってくれた。「劇場版はよりシリアスに人間の内面に迫るハードボイルドな作品になっています。ぜひご期待ください」とプロデューサーの吉村氏。ヒーローたちが飛び回る姿に心を躍らせるタツノコ世代のファンも多いことだろう。筆者もまさしくそのひとりだ。そして劇場版には南部博士とコンドルのジョー/ジョージ浅倉が新登場! これは期待大だ!