『Got PLANS?』(Marie-France Gilbert/Flying Fries)
アニメーションのBGM&サウンドデザイン部門(SilverJack賞)受賞
Marie-France Gilbert氏(左から2番目)
――簡単に自己紹介をお願いします。
Marie-France:子どもの頃からピアノが好きで、2009年にラヴァル大学に入学し、ÉricMorin教授の指導のもとで作曲学士号を取得しました。その後、大学院に進学して、2015年に修士号を取得しました。研究テーマは「私の最近の作曲における非西洋文化の影響」です。作曲活動も続けていて、今年は特別な年になりました。COGITO de l'Aeliés Competition、モントリオール国際映画音楽作曲コンクール、そしてPixel Challengeと3回も受賞できたからです。私の個人サイトはこちらです。また、YouTubeに作品をアップしているので、良ければ見てください。
――作品をYouTubeで拝見しました。とてもチャーミングな内容ですね。
Marie-France:誰にでも理解できるように、シンプルさを心がけました。見ず知らずの男の子と女の子が、通りを挟んで互いにコミュニケーションをするというものです。そこに、テーマである「パーフェクトストーム」を絡ませました。作曲のモチーフになったのはイタリア映画です。アパートに住んでいる二人が窓越しに話すイメージです。そこでイタリアの典型的な楽器、アコーディオンを使用しました。今回の作品もラブストーリーなので、おもしろくてロマンチックな音楽にしたかったのです。
――Pixel Challengeに参加された理由は何でしたか?
Marie-France:自分の実力を試すためです。Pixel Challengeについて初めて知ったのは去年のことで、UBIのFacebookページで知りました。しかし、そのときはすでに申込み期間が過ぎていました。そこで今年はモントリオール国際映画音楽作曲コンクールの受賞直後に申込みを行いました。ハッカソンのようなイベントに参加したのは、これが初めてです。すばらしい体験ができました。
――テーマを聞いてどうでしたか? 作曲はすんなりと進みましたか?
Marie-France:実は他のチームと掛けもちで参加したので、本作のブレインストーミングには、あまり参加できなかったんです。しかしこのチームのアイディアはすごくシンプルで、わずかしか議論に参加できなかったにも関わらず、とても印象的でした。そのため、様々なアイディアがすぐに沸いてきました。
――ラヴァル大学で作曲について学ぶ学生は、どういった業界に進みますか? ケベック・シティー以外での就職も多いのでしょうか?
Marie-France:これは業務内容によってちがいますね。作曲・編曲・サウンドデザイン・指揮者・研究者など、様々なキャリアが考えられます。その中でもラヴァル大学では作曲科の学生がアニメーションを学ぶ学生とコラボする機会があり、恵まれた環境にあります。もちろん、作曲家自身もそうした業界と繋がるために、様々な努力をする必要があります。私もまたPixel Challengeで多くの人と出会うことができて、良かったです。個人的には海外で働いてみたいですね。世界は音楽に満ちていますから。
――どういったツールやミドルウェアを使いましたか?
Marie-France:作曲面ではFinale Music Softwareを使用しました。その後、楽曲をMIDIデータにエクスポートして、REAPER Digital Audio Workstationにインポートし、編曲しました。他にEastWest Soundsの音源データも使用しています。膨大なデータライブラリがあり、愛用していますね。
チームの方ではMayaをメインに使用し、キャラクターの3DCDモデルやアニメーション制作ではMARIも併用しています。コンポジットはAfter Effectsで、他にPhotoshopも少し使用しました。
――作曲は順調に進みましたか?
Marie-France:だいたいにおいてうまくいきましたが、4~5時間ごとに映像のバージョンが変化するので、対応するのが大変でした。さっきも言ったように、別のチームとの掛け持ちでしたからね。特に最後の15分で、どちらのチームもバタバタと内容が変わりました。中でもこのチームでは、2つのシーンを入れ忘れるというミスがありました。そのため、あやうく3日間の作業が台無しになるところでした。最終的にうまくいって良かったですね。時間がない中で、自分自身でも良くやったと思います。
――48時間でCGアニメが1本つくれてしまうのですね。
Marie-France:私も隣で見ていて驚きました。どちらのチームもラヴァル大学の1年生チームで、Pixel Challengeは初参加でした。その中でも本チームのメンバーは皆、事前によく準備をしていました。みんなで一緒に短期間でつくることで、私自身も様々なことを学びました。3DCG制作にたくさんの高価なソフトが必要になることも驚きでした。それにラヴァル大学のCGカリキュラムは2Dが中心で、学生は自主的に3DCGについて学ぶ必要があります。みな良くやったと思います。もちろん学生なので完璧ではありませんが、誇りに思います。
――受賞の瞬間はどうでしたか?
Marie-France:とても驚きました。私の課題は期間内に2つのチームで、それぞれ1曲ずつ、時間内に作曲することでした。名前が呼ばれて、表彰されて、そこから席に戻って、泣きました。とても疲れていましたが、幸せでした。
――Pixel Challengeをもっと良くするために、何かアイディアはありますか?
Marie-France:初参加だったので、特に何も言うことはありません。ただ、あえて言うなら無線LANが途中でしばらくダウンしてしまったのは残念でした。私自身の作業に影響はありませんでしたが、みな苦労していましたから。それに、もしネットが問題なく使えていたら、もっと最後の修正で時間がとれたと思いますし。
――ケベック・シティー市民であることにアイデンティティを感じますか? ケベック・シティーならでなの映像作品とは何でしょうか?
Marie-France:はい、私は市民としてのアイデンティティを感じています。しかし、世界中を旅行して、自分の音楽を聴いてもらうことも大好きです。ケベック・シティーで良い仕事があれば嬉しいですね。その一方で、別の国でチャンスがあれば、場所にこだわりはありません。ケベックのアニメーションは非常に興味深く、革新的だと思います。ケベック州は多くの才能であふれています。
『Perfect Neighbor』(Dave Gagné/MessengeInABottle)
ゲームのサウンドデザイン部門 受賞
Dave Gagné氏(中央)
――簡単に自己紹介をお願いします。プロのゲーム作曲家ですよね?
David:ゲーム業界には様々な文化・国籍・経歴の人がいますよね。学校を卒業後、すぐに業界で活躍する人もいれば、紆余曲折を経て、気がついたらゲーム制作に巻き込まれていた......なんて人もいます。私自身も後者で、ゲームは好きでしたが、自分が制作に携わることになるとは思っていませんでした。学校で音楽について勉強した後、映像業界でコンポジッターとして働き、その後Sunny Side Upのディレクター兼コンポジッターになりました。同社はケベック・シティーにあるCGスタジオで、多くのゲーム向けトレーラー制作を手がけています。ここで経験を積んだ後、現在はUBIケベックに移籍し、未公開タイトルのプロジェクトでCinematic Designerをつとめています。
音楽はとてもユニークな存在です。それ単体でも作品になりますし、映像の良き伴侶でもあります。自分自身、これまで何度かインディゲーム向けの音楽制作を手がけたこともあります。現在も業務とは別に、あるインディゲームのプロジェクトに参加しています。将来的に仲間たちとインディゲームスタジオの設立も視野に入れつつ活動しています。
――YouTubeでゲームの映像を拝見しました。ガチなアクションゲームなのに、音楽がユーモラスで、そのギャップが印象的でした。
David:私たちの意図がしっかり伝わったようで嬉しいです。ぎこちないところも残っていると思いますけどね。チームメンバーも皆、カジュアルなアクションゲームなんだけど、ちょっとひねったサウンドを求めていました。これは自分にとっても願ったりかなったりでした。
トレーラーだけではわかりませんが、さらなる仕掛けも加えました。対戦して、ラウンドが進むにつれて、音楽やコード進行がどんどんダークな感じに変わっていくんです。これによって、2人のラグドールが真剣に、それでいて、ちょっと間抜けな感じでバトルする様子が、うまく演出できているのではないかと思います。
――Pixel Challengeに参加された理由は何でしたか?
David:今の世の中にはツールや環境が揃っているので、誰でも自分が好きなものをつくれるじゃないですか。ただ、実際に作品をつくるのは大変ですよね。それがPixel Challengeでは、本当に作品制作に集中できるんです。食事もコーヒーも、エナジードリンクも、運営側が用意してくれます。それに周りは才能と情熱にあふれた参加者でいっぱいです。優れた作品を制作する上で、こんな素晴らしい環境はありませんよ。去年初めて参加してみて、そう実感したので、今年もまた参加しました。
まあ、冷静に考えれば、仕事中毒の集まりなのかもしれませんけどね。ただ、一番大切なことは、大量のチームが競争しているときに、自分は評論家の側にいたくなかったということです。結局のところ、これは短期間で集中して行う創作活動であり、エクストリームなスポーツの一種なんです。
――「パーフェクトストーム」というテーマを聞いて、どのように感じましたか?
David:最初はゲーム内で、もっと「嵐」を直接表現する方法を検討していました。そのうちメンバーの1人が、都市を操作して嵐をぶつけ合うというアイディアを思いつきました。そこから都市のゴミを集めて他の都市に送りつけるアイディアになりました。これはけっこういけそうだぞということになり、最終的に街が人になって、家の前の落ち葉やゴミを互いに送風機で押し付け合う内容になりました。
作曲については、最初のうちはそれほど重視していませんでした。ゲームで重要なのはBGMよりも総合的なサウンドデザインですからね。ゴミ箱が風で飛ばされるときの音など、様々な効果音を録音したりもしました。朝の4時に会場のあちこちで、そんな録音をしていたので、バカですよね。みんなゲラゲラと笑いながら作業を進めました。おかげで、とてもおもしろいゲームになりました。
楽曲については最終日にまとめました。メンバーの一人が『SIMS』のサウンドトラックを聞かせてくれました。ボサノバやラテン系の音楽からも、大きなインスピレーションを受けました。これらが渾然となって、モチーフとなりました。
――チームメンバーについて教えてもらえますか? また、他のチームと掛けもちで作業をしましたか?
David:我々のチームは学生とプロが半々でした。学生はプログラマー2名と3DCGアーティストが1名で、みなBart Collegeに所属する、ゲーム開発コースの学生でした。ケベック・シティーの郊外にある単科大学です。
学校側では学生がPixel Challengeに参加することを望んでいました。ただ、希望者が中途半端な規模だったので、2つのチームに分割し、そこにプロがサポートで入る方式を採りました。自分は前からの知り合いがいたこともあり、喜んでそこに参加しました。
その一方で、複数のチームで掛けもちすることは望みませんでした。ゲームオーディオはデータ制作だけでなく、ゲームへの組み込みも重要ですからね。複数のチームに参加すると、それだけ作業時間が分割されてしまうので、1つのチームに集中しました。それが良い結果を生んだと思います。
――ツールやミドルウェアを教えてもらえますか?
David:メインで使ったのはQubecとWwiseで、これは多くのコンポーザー&サウンドデザイナーに愛用されている組み合わせだと思います。他にSteven Slate Drums、Garritan Personal Orchestra、Spectrasonics' Trillian and Omnisphereなどのツールを使いました。他に電子ピアノをエミュレーションするプラグイン、Mr Rayも使いましたね。もっとも、自分は音づくりよりもインタラクティブミュージック全般が好きですし、今回もWwiseを使って、様々な挑戦をしました。他にゲームエンジンはUnity、DCCツールにはMayaと3ds Maxを使っています。理由は簡単で、2名のアーティストがそれぞれ慣れたツールを使いたがったからです。
――作曲中に何かトラブルはありませんでしたか? また賞金(500カナダドル)は何に使いますか?
David:最大の問題はどのGameJamでも同じだと思いますが、時間でした。ゲームはデータをバラバラにつくっておいて、最後に1つにまとめますよね。その結果、うまくいくこともあれば、うまくいかないこともあります。このプロジェクトはだいたいにおいて、うまくいった方でした。いくつかテクスチャが未実装なまま終わった箇所もありますが、けっこう満足しています。
ただ、サウンドについてはちがいます。十分に調整する時間が取れませんでした。ゲームのように操作によって音楽がインタラクティブに変わるメディアでは、操作と音楽の融合は非常に重要です。もう少し時間があれば、もっと良くなったと思います。賞金については......新しいツールやプラグイン、サウンドバンクなどに再投資するつもりです。
――Pixel Challengeの改善案について、何かアイディアはありますか?
David:端的に言って、より広い会場に移行することですね。運営スタッフは、これだけの参加者を閉所恐怖症にさせることなく、効率的に限られた場所に詰め込んだと思います。また、会場には海外からの参加者もいましたよね。数ヵ国だったと思いますが、より国際的なイベントになるのは良いことです。そのためにも、より広い会場が望まれます。
――ケベック・シティーでゲーム業界を成長させるためのアイディアがあれば教えてください。
David:正直に言って、私はケベック・シティーが北米ゲーム業界の大リーグに加盟する段階に達したと思います。ケベック・シティーはかなり小さな街です。しかし、街の規模に対するゲーム会社の比率には驚かされます。ケベック州全体で言えば、すでにモントリオールが重要なポジションにありますが、ケベック・シティーも姉妹都市的な地位に成長したと思います。
その上で業界を成長させるためには、もっと多くの企業を呼び込み、地元の人材を活用する必要があります。既存のスタジオは成長を続ける必要があり、インディゲームのスタジオ数も増やす必要があります。ゲーム業界とケベック・シティーは相思相愛の関係にあります。それはゲーム業界がケベック・シティーで成長するのに重要な要素です。
――あなたはケベック市民としてのアイデンティティを感じていますか? ケベック・シティーらしいゲームとは、どんなゲームでしょうか?
David:ケベック・シティーは旧市街地に、北米でもっと古い時期に建てられた近代建築群を擁しています。北米におけるフランス文化のゆり籠であり、カナダで最高の生活水準を保っています(恥ずかしながら自分自身、その末席を汚しているわけですが)。なんにせよ、我々はケベック・シティー出身であることの喜びと誇りを感じるべきです。
実際、ケベック・シティーは野心的なゲームを世界に提供していると思いたいものです。どこか普通のゲームとちがっていて、そのちがいが強調されているからこそ、世界中にリーチできるのです。これはゲームだけでなく、あらゆる種類のメディアにも当てはまります。ケベック・シティーはテクノロジーが本当に強い都市で、そのことが市場に出回る製品の品質にも影響していると思います。