Unityを教える-教育現場でのUnity活用-
それではUnityは教育現場で具体的にどのように教えられているのだろうか。この疑問について答えるかたちで行われたのが「Unityを教える-教育現場でのUnity活用-」だ。民間のプログラミング教室から小中学生向けのセミナー、専門学校、大学まで4名の登壇者が集まり、各々の取り組みや知見を共有。実際に使用されているデモやシラバスが公開されるなど、実践的な内容となった(関連資料)。
加藤智紀氏(LITALICO)
はじめに登壇したのはプログラミングやロボット製作の教室を展開する、LITALICOワンダーの加藤智紀氏だ。同社では年長から高校生まで、合計2,200名の子どもたちを対象に都内10箇所で教室を運営(※生徒数、教室数は2018年4月時点)。子どもたちの個性を活かしたカリキュラム設計が特徴で、ゲーム&アプリプログラミングコースではUnity、Scratch、enchant.jsなど多彩な環境が用意されている。ツールに優劣はなく、子ども本位での選択になっている点も特徴だ。
もっとも、サービス向上のためにはスタッフの育成が不可欠だ。現状スタッフ1名につき子ども4人の比率となっており、ハッカソンや勉強会なども行われている。加藤氏は「自分の手を動かして作品をつくる経験がなければ、作品をつくっている子どもたちの気持ちを理解することは難しい」とコメント。今後もスタッフの育成や支援体制を通して、サービス向上に努めていきたいと話した。
続いて登壇したのはゲーム専門学校のデジタルアーツ仙台で教員を務める志村 淳氏だ。もっとも話は専門学校ではなく、仙台市が関係する小中学生向けワークショップでの事例となる。目的はゲーム開発者の職業体験を積むことで、地元に関連企業が少ないため、よく志村氏のもとに依頼が来るとのこと。約80分間で子どもたちにゲームづくりの勘どころを体験させるため、自作したUnityのデモを活用していると話した。
志村 淳氏(専門学校デジタルアーツ仙台)
志村氏は「単にゲームを創ったり、改造したりするだけでなく、創ったゲームを他人に遊んでもらう体験を得ることが重要だ」と指摘する。その上で本格的にゲームづくりを体験したい参加者向けに、道が開けていることが重要だと補足。Unityは両者の条件を満たしており、理想的なツールだとした。その上で「わかりやすさ」「失敗しにくさ」「応用の利きやすさ」を重視して制作したと解説した。なお、講演内で紹介されたデモはGitHubで公開されている。
ゲーム専門学校、そして大学での知見
3番目に登壇した荒川巧也氏は日本工学院専門学校ゲームクリエイター科に所属する教員で、「Unity2017入門」(SBクリエイティブ)などの著書もある、Unity教育のエキスパートだ。同校のゲームクリエイター科には4年制と2年制コースがあり、4年制では2年次にUnity演習が組み込まれている。荒川氏は「授業で習った知識がすぐにコンテンツ制作で活かせる」ことを意識して授業づくりを行なっていると語った。
荒川巧也氏(日本工学院専門学校)
荒川氏が指摘するUnityの最大の強みは、Web上に豊富な関連情報があることだ。実際に授業でもUnityの公式チュートリアル「Survival Shooter」を活用しているほどだという。そのため荒川氏は、授業で興味を覚えた学生は、自分たちで独自にUnityの学習を進めていくと述べた。アップデートが早く、様々な機能が実装されていくのもUnityの強みとのこと。「まず、教える側がUnityを好きになってほしい」と呼びかけた。
最後に登壇したユニティ・テクノロジーズ・ジャパンの簗瀬洋平氏は、大学におけるUnity活用状況の現状について説明した。簗瀬氏はUnityのエバンジェリストを務める傍ら、東京大学の客員研究員としても活動。昨年の第20回文化庁メディア芸術祭でエンターテインメント部門優秀賞を受賞した『Unlimited Corridor』をはじめ、Unityによるインタラクティブデモを用いた、様々な研究活動を行なっている。
簗瀬洋平氏(ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン)
簗瀬氏は、工学系の研究室でインタラクティブデモの実装のため、Unityが使える学生を求めるケースが増加していると説明。これに対して、学生自身も環境や条件が整えばUnityをマスターする力を備えていると述べた。実際に『Unlimited Corridor』では、VRデモの実装を学生がほとんど1人で、Unityを独学しながら進めたという。その上で教員においては、先輩・後輩間で知識が伝授される環境を整えることがポイントだとした。
最後に簗瀬氏は「Unity学生アンバサダー制度」のスタートについて触れた。Unityを使った活動を通してコミュニティづくりや運営に貢献している学生を表彰する制度で、「国際学会での表彰、ハッカソン、ゲームジャム、セミナー開催」などが基準になるという。「国際学会と聞くと敷居が高く感じられるが、かなり多くの学生が論文を通している」(簗瀬氏)。こうした制度を通して、より教育事業を盛り上げていきたいと締めくくられた。