>   >  バーチャルYouTuber 『輝夜 月』1/7スケール&等身大フィギュア制作の舞台裏を、榊馨(Wonderful Works 代表/Pixologic公認 ZBrushマスター)が徹底解説
バーチャルYouTuber 『輝夜 月』1/7スケール&等身大フィギュア制作の舞台裏を、榊馨(Wonderful Works 代表/Pixologic公認 ZBrushマスター)が徹底解説

バーチャルYouTuber 『輝夜 月』1/7スケール&等身大フィギュア制作の舞台裏を、榊馨(Wonderful Works 代表/Pixologic公認 ZBrushマスター)が徹底解説

イラストに合わせたつくり込みと、3Dプリントに対応したデータ修正

いったん全身をつくりましたが、商品化にあたり、キービジュアルの全身イラストに合わせたポーズの変更や、3Dプリントに適していない部分の修正をしていきます。

  • 全身のイラストを見たところ脚のポーズがちがったので、[Transpose]で脚を曲げてイラストに合うように修正しました。また手首や顔の角度もよりイラストに合うように変更しています。


【上図:上】は修正前、【上図:下】は修正後です。以下にて、修正内容を解説します。

【上図:1】より起伏の激しいスカートのしわに変更しました。ZBrushのビューポートでちょうどいいくらいの掘り込み具合だと、実物で見た場合に起伏が弱く見えます。また3Dプリント後には磨いて表面を仕上げていきますが、磨き込みをするうちにディティールが少し落ちる場合もあるので、余計にしわが弱くなってしまいます。そこで少し強めと思うくらいにしわを強調するよう変更しました。

【上図:2】スカートの重なり具合をイラストに合わせて変更しました。

【上図:3】前述の急造時には[Polypaint]しやすいように色分けする部分を別パーツでつくっていますが、イラストを見ると凸状にはなっていないのでスジ彫りに変更しました。このスジ彫りは3Dプリント後に消えないよう、0.4㎜幅になることを測って確認した上でつくっています。

【上図:4】黒いライン部分はイラストではより細いため変更しました。2本のスジ彫りの間は黒く塗るには細すぎるため、幅広いスジ彫りにして、凹部分に墨を流す想定の形状にしています。このように塗装の工程まで考慮しながら作成しました。


スカートなどの布の厚さは1.3mm以上とるように調整します。ZBrushで長さを図る場合は、まず大きさの基準となる箱を用意します。今回は長辺223mm、短辺10mmの柱を基準としました。この短辺の頂点に[Transpose]のアクションラインを引き、[Preference]>[Transpose Units]の[Calibration Distance]を10に設定します。こうすることでアクションラインの大きいメモリが1mm、小さいメモリが0.1mm相当になります。これをスカートの断面に当てることで厚さを測ります。【上図:左】の場合は2mmくらいの厚さがあることがわかります。


サブディビジョンレベルを下げたローポリのスカートを用意し、[NanoMesh]を使って直径1.3mmの球体を全てのポリゴン上に配置することで厚さを測る方法もあります。球体がオリジナルのスカートからはみ出していなければ、1.3mm以上の厚さがあります。


CGでフィギュアをつくる際にやりがちな失敗として、【上図:左】の矢印で示した部分のように、パーツ同士が貫通したまま配置してしまうことが挙げられます。ブーリアンで重なりを削ってしまえば、実物の組み立てに問題はありませんが、実物はCGよりも隙間が目立つため、ブーリアンによって削った後の段差がとても目立ちます。3Dプリント後に手作業で直す方法もありますが、パーツ同士の貫通はできる限りCG上で直しておきます【上図:右】。


以上のようなつくり込みや、3Dプリントのための最適化を経て形状が完成しました。


Form2で3Dプリントを行い、実物での監修を版元様に依頼しました。Form2で3Dプリントをする際は、本番の分割作業は行わず、上半身と下半身を分ける程度にして、3Dプリントの負担を下げています。Form2での3Dプリントは本番前の仮出力ですが、形状を確認する上で十分な細かさがあるため、監修はスムーズに進みました。データ修正と再出力も容易なため、本番前に実物でのしっかりとした確認と修正をすることができました。

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