>   >  Pixel Challengeの作品群に見る可能性と課題~ケベック・シティーのデジタルコンテンツ産業レポート<2>~
Pixel Challengeの作品群に見る可能性と課題~ケベック・シティーのデジタルコンテンツ産業レポート<2>~

Pixel Challengeの作品群に見る可能性と課題~ケベック・シティーのデジタルコンテンツ産業レポート<2>~

<3>ケベック・シティーがさらなる成長に向けて抱える課題


このように今回の取材ではPixel Challengeや、一連のDigital Week関連イベントなどを経て、ケベック・シティーに秘められた高い可能性を伺い知ることができた。しかし、それと共に地域が抱える課題も浮かび上がってきた。それは教育と雇用のミスマッチだ。

実際、本レポートの前編でも、Québec Internationalの広報担当、Sylvie Fortin氏の「企業が求めるレベルまで、教育機関が学生を育てられていないのは事実で、重要な課題の1つ」というコメントを紹介している。もっともPixel Challengeの取材を経て、学生の制作スキルは決して低くないと感じられた。

にもかかわらず、こうした市の担当者からこうした見解が示される背景には「学生数に対して地域の企業数が少なく、雇用者数に限界がある」うえに、「大手スタジオには世界中から求職のオファーがあるため、あえて地元学生を採用するメリットに乏しい」という事情がある。そのため地元の学生は、ケベック・シティー以外の企業(ときには海外企業)を視野に入れて、就職活動を行わなければいけないのが現実だ。

前述のDave Gagné氏も「地元のゲーム開発者教育のレベルは高いが、学校で知識は教えられても、経験を教えることはできない。その一方で企業は採用時、スキルとともに、過去の経験を重視する。そのため業務経験のない学生にとって、一般的に不利に働く」と説明した。だからこそ、より多くの企業を呼び込み、地域企業の持続的な成長を続けて、求人数を増やすことが、就業支援につながる。しかし、それには相応の時間もかかる。

もっとも、過去10年以上にわたって、様々な形でカナダのゲーム産業を取材してきた立場からすれば(初めてカナダを取材したのは2007年のことだ)、カナダにはある目標に向かって粘り強く取り組む姿勢に長けている。テクノロジー分野は好例で、多くのカナダ企業が特定の分野で粘り強く研究開発を続け、成果を上げてきた。多くのツールやミドルウェアがカナダ産であることからも、このことは明らかだろう。

今回の取材では、その背景に強固な産学官連携のスキームがあることが、改めてわかってきた。特にケベック・シティーの行政サイドがリーダーシップを発揮して、適切に産業育成を進めている様が印象的だった。だからこそ過去十数年間で、ケベック・シティーは大手スタジオの誘致から、インディゲームスタジオを中心とした産業支援へと、着実に段階を進めることができた。そして、次のステップは人材教育というわけだ。

Gagné氏は「今は地元の学生はケベック・シティー以外の企業で就職先を探さざるをえない。しかし、彼らがキャリアを重ねる過程で、再びケベック・シティーに戻ってきて、地元に貢献してくれることを期待している」とコメントした。そのためには、受け皿となる地域経済の活性化が不可欠となる。日本の地方都市においても広く参考になるケーススタディではないだろうか。


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