5月7日(月)から9日(水)にかけて東京国際フォーラムで行われた、ゲームエンジン「Unity」の開発者会議Unite Tokyo 2018。3日間で65セッションが開催され、のべ人数で約6,000名の参加者を数えた。もっとも、そこで議論された話題はゲーム関連にとどまらない。本稿ではその中から、教育関連の2セッションについてレポートする。

TEXT&PHOTO_小野憲史 / Kenji Ono
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)

Unityでゲームデザインを学ぶ「あそびのデザイン講座」

ユニティ・テクノロジーズでは「ゲーム開発の民主化」を掲げてUnityの開発を進めるとともに、学生やゲーム開発初心者向けに豊富なチュートリアルを用意している。しかし、これらはツールの使い方を習得するものであり、ゲームデザインに関するものではなかった。こうした問題意識から、昨年よりスタートしたのが「あそびのデザイン講座」だ。Unityでゲームデザインを教えるための資料で、全15回が予定されている。

講演「Unityのエデュケーション計画と認定試験+あそびのデザイン講座」では、セガ(現・セガゲームス)で『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』(1991)などの開発に携わり、昨年からユニティ・テクノロジーズ・ジャパンの教育事業に参画、「あそびのデザイン講座」資料制作に携わる安原広和氏より、今後の資料公開に関する見通しと、Unityを使ったゲームデザイン教育の概念と方法論について解説が行われた(関連資料)。

安原広和氏(ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン)

「あそびのデザイン講座」はUnity演習を通して、学生にゲームの「楽しさ」が生まれるしくみを実感させることを目的に、同社から無償配布されている。ロジェ・カイヨワが『遊びと人間』で論じた「あそびの4分類(競争・偶然・模倣・眩暈)」をベースに、簡易的な認知モデル(認知欲求→予想→実践→結果→快感)を組み合わせた内容となっており、安原氏の過去の知見の集大成ともいえる内容だ。

「あそびのデザイン講座」は2018年5月現在で第6回まで公開されている。スロープを作ってボールを上から落下させるという単純な内容から、オブジェクトに当たると消滅する、プレイヤーキャラクターを操作できるようにする、などの要素を追加しつつ、ピンボールゲームを制作することを目的としている。安原氏はロジック部分を整理し、プログラミング初心者でもわかりやすくするため、内容を改訂中だと述べた。

●「あそびのデザイン講座」講座内容
  • 回数
  • テーマ
  • 概要
  • 0
  • Unityでゲームに「たのしい」を生み出す
  • 序章
  • 1
  • Unityを使って「たのしい」を作ろう
  • 基本操作・用語・概念説明
  • 2
  • Unityの操作をしよう
  • ボールとスロープの制作
  • 3
  • インターラクション
  • オブジェクトの衝突判定など
  • 4
  • 目と耳で感じる「インターラクション」
  • エフェクトと効果音の設定
  • 5
  • プレイヤーを作ろう
  • 入力判定とオブジェクトの操作
  • 6
  • リプレイ
  • ミスとリプレイの実装
  • 7
  • おしまいを作ろう
  • ゲームオーバーの実装
  • 8
  • UIの表示
  • UI制作
  • 9
  • あそびと時間
  • タイムの実装
  • 10
  • クリアとリザルト
  • ゲームクリアの実装
  • 11
  • シーケンスを通す
  • 各要素を組み立てて、ゲームループを作る

実際、ユニティ・テクノロジーズではプログラマーやCGエンジニア向けに認定試験制度などを設けているが、ゲームデザイナー向けの制度はない。ゲームデザインの領域が多岐にわたる一方で、職務ごとに細分化が進んでおり、一般化が難しいからだ。そのため本取り組みもユニティ・テクノロジーズ・ジャパン独自のものとなる。その一方で海外からの問い合わせも多く、今後英語化についても検討されているという。

あそびとゲームのちがいとは何か?

もっとも、本講座の目的は「Unityが使えるようになる」ことではなく、Unity演習を通してゲームデザインの勘どころを実感してもらうことだ。そのため、講演ではただの「あそび」と、「ゲーム」とのちがいに関する説明や、それをUnityで実感させるための指針についても解説が行われた。なお、ここでいうゲームとは、「コンピュータを相手に遊ぶコンテンツ」的な意味合いとなる。

安原氏は「ボールをリフティングするだけなら『あそび』だが、それに『ストレス』『定量化』『ごほうび』を加えるとゲームに変化してゆく」と解説。行為者(=プレイヤー)と併せて、ゲームには4つの要素が存在するとした。ただリフティングするだけでなく、「ボールを落としたらゲームオーバー」「リフティングの回数がスコア」「一定スコアを記録したらごほうび」などの要素を加えていくイメージだ。

もっとも、こうした知見も座学で伝えるには限界がある。そこで登場するのがUnityだ。安原氏はフィールドをキャラクターが自由に移動できる状態から、「障害物の設定(=ストレス)」「ゴールとタイムの設定(=定量化)」「スコアアイテムの設定(=ごほうび)」などと、各々の要素を加えたデモを動画で紹介。このように演習を進めることで、ゲームデザインについての理解がより深められるとした。なお、「あそびのデザイン講座」を活用した専門学校での実践例については、CGWORLD.jpでも連載が行われている。

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Unityを教える-教育現場でのUnity活用-

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Unityを教える-教育現場でのUnity活用-

それではUnityは教育現場で具体的にどのように教えられているのだろうか。この疑問について答えるかたちで行われたのが「Unityを教える-教育現場でのUnity活用-」だ。民間のプログラミング教室から小中学生向けのセミナー、専門学校、大学まで4名の登壇者が集まり、各々の取り組みや知見を共有。実際に使用されているデモやシラバスが公開されるなど、実践的な内容となった(関連資料)。

加藤智紀氏(LITALICO)

はじめに登壇したのはプログラミングやロボット製作の教室を展開する、LITALICOワンダーの加藤智紀氏だ。同社では年長から高校生まで、合計2,200名の子どもたちを対象に都内10箇所で教室を運営(※生徒数、教室数は2018年4月時点)。子どもたちの個性を活かしたカリキュラム設計が特徴で、ゲーム&アプリプログラミングコースではUnity、Scratch、enchant.jsなど多彩な環境が用意されている。ツールに優劣はなく、子ども本位での選択になっている点も特徴だ。

もっとも、サービス向上のためにはスタッフの育成が不可欠だ。現状スタッフ1名につき子ども4人の比率となっており、ハッカソンや勉強会なども行われている。加藤氏は「自分の手を動かして作品をつくる経験がなければ、作品をつくっている子どもたちの気持ちを理解することは難しい」とコメント。今後もスタッフの育成や支援体制を通して、サービス向上に努めていきたいと話した。

続いて登壇したのはゲーム専門学校のデジタルアーツ仙台で教員を務める志村 淳氏だ。もっとも話は専門学校ではなく、仙台市が関係する小中学生向けワークショップでの事例となる。目的はゲーム開発者の職業体験を積むことで、地元に関連企業が少ないため、よく志村氏のもとに依頼が来るとのこと。約80分間で子どもたちにゲームづくりの勘どころを体験させるため、自作したUnityのデモを活用していると話した。

志村 淳氏(専門学校デジタルアーツ仙台)

志村氏は「単にゲームを創ったり、改造したりするだけでなく、創ったゲームを他人に遊んでもらう体験を得ることが重要だ」と指摘する。その上で本格的にゲームづくりを体験したい参加者向けに、道が開けていることが重要だと補足。Unityは両者の条件を満たしており、理想的なツールだとした。その上で「わかりやすさ」「失敗しにくさ」「応用の利きやすさ」を重視して制作したと解説した。なお、講演内で紹介されたデモはGitHubで公開されている。

ゲーム専門学校、そして大学での知見

3番目に登壇した荒川巧也氏は日本工学院専門学校ゲームクリエイター科に所属する教員で、「Unity2017入門」(SBクリエイティブ)などの著書もある、Unity教育のエキスパートだ。同校のゲームクリエイター科には4年制と2年制コースがあり、4年制では2年次にUnity演習が組み込まれている。荒川氏は「授業で習った知識がすぐにコンテンツ制作で活かせる」ことを意識して授業づくりを行なっていると語った。

荒川巧也氏(日本工学院専門学校)

荒川氏が指摘するUnityの最大の強みは、Web上に豊富な関連情報があることだ。実際に授業でもUnityの公式チュートリアル「Survival Shooter」を活用しているほどだという。そのため荒川氏は、授業で興味を覚えた学生は、自分たちで独自にUnityの学習を進めていくと述べた。アップデートが早く、様々な機能が実装されていくのもUnityの強みとのこと。「まず、教える側がUnityを好きになってほしい」と呼びかけた。

最後に登壇したユニティ・テクノロジーズ・ジャパンの簗瀬洋平氏は、大学におけるUnity活用状況の現状について説明した。簗瀬氏はUnityのエバンジェリストを務める傍ら、東京大学の客員研究員としても活動。昨年の第20回文化庁メディア芸術祭でエンターテインメント部門優秀賞を受賞した『Unlimited Corridor』をはじめ、Unityによるインタラクティブデモを用いた、様々な研究活動を行なっている。

簗瀬洋平氏(ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン)

簗瀬氏は、工学系の研究室でインタラクティブデモの実装のため、Unityが使える学生を求めるケースが増加していると説明。これに対して、学生自身も環境や条件が整えばUnityをマスターする力を備えていると述べた。実際に『Unlimited Corridor』では、VRデモの実装を学生がほとんど1人で、Unityを独学しながら進めたという。その上で教員においては、先輩・後輩間で知識が伝授される環境を整えることがポイントだとした。

最後に簗瀬氏は「Unity学生アンバサダー制度」のスタートについて触れた。Unityを使った活動を通してコミュニティづくりや運営に貢献している学生を表彰する制度で、「国際学会での表彰、ハッカソン、ゲームジャム、セミナー開催」などが基準になるという。「国際学会と聞くと敷居が高く感じられるが、かなり多くの学生が論文を通している」(簗瀬氏)。こうした制度を通して、より教育事業を盛り上げていきたいと締めくくられた。