タツノコプロ創立55周年記念プロジェクトである『Infini-T Force』。『科学忍者隊ガッチャマン』、『宇宙の騎士テッカマン』、『破裏拳ポリマー』、『新造人間キャシャーン』が共に戦うというファン垂涎のストーリーだ。そのメイキングを紹介する。
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 235(2018年3月号)からの転載となります
TEXT_石井勇夫
EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
『Infini-T Force』
原作:タツノコプロ/監督:鈴木清崇/3DCG制作:デジタル・フロンティア/制作:タツノコプロ/製作著作:Infini-T Force製作委員会
www.infini-tforce.com/tv
『劇場版Infini-T Force/ガッチャマン さらば友よ』
2018年2月24日(水)全国公開
原作:タツノコプロ/監督:松本 淳/3DCG制作:デジタル・フロンティア/制作:タツノコプロ/配給:松竹/製作著作:Infini-T Force製作委員会
www.infini-tforce.com/movie
© タツノコプロ/Infini-T Force 製作委員会
STAFF
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前列左より、コンポジットリード・源 良太氏、アートリード・高津絵里氏、リギング・シミュレーションアーティスト・栁澤孝幸氏、フェイシャルアーティスト・高尾翔英氏、プロダクションマネージャー・岸下幸恵氏中列左より、コンポジットアーティスト・松岡利憲氏、エフェクトリード・小宮桂陽氏、バックグラウンドリード・張替 翼氏、バックグラウンドアーティスト・川口 聡氏、キャラクターリード・内野浩次氏、フェイシャルリード・石塚優一郎氏、プロデューサー・吉村剛久氏、キャラクターアーティスト・渡邊千瑛氏、後列左より、エフェクトリード・伊藤 源氏、CGディレクター・池田正憲氏、CGディレクター・堀部 亮氏、R&Dスーパーバイザー・福田 啓氏、アニメーションリード・大澤修一氏、アニメーションリード・藤松幸伸氏(以上、株式会社デジタル・フロンティア)
www.dfx.co.jp
TOPIC 001 オリジナル「 DFエンジン」を活用した制作フロー
タツノコプロが誇るスーパーヒーロー『科学忍者隊ガッチャマン』、『破裏拳ポリマー』、『新造人間キャシャーン』、『宇宙の騎士テッカマン』が結集して大活躍! 大好評のフルCGアニメーション『Infini-T Force』の制作を担当したのは近年『GANTZ:O』(2016)などでフルCGに定評のあるデジタル・フロンティアだ。2017年10月から全12話が放映されたTVシリーズは大好評で、ひき続き2月24日(土)には『劇場版Infini-T Force/ガッチャマン さらば友よ』の公開が決定している。
デジタル・フロンティア初のTVシリーズを制作するにあたって、プロデューサーの吉村剛久氏は「TVシリーズは全部で240分という長さになる。当然、キャラクターや背景などのアセットも今までで最大のボリュームになります。どのようにスケジュール通りに進めていくのかが、ひとつの挑戦でした」とふり返った。ワークフローは基本的には同社が『GANTZ:O』で確立したようなSHOTGUNを中核としたものだが、加えて今回は独自に開発したリアルタイムレンダリングエンジン「DFエンジン」が果たした役割が大きかったという。「DFエンジンはMayaと統合されているために、既存のパイプラインとワークフローがそのまま使えるのが一番大きなメリットです」とR&Dスーパーバイザーの福田 啓氏。Mayaのパーティクルなども使用できる上、UE4やUnityなどとはちがい変換の手間がいらないのが大きいという。さらに、ブラーやビネットなどのポストエフェクトもDFエンジン上で加えられるため、最低限の調整を加えただけの、ほぼレンダリグしたままに近いカットも多かった。「会話シーンを中心に全体の3割ほどは最低限の調整しかしていません。これが大きくコスト対策となりました」と、コンポジットリード・源 良太氏はその性能を評価する。そのほか、リアルタイムレンダリングの特性を活かしたスピーディな最終ルックのチェックやシークエンスのレンダリングなどを実現し、工数の削減に大きく貢献したという。
DFエンジンの開発が始まったのは2012年頃と開発期間は長く、UE4やUnityも検討したが当時のスペックでは満足なものではなかったため、独自エンジンの開発に踏み切ったとのこと。その後、いくつかのプロジェクトで部分的に活用はされていたが、本作で初めてシリーズを通しての運用に至った。満を持しての本格運用というわけだ。
DFエンジンの開発と活用
DFエンジンはMayaのViewport 2.0上で使えるリアルタイムレンダリングエンジンだ。シェーダやライティングを調整するとすぐに反映され、輪郭線にも対応している。Maya上で動くという手軽さが大きなメリットで、チェックなどのために改めてレンダリングをする必要もなく、Mayaで作業をしながらディレクターとのスムーズなやり取りも可能だ。ポストエフェクトも搭載されており、こちらもリアルタイムで確認ができる。今回は会話シーンを中心に全体の3割ほどが、レンダリングしたものに少しカラーコレクションする程度で仕上げられている
被写界深度の調節も可能
DFエンジンを活用した制作のながれ
『GANTZ:O』と同様、本作ではモーションキャプチャが取り入れられている(※詳しくは後述)。制作のおおまかなながれはあまり変わらないが、DFエンジンを活用してコストの削減が図られた
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ショットワーク。シーン構築は自動化されている。画面上の白い丸がライト。基本、背景のライトはベイクされているため、ライティングは背景に合わせてキャラクターのみに行う
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カメラを通したワイヤーフレーム。背景は描き割り
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DFエンジンで確認しながらのショットワーク作業。Viewport 2.0で高品質なレンダをチェックできるので、Mayaのオペレーション的にもなじみやすい
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完成画面。被写界深度も入れてある。当たり前だが、解像度以外はショットワークのときのViewportと同じ見え方だ
レンダリング素材
レンダリング素材が比較的少ないのは、それだけR&Dの段階で細かく詰められているからだろう。素材が少ない方が、尺の長い毎週のTVシリーズではポスト処理のコスト削減につながる
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カラー。反射やスペキュラなどで分けられていない
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ライトマスク。After Effects上でライティングを調整するためのもの。こちらもレンダリングコストの削減に役立ったという
TOPIC 002 キャラクターと背景の作成
本作では現代的にリファインされたタツノコの人気ヒーローたちが、2Dのアニメ的な要素をもった3Dキャラクターとして登場する。この特徴あるルックの開発についてCGディレクターの堀部 亮氏は「2Dのデザイン画をふまえて、どうすればTVシリーズで成立するかを考えました。モーションキャプチャをすることを考えると、セル調よりディテールが入った方が動きと画の整合性がとれます。ただ、TVシリーズということもあり『GANTZ:O』のようなルックではスケジュール的にも難しく、その間を探っていきました」と説明してくれた。一方で、質感を強調しすぎずにマットに仕上げることで、セル調のアニメを見慣れたファンたちにも受け容れられるようなバランスも心がけたという。「シェーディングも、つい普段のクセでリフレクションを入れたくなってしまいますが、抑えました。デザイン画がわかりやすく描かれていたので、その通りにつくった ら良い感じに仕上がりました」とキャラクターリードの内野浩次氏。
背景については、状況に合わせて3DCGとマットペイントが使われている。基本的に室内は3DCGでつくられ、屋外は頻度が高いところ以外はマットペイントだ。バックグラウンドリードの張替 翼氏は「テクスチャをアートチームに描いてもらったり、3Dモデルとマットペイトが互いに近づけるように探りながらつくっていきました。背景の一部だけを3Dにしたり、いろいろと試行錯誤をしたシーンもあります」と工夫を語ってくれた。70年代当時の劇画タッチのアニメを彷彿とさせるこのルックは、オールドファンも歓迎するところだろう。
キャラクターの制作
キャラクターのデザインは既存のイメージをベースに現代的なリファインが加えられている。デザイン画が詳細でわかりやすかったので、その通りにつくれば良い感じに仕上がったとのこと。一般的に、デザイン画に描かれていないディテールはモデラーが考えて足すこともあるが、今回はむしろこれ以上に情報をむやみに増やさないように心がけたという
ガッチャマン
テッカマン
ポリマー
キャシャーン
界堂 笑
劇場版に登場するコンドルのジョー。ブラウンにブルーというコスチュームが渋い
テクスチャ制作とルックデヴ
キャラクターのテクスチャはルックデヴで決められたように、手描きっぽさを強調されている。例えば、金属パーツなどはシェーダでハイライトを入れずに、テクスチャで素材感が出されている。ただし、あまりやりすぎるとゲームっぽくなってしまうので、あえてヘルメットにはシェーダで質感を与えるなど、トータルでバランスがとられている。テクスチャの作成に当たっては、大勢のスタッフで作業しても同じ結果が得られるようにブラシの設定や描き加減を共有するなどの工夫がされた。ツールは基本的にPhotoshopで、一部にMARIを使用
鷲尾 健のテクスチャの一例。金属のテクスチャも描き込みで質感を出している
レンダリング結果。手描きテクスチャと3Dの陰影のバランスが絶妙にとられているのがわかる
「CurveToMesh」による髪の制作
髪はオリジナルの社内ツール「CurveToMesh」でモデリングされている。その名通りカーブから髪のパイプ状の房をつくっていくツールで、太さやプロファイル形状、分割数などを細かく設定してメッシュを生やすことができる。また、メッシュを生成した後も、やはりオリジナルツールの「DF Hairbrush」を使って櫛でとかすようにカーブを変形させてスタイルを編集できる。とはいえ、はじめに一本一本のカーブを丁寧に作成しないと綺麗なヘアスタイルにならないため、キャラクターモデリングの中でも非常に大変な作業だったという
CurveToMeshの操作画面。同じカーブでもボリュームの付け方で印象のちがう髪になる
笑の髪のアップ。丁寧につくられているのがわかる
3DCGとマットペイントによる背景の制作
様々なシチュエーションが登場する本作。主に室内や多く登場する場所は3DCG、屋外や登場回数が少ない場所はマットペイントのように分けられている。3DCGの背景のテクスチャはマットペイントと合うように手描き感を出しつつ描かれており、ときにはマットペイントの担当がテクスチャを描くこともあったという。また、ゲームなどのデータのように、3DCGの背景ではライティングのライトをベイクしてテクスチャに入れ込んでいる。これによりDFエンジンの処理速度が上がって作業速度がアップしたり、連番レンダリングのコストの低減ができたという
3DCGでつくられた渋谷のスクランブル交差点。登場の回数も多く、カメラワークも大きいことが多かったため、屋外だが3DCGでつくられた
マットペイントの背景。マットペイントならではの雰囲気が素晴らしい
背景のライトのベイク
3DCGでつくられた背景ではゲームデータのようにライトがベイクされている
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笑宅キッチンのディフューズのみの表示。IHコンロの前の壁に照り返す照明やカウンターの反射、調理器具の反射などは、シェーダのマテリアルではなく手描きで描き込まれている
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ライティング用の3Dレンダリング。光やオクルージョンで陰影の表情にリアリティが増している
2つを合わせて完成。3DCGに手描き感が良い具合に加味されている
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TOPIC 003 セットアップやモーションキャプチャでの新たな取り組み
TOPIC 003 セットアップやモーションキャプチャでの新たな取り組み
「今回新しかったのは、モーションキャプチャの収録前に入念にリハーサルをしたことです」と語るアニメーションリードの藤松幸伸氏。普段は現場でリハーサルを兼ねての収録になることが多いのだが、本作では前もって鈴木清崇監督と一緒にセリフを入れた舞台稽古のようなリハーサルが行われた。ここでタイミングをみたり、感情表現を確認したり、詳細な打ち合わせが行われたという。「単なるモーションデータの収録ではなく、芝居をしながらキャラクターをつくり上げる感覚です。仲間内では"エモーションキャプチャ"と呼んでいます」(藤松氏)。
また、本番の収録も特徴的だ。笑の自宅内のシーンでは3DCG内と同じスケールでセットを組んで部屋を再現し、実際の距離でキャプチャをしている。距離感も演技の大事な要素なので、これで現実感も増すという。このほか、アクションパートは日常演技の役者に代わり、アクション専門の役者で収録。日常の芝居がモーションキャプチャであるため、アクションもキャプチャを収録しないと動きの解像度が合わないという。
フェイシャルのキャプチャはボディのモーションキャプチャの後に別撮りで行われた。本作は一部の話数を除き、基本的に「プレスコ」で収録されたが、これが極めて良い結果につながったという。「声優さんのテンションに合わせて役者さんが表情をつくれるし、リップがぴったり合うのでやりやすかったです」と、フェイシャルリードの石塚優一郎氏。その結果、よく感情が表現された表情モーションができ、フェイシャルチェックの際にディレクションをしていた堀部氏が思わず涙ぐんでしまう一幕もあったという。特に今回は鈴木監督からフェイシャルに力を入れたいという要望もあったので、満足できる結果となった。
セットアップについてはなるべくコストを抑える工夫がされている。SHOTGUNと連携してシーンを構築し、さらにシミュレーションをかけてDFエンジンでプレイブラストを出すところまで自動化された。「いちいちMayaを開かなくても実行できます。これで一度レンダリングして、問題がある部分だけ手動で修正するようにしました」とリギング・シミュレーションアーティストの栁澤孝幸氏。そのほかにも、ネクタイについてはリグで最初から垂れるようにセットアップしたり、髪の毛も自動でめり込み回避できるようなシステムがつくられた。
キャラクターのセットアップ
リギングに関しては、シミュレーションをなるべく回避する方向で設定された。揺れものなどはこれまではシミュレーションを行うことが多かったが、本作では最低限に抑えられている
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劇場版に登場するコンドルのジョーのリギング。ひじを曲げた時の筋肉の盛り上がりをリグでつくれるようにするなど、TVシリーズよりも進化しているという
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同じく、MotionBuilderでのリギング
健の普段着のリグ。ネクタイが自動で垂れる仕様になっている
オートシミュレーション
ヒーローものに欠かせない派手でカッコいいマントの揺れは劇中に多く登場するが、効率化をねらい自動的に付けることができるようになっている。SHOTGUNでプリセットを選んで設定を入力すると、Mayaを起ち上げることなくプレイブラストで連番が出力可能で、レンダリングされたものをチェックしながらアトリビュートを調整して仕上げていく。一度かけてみて大きくめり込みがない場合はそこで終了となる。ほかにも会話やアクションなどの多くのプリセットが用意された
1回目で体を突き抜けてしまっても、プリセットの調節で対応可能だ
プリセットは各キャラクターのパーツごとに柔らかさや風の強さ、シーンの種類などを調整できる
ClothやHairのセットアップ
髪や服などもClothやHairを使ってオートシミュレーションで対応可能。TVシリーズの長い制作期間、服や髪の揺れを自動化できた恩恵は大きい。クロスはnCloth、髪はnHairをベースにしている
モーションキャプチャとアニメーション付け
今回のモーションキャプチャの特徴はリハーサルを実施している点。そして、実寸大で制作されたセットだ
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リハーサル風景。役者はセリフを入れて臨む。いわゆる舞台稽古のようなかたちで進み、芝居が付けられていく。毎回、監督を交えて入念に行われた。ダミアン・グレイの特徴的な言い回しも、このリハーサルから生まれている
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笑の家のリビング図面。Maya上でサイズを割り出し、実寸のセットがつくられている。10メートル×15メートルという広いキャプチャスタジオをもつ同社ならでは
MotionBuilderでの作業画面。実寸でキャプチャしているため、位置が自然に合う
フェイシャルキャプチャ
界堂 笑の表情集。絵コンテから特徴的な顔をピックアップして作成された。担当者がちがっても統一がとれ、いわゆるキャラ崩壊が起こらないようになっている
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フェイシャル撮影風景。プレスコなので声に合わせて役者が顔の表情をつくる。精度は高く、収録したそのままでも完成に近いクオリティが得られる
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Maya上のフェイシャル調整画面。目線の動きに意味をもたせるなど、目の演技に力が入れられた
2月24日(土)公開『劇場版Infini-T Force /ガッチャマン さらば友よ』にむけて
- 独自開発のDFエンジン、2Dアニメの親しみやすさを取り入れつつ3DCGの表現力を活かしたルック、そしてモーションキャプチャにおける新しい取り組み。数々の挑戦を経た結果、TVシリーズ『Infini-T Force』は好評を博した。2月24日(土)に公開を控えた『劇場版Infini-T Force/ガッチャマン さらば友よ』のCGディレクターである池田正憲氏は「TVシリーズが良くできていたので、その集大成として取り組みました。特にライティングは劇場版ということでこだわって、ゴージャスな感じに仕上がっています。TVシリーズ12話の、その先を目指した作品です!」と意気込みを語ってくれた。「劇場版はよりシリアスに人間の内面に迫るハードボイルドな作品になっています。ぜひご期待ください」とプロデューサーの吉村氏。ヒーローたちが飛び回る姿に心を躍らせるタツノコ世代のファンも多いことだろう。筆者もまさしくそのひとりだ。そして劇場版には南部博士とコンドルのジョー/ジョージ浅倉が新登場! これは期待大だ!