Topic 2
特徴的なタッチと手描き感のある塗りの表現をデジタル作画で描く
ワークフローや画のタッチを大きく改革したねらい
デジタル作画に欠かせないハードといえばタブレットだ。末澤氏はWacom Cintiq Pro 16を、他の原画スタッフはCintiq 13HDもしくは板タブレットを使用している。紙からデジタルに移ったスタッフは見えている場所に線が引ける液晶タブレットを好み、画を描きはじめた頃から板タブレットを使用している若いスタッフは慣れた板タブレットを使用しているようだ。板タブレットは手で画が隠れず、手元で描く線より長く画面に描けるメリットもある。作画サイズに関しては、作画用紙で使用するA4サイズをフルHDで表示する際に必要な解像度を求めた結果188dpiとなったという。レイアウトから仕上げまで解像度を統一することで、アンチエイリアスが途中で変わったり、点が消えたり滲んだりするミスが防がれている。
本作でワークフローや画のタッチを大きく改革したねらいについて聞いた。「はみ出たような線をそのまま使いたかったので、彩色で色のながし込みはしていません。ビュッと勢いで描いた線によって良く見えている画など、ちょっとしたニュアンスで良い味が出ているのに、その部分を削ると途端に画が成立しなくなってしまいます。これは紙で描いているときから感じていました。画には残しておいた方が良い雑味みたいなものがあるので、今回はそれを成立させようと思ったのです。はじめの頃は普通のアニメっぽい画でしたけど、レイアウト修正の段階でタッチなどを入れ、勢いのある画にしてもらいました。"第5話は大丈夫か?"と最初はすごく不安視されましたけど、各話監督制ということもあって、ある程度自分に任せいただきました。自分たちが観ていた『フリクリ』はとても自由で、後にも先にもない感じがあったので、その雰囲気を再現 できていると嬉しいですね」(末澤氏)。
これまで動画マンは画を割っている作業的な意識が強かったが、本作では単なる線割りでは進められず、原画のニュアンスを汲み取りながら、原画と原画の間の画を自ら描いている感覚が強く、終始モチベーションが高かったという。末澤氏が今まで現場で感じてきた想いや疑問の解決策を、本作で積極的に実行した結果、『フリクリ』という自由な作品の性質とデジタルツールのポテンシャルが相まって、見事に独自のワークフローと表現力を成立させたようだ。
『フリクリ』のために作成された独特なタッチのブラシ
TVPのカスタムブラシを使って第5話専用ブラシが作成され、各作業者に配布された。「アンチエイリアスを切り、二値化した楕円を描いて作成しました。回転をランダムにかけることでまっすぐな線にムラが出て、ガサガサした鉛筆と筆ペンの間のようなタッチが出ます。二値化された線なので、そのまま動画データとしても仕上げデータとしても成立します。作業しながらブラシの太さや筆圧に対するインクの出方を改良していきました」(末澤氏)
TVPのブラシ設定
異なるツールによるラインの調整
本作ではTVP、CLIP STUDIO PAINT(以下、CSP)、Adobe Animate CCの3つのソフトが使われ、作業担当者が使い慣れたソフトが選択されている。ひとつの作品を異なるソフトで描いているため、TVPとCSPでは似たようなカスタムブラシを作成して線のニュアンスが統一された。しかしAnimateはカスタムブラシを作成できなかったため、線のちがいが出てしまっている。そこで撮影時に線を太らせ、タッチの印象を合わせる方法を採りつつ、セリフや劇中のテンションの変わり目などでAnimateのカットを使用することで、そのちがいすら演出として盛り込まれた。
同・完成画
同・完成画(線調整済)
アニメーターの作業のしやすさを考えてアレンジされた設定画
第5話は線が筆ペンのように太く力強い。また作画で彩色することも考慮し、ディテールを減らした第5話専用のキャラクター設定画が作成された
マスラオの通常のキャラクター設定画
同・第5話専用のキャラクター設定画。影の描き方、線の本数や太さが大きく異なっている。例えば二重線のラインは、線の間に色を塗るため、4本の線を引かなければならない。1本1本の線の間隔は狭く、綺麗に引くのには時間がかかる。しかし第5話専用のキャラクター設定画では、太い線を2本引くのみとすることで、作画にかかる時間や労力が削減された。「作業時間もなく、このデザインでなければ終わっていませんでした。撮影さんも含めて、やりながらこうしたら良いと掴んでいった感じです」(末澤氏)
引き画のクオリティと効率のバランスをとる
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線画のみの原画。線だけだとディテールが足りなく、周囲からも不安視されたカット。「最近はアニメにおける遠近の表現が難しいです。デザインが細かくなってきているので、引きのカットでは拡大作画で対応していますが、現実世界は遠くの人の表情はわかりません。近くに来て、やっと怒っているとか泣いているとかがわかります。そこで本作では、遠いカットは簡単に描いてディテールを省略しながら、誰がどこで何をやっているかがわかることを大事にして描きました。決められたサイズの中で描けるディテールを目指したのです」(末澤氏)
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彩色された原画
完成画。塗り終えて背景が入った画は、省略具合も線の太さとマッチして非常に良いバランスに仕上がっている
特徴的なタッチや塗りを徹底して貫く
仕上げ注意事項が書かれた指示書。第5話は原画を活かした作画になる方向性を明記し、線画修正や色トレス修正が不要であることなどが書かれている
修正指示書に使用した原画を仕上げた完成画。不要なゴミは消されているが、原画のニュアンスはそのまま残されている
シャワーの中の雲雀弄ヒドミは末澤氏がTVPのカスタムブラシで直接描いたものだ。髪の色も塗られた原画で、塗りと線の中間のような描き方となっている。「このカットは本当に早かったです。キャラクター自体は止メ1枚でしたが、レイアウトですでに色を付けていて、通常の作業工程を3つくらい飛ばして、いきなり仕上げが終わったようでした」(寺田氏)。強弱や途切れのある線、はみ出した色など、この話の特徴がよく出ている
別のカットの完成画。「影やハイライトは、綺麗な線ではなくタッチで描き、画に色気を足すことを意識しました。作画監督チェックでは、修正というより、描き足していくという感じが多かったです」(末澤氏)。繋がりすぎている線はわざと切ることもあったのだとか