>   >  起業から約10年。CGプロダクション3社の経営者が、これまでと、これからの道のりを語る(前編)
起業から約10年。CGプロダクション3社の経営者が、これまでと、これからの道のりを語る(前編)

起業から約10年。CGプロダクション3社の経営者が、これまでと、これからの道のりを語る(前編)

新卒の採用ペースや採用基準に変化はありますか?

C:新卒はどのくらいのペースで採用していますか?

箱崎:毎年採用しており、今年(2019年4月入社)も既に内定を出させていただきました。

谷口:当社も同様です。今のところ、今年はひとり内定を出しています。当社の採用基準をクリアしていることが前提ですが、毎年数名ずつ採用したいと思っています。

永岡:早いですね。当社は大々的な募集をしていないので、ご縁のある方に出会えたら採用するという感じです。

C:5年前と今とで、採用基準に変化はありますか?

谷口:基本的には変わっていないです。モデラー志望であればデッサンを見せていただき、基本的な造形力や立体把握力、観察力があるかを判断します。作品の点数や内容から、がんばってつくっているか、熱意があるかということを見たりもします。アニメーターの場合も観察力や熱意を重視する点は同様で、さらに基本的な体の動かし方、筋肉の構造などがわかっているかを判断しますね。よく勉強している学生さんは、作品を少し見ただけで「あ、うまいな」とわかります。モデラー志望であれ、アニメーター志望であれ、よく考えている人は必ず何らかの工夫をしているのです。例えば、ちょっとしたポージングや動きにもニュアンスを入れてくるので、自然と目を引きます。

箱崎:当社の採用基準も谷口さんの会社と同様です。少し補足すると、当社の新卒採用では3DCGの経験を必須にしていない一方で、ものづくりに対する姿勢に注目しています。イラスト・油絵・フィギュアなど内容は問いませんが、好きかどうか、こだわってつくっているかどうかといった点は気にしています。それから5年前と比べると合格ラインは上がっているような気がします。全般的に学生さんたちのレベルが上がっているので「以前だったら受かっただろうけど、今回はちょっと厳しいかな」と思うことが増えていますね。


谷口:確かに。それはあると思います。

永岡:当社の採用基準も変わっていません。ただ、谷口さんがおっしゃったことに加えて、新しい方が入ったときに社内のチームワークがうまく回るかという点をかなり重視しています。当社は人数が少ないので、ひとりひとりの影響力がすごく大きいです。作品のレベルだけでなく、当社のカラーに合うかどうかという点もよく見るようにしています。

今後、変えていきたい点はありますか?

C:今後、意識して変えていきたいと思っている点はありますか?

永岡:当社のスタッフは女性の方が多いので、女性に長く働いてもらえる会社にしていきたいという気持ちがあります。既に産休・育休などの制度は設けており、今現在、産休に入っているスタッフもいます。今後は「出産を機に一度はこの業界からリタイアしたけれど、少し落ち着いたから帰ってきたい」といった希望をもっている方を受け入れられる会社にしていきたいと 思っています。結婚したり、子どもが生まれたりすることはめでたいことだし、みんなでお祝いしたいです。

そして、落ち着いたら帰ってきてほしいとも思っています。われわれなりに帰ってきたくなるようなシステムを考えて、今も実行しているのですが、もしかしたら「帰ってきたいけれど、機会がない」と考えている方がほかにもいらっしゃるんじゃないかと思っているのです。今後はそういう方への呼びかけもやっていきたいねと、スタッフたちと話し合っています。

谷口:当社でも、今度はそういう試みが必要になってくるだろうと思っています。そういう場合に必要とされるシステムのベースは、やはり「時短」になるのでしょうか?

永岡:そうだと思います。例えば「お子さんが熱を出して、保育園に迎えに行かなきゃいけない」といったことは頻繁に起こりますから、臨機応変に業務を切り上げられるシステムが必要なのです。そういう場合にも、チームで取り組めばフォローできると思ったんですよね。当社の場合は、複数のスタッフがそういう経験をしてきたので、理解がありますし、フォローもできます。実際、ここ1〜2年はそういう事態が何度も起こったので「どうすれば納品までもっていけるか」をチームで話し合い、みんなで協力し合ってきました。

C:そういう事態を理解し、共感できる人は、lunaworksのカラーに馴染みやすそうな気もしますね。

永岡:そうであることを期待しています。当社は会社の規模を常に拡大し続けようとは思っていないので、社風に合う方をじっくり探しています。Webサイトには「随時募集」と書いてありますが、大々的に募集しているわけでもありません。会社によっては大きなプロジェクトが始まるタイミングで一気に人を増やして、プロジェクトが終わったら解散するといったやり方をしているところもありますが、それは当社に合わないと思っています。

C:確かに、CG業界全体で見ると、いわゆる「プロジェクト契約」はよくある雇用形態ですね。

永岡:当社の場合は「ここまでは当社のスタッフで対応できます。これ以上のところは、スケジュールなどを相談させてください」というように、お約束できる範囲を伝えるようにしています。そこで無理に人を入れて対応することはせず、今いるスタッフで対応できる範囲の仕事を、みんなでフォローしながらやってきました。そういう会社ですから、先ほど言ったような「帰ってきたい」と思っている人の力や経験値は、当社にとって必要なものではないかという気がしているのです。同じような境遇を経験してきた人が仲間にいれば、これから産休に入るスタッフも、安心して帰ってこられるし、心強いだろうと思うのです。

箱崎:まさに去年、当社でも子供が生まれた女性スタッフがいまして、出産後の対応、どういう働き方をしてもらえばいいのか......という模索をやり始めたところです。私自身も去年第一子が生まれ、仕事と育児の両立のたいへんさを感じている最中ということもあり、先輩の話を聞いているような気持ちですね。

永岡:いえいえ(笑)、当社もまだまだ試行錯誤中です。

箱崎:その女性スタッフも最初は時短で働いていたのですが、「やっぱりフルタイムに戻りたい。8時出社にさせてもらえないか」という相談がありました。今は会社の鍵を預けてあって、お子さんを保育園に預けた後、そのスタッフが8時に会社を開けています。

C:本来の就業時間は何時ですか?

箱崎:10時から19時です。そのスタッフは8時に出社する代わりに、17時に退社しています。そういう「フルタイム」もあっていいのかなと思い、最近始めたところです。

永岡:いいと思います。当社でも必要になってくるかもしれない制度ですね。逆に、早朝から対応してくれるスタッフがいることで助かることもあるんじゃないでしょうか。

箱崎:はい。さらにもうひとつ効能があって、限られた時間の中で働かなければいけないからこそ、効率的な働き方を編み出しているのです。それがほかのスタッフにも伝わり、影響を与えていくんじゃないかと期待しています。

永岡:影響はあると思います。当社でも「誰それは5時までしかいられない」ということを全員が把握しているので「ここまでは5時までにやり切ろう」といった意識が働くのです。時間の制約があることで、よりシビアなスケジュール管理ができるというメリットはあるように感じます。

谷口:制約がないと、だらっとやっちゃいがちですからね(苦笑)。CG業界は「長時間働いていそう」というイメージをもたれがちですが、より多くの若い人たちに入ってきてもらうためにも、そこは改善していかなければいけない点だと思います。当社では19時50分になると自動的に『蛍の光』がながれるようにしてあります。

箱崎:おお、いいですね(笑)。それがながれたら、帰り仕度を始めるということですか?

谷口:帰れるスタッフはどんどん帰ります。ディレクターも僕も、早く帰れるときは率先して帰るようにしています。僕がずっと残っていると、やっぱりみんな残っちゃいますから。だから昔に比べれば、遅くまで残業するスタッフの数は減りました。

箱崎:会社説明会をやっていると「何時に帰れるんですか?」という質問をよく受けます。先ほど谷口さんがおっしゃったようなイメージをもっている学生は多いんだろうなと感じますね。

永岡:やっぱり気になるんでしょうね。

箱崎:そういうイメージを払拭していくことで、優秀な若い人が入ってきやすい業界にしていく必要があるのだろうと思います。

谷口:一方で「ガッツリやっていきたいです!」という人もいて、兼ね合いが難しいと思うこともあります(苦笑)。会社には参考書もいっぱいありますから、遅くまで残って勉強したいという人にとっては「早く帰れ」と言われるのはストレスなんですよ。若い人はガッツリ働き、ガッツリ学ぶことで急成長するという側面もあるので「勉強したければ、残っていいよ」とも言うようにしています。

箱崎:その兼ね合いの難しさもわかります(笑)。



前編は以上です。後編の公開は、2018年9月26日(水)を予定しております。

特集