>   >  Pixel Challengeの作品群に見る可能性と課題~ケベック・シティーのデジタルコンテンツ産業レポート<2>~
Pixel Challengeの作品群に見る可能性と課題~ケベック・シティーのデジタルコンテンツ産業レポート<2>~

Pixel Challengeの作品群に見る可能性と課題~ケベック・シティーのデジタルコンテンツ産業レポート<2>~

<2>参加者に聞く開発のふりかえり


Pixel Challengeのもう1つの特徴は、サウンドとシナリオで個人部門が設定されていることだ。いずれも開発チームと事前にペアを組んでの参加となる(双方が望めば複数チームで掛けもち参加もできる)。特に今年度はシナリオ部門が新設され、3名のシナリオライターが参加した。前編の記事でも紹介したとおり、主催者側でトランスメディア(=メディアミックス)の可能性を重視したためだという。

実際、ゲームエンジンをレンダリングに使用するなど、ゲームと映像の垣根は急速に崩れつつある。ただし、ゲームとちがい映像では、尺を伸ばせばそれだけ制作にマンパワーが必要になるなど、両者は本質的にちがうメディアだ。その一方で同イベントでは、短編といえども物語性を備えた、興味深い映像作品が次々と制作された。ここからケベック・シティーの潜在的な開発力の高さを伺うことができた。

そこでイベント終了後、入選チーム・個人にメールでインタビューを行なった。団体2チーム、個人2名から回答を得たので、ここに紹介する。

『Wannable Gods』(BEYOND FUN)
ゲーム部門(プロ)受賞


Samuel Lapointe氏(中央)

――簡単にメンバーの紹介をお願いします。

Samuel:BEYOND FUNはケベック・シティー在住の3人のゲーム開発者、Samuel Lapointe、Jean-Benoit Guertin、Jonathan Nadeauによるチームです。自分とJean-Benoitはアーケードゲーム開発を手がけるSarbakan Games、JonathanはインディゲームスタジオのCradle Gamesで働いています。

――Pixel Challengeに参加された理由は何ですか?

Samuel:Pixel Challengeのゲーム部門はプロ部門と学生部門に分かれています。自分とJean-Benoitは学生時代に参加経験がありましたが、Jonathanにとっては初めての体験でした。私たちが参加した理由は、楽しい時間を過ごしたかったことと、勝つチャンスがあると信じていたからです。実際、その通りになったでしょう?

――役割分担はどうでしたか?

Samuel:自分とJean-Benoitはプログラマー、Jonathanはアーティストです。 当然ですが、Pixel Challengeでは皆、それ以外のあらゆる業務も担当しました。

――過去にどういったゲームを開発されてきましたか?

Samuel:自分とJean-BenoitはSarbakan Gamesで『Rabbids Shooter』、『Tomb Raider』、『Rampage』、『Crossy Road』などに携わってきました。Jonathanは現在、『Hellpoint』というゲームを開発中です。空き時間には3人で自分たちのゲームもつくっています。『Wannabe Gods』も継続開発して、いつか発売したいですね。

――テーマを聞いてどうでしたか? すんなりと開発は進みましたか?

Samuel:最初は3人ともポカーンでしたね。その後1時間ほど企画会議をすると、様々なアイディアが出ました。ただ、本当にそのアイディアがおもしろいか否かわからなかったので、最初にモックをつくってコアゲームメカニクスをテストしました。その上で、つくっているうちに、どこか薄味だと感じ始めたんです。そこで最後の最後で「トライデント」というボーナスアイテムを加えました。これによって完璧な仕上がりになりました。

――どのようなツールやミドルウェアを使いましたか?

SamuelUnityMayaPhotoshop、それからフリーの波形編集ツールAudacityを使いました。

――開発でトラブルはありましたか?

Samuel:会場で無線LANがダウンする事態がありました。そのため進捗が少し遅れましたが、幸いにも他に大きな技術的課題はありませんでした。全てがスムーズに進みました。

――受賞した瞬間はどうでしたか? また賞金(5000カナダドル)は何に使いますか?

Samuel:チーム名がアナウンスされたとき、みんな狂ったように叫び始めましたね。とても幸せな瞬間でした。泣いている者もいました。賞金はとりあえずお祝いをして、あとは独立資金の一部に充てるつもりです。

――Pixel Challengeをもっと良くするためのアイディアはありますか?

Samuel:年々参加者が増えているので、運営スタッフをもう少し拡充した方が良いかもしれません。また、賞金総額をもっと増やしても良いと思います。それによって、参加者がますます増えるでしょう。

――ケベック・シティーのゲーム産業を発展させるために、どうしたらいいでしょう?

Samuel:インディゲームスタジオを増やすことです。実際、たくさんのゲーム開発者がインディとして起業したがっています。自分の夢を信じて欲しいですね。

――あなたはケベック・シティーの市民としてのアイデンティティを感じていますか? ケベック・シティーらしいゲームとは、どんなゲームでしょうか?

Samuel:私はケベック・シティーの市民としての誇りがありますし、市内には多くのインディゲームスタジオがあります。Cradle GamesSweet BanditsParaboleSabotage StudioBishop Gamesなどです。多種多様なゲームが開発されているので、「これがケベック・シティーのゲームだ」と簡単に言うことはできません。しかし、どのゲームも情熱・技術・才能にあふれた人々によってつくられています。そして、だからこそケベック・シティーでつくられたゲームは皆、おもしろいのです。

『Storm, please』(Pixeliseurs De Challenge)
3Dアニメーション部門(プロ)、アニメーションの脚本部門(Le Clap賞)受賞


Jimmy Labrecque氏(中央)

――簡単にメンバーの紹介をお願いします。

Jimmy:私たちは3名の3DCGアーティストからなるチームです。Viviane BrieはON Animation Studiosで働いています。Anaïs LarocqueはVox Populiで働いていて、自分は求職中です。3人ともケベック・シティー校外にあるCégepde Matane単科大学の卒業生なんですよ。本当はもう一人、参加する予定だったんですけど、結局来なかったんですよね(笑)。

これ以外に、シナリオライターのJean-FrançoisFaucherが後から加わりました。Jeanは子ども向けの書籍やドラマの脚本を書いています。今はフリーランスですが、企業で働く機会も探しています。Jeanは本作でアニメーションの脚本賞も受賞しました。

――とてもおもしろい映像作品に仕上がりましたね。

Jimmy:今回のテーマは「パーフェクトストーム」でしたよね。実際、ケベック州はたびたび、ひどい雪嵐に見舞われます。そこで異星人がどこかの店で雪嵐を購入して、ケベック州に降らせているんじゃないかと考えました。最後に地元住人を代表して、呪いの言葉を付け加えました。

――Pixel Challengeに参加した理由は何でしたか?

Jimmy:みんなで協力して短時間で何かをつくり上げるというPixel Challengeのコンセプトが好きだからです。実際、過去にも参加経験がありました。もっとも、みんな別々のチームだったんですけどね。

――各々の役割分担を教えてください。

Jimmy:みんなでネタ出しをして、アウトラインが決まったら、Jeanがストーリーボードとシナリオをつくりました。自分は3DCGアセット全てと、大半のテクスチャ、そしてレンダリングを担当しました。Vivianeはアニメーションの一部と、映像とサウンドの編集、それからリギングとスキニングも担当しました。リガーで参加する予定だった友人が来なかったので、彼女の仕事になってしまったんです。Anaïsはアニメーションと背景のテクスチャ制作を担当しました。

――テーマを聞いてどうでしたか? すんなりと開発は進みましたか?

Jimmy:まとめるのが大変でしたね。「嵐が友人を連れてくる」という内容から始まって、どんどん変わっていきました。宇宙人というアイディアを思いついたのは自分です。Jeanが全てのアイディアを書き留めて、整理してくれました。

――どのようなツールやミドルウェアを使いましたか?

Jimmy:レンダリングにUnrealEngine4を使いました。Arnoldよりはるかに高速だからです。モデリングは当初Mayaを予定していましたが、リギングの関係で3ds Maxになりました。テクスチャ作成はSubstance Painterです。これによってUE4との連携が容易になりました。コンポジットではPremiereを使用しました。

――開発はすんなり進みましたか?

Jimmy:チームメンバーが一人減ったので大変でしたね。また、3ds MaxとUE4との間で、リグ情報の受け渡しがうまくいかず、大変でした。本当に山あり谷ありで、ジェットコースターのような開発でした。

――受賞の瞬間はどうでしたか? 

Jimmy:Jeanは脚本部門での受賞をねらっていましたが、自分たちはアニメーション部門で賞が取れると期待していませんでした。トラブル続きだったし、無線LANはダウンするし、メンバーは不足するしで、最初から諦めていました。そのため、本当に信じられませんでした。

――脚本部門でも受賞されましたね。

Jean:Pixel Challengeで脚本部門が加わったのは今年からです。そのため参加者数が少なく、自分にも受賞のチャンスがあると確信していました。ただ、脚本部門よりもアニメーション部門での受賞の方が、より価値があります。みんな、本当に一生懸命でした。そのことは間近で見ていた自分が良く知っています。このチームに参加できたことを誇りに思います。

――ケベック・シティー市民であることにアイデンティティを感じますか? ケベック・シティーならではの映像作品とは何でしょうか?

Jimmy:正直、あまり感じたことはありません。ただ、この街には3DCGの技術を生かす機会がたくさんあります。そうした場所に生まれ育ったことは、とても幸運ですね。

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『Got PLANS?』(Marie-France Gilbert​/Flying Fries)

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