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原画・動画・仕上げの垣根を越えデジタル作画ならではの表現で描く、劇場版『フリクリ プログレ』

原画・動画・仕上げの垣根を越えデジタル作画ならではの表現で描く、劇場版『フリクリ プログレ』

Topic 3
加速するデジタル制作~AI作画の最前線~

AIを導入! 原画トレスと動画中割りの手応えとは?

前頁までは、本誌『CGWORLD vol.240』の掲載内容をご紹介してきたが、当時はまだ掲載できなかった取り組みがあったため、ここで追記しお伝えしたい。

作品に参加した動画スタッフには、TVPaint Animationアニメーター、デジタルアニメーターに加え、ドワンゴが開発した「中割りAI」と「原画トレスAI」の2名が参加していたという。なお原画トレスAIの開発には、アニメーターとSMDが協力している。

本作では、「このAIは、普通のアニメーションの処理に使うものとして開発しているので、『フリクリ』のような特徴的な作品では活躍できませんが、AIを試す話が出て、使えるカットを探してみました。まだAIのできることは少ないので、AIに合わせてお膳立てをして、サポートしてあげないといけません。今はまだ、助かる部分と余計にかかる手間を合わせたら、±0みたいな感じです。でも、だんだん人間がお膳立てしなくちゃいけないことが減って、彼ら(AI)ができることが増えていくと思います。今考えているのは、AIが原画トレスや中割りをして、ニュアンスが足りないところや明らかに失敗を直している部分を人間が修正する方法です。完全に任せるのは無理だと思いますが、このようなことができたら理想的なので、協力していけたら良いですね」と末澤氏は話す。

数年前から、中割りの自動生成技術は話題に上がっている。本作のようにAIを積極的に現場へ導入することで、ディープラーニングによる学習が進み、本格的な実用化も近い将来訪れるだろう。それと同時に、仕事がAIに取って代わられる危機感をもつ方もいるかもしれない。しかし、作品の完成に必要な、時間のかかるシンプルな作業をAIに任せられれば、よりクリエイティブを生み出す作業に限られた時間と人的リソースを活用できるようになる。これは業界にとって福音となるのではないだろうか。

姉弟・時季ヶ原 埋&写、誕生!

時季ヶ原姉弟初期画。AIは擬人化され、キャラクターとして確立されている。2名のAIにはそれぞれ名前が付けられた。原画トレスを担当する弟の「時季ヶ原 写(うつす)」(右)と中割りを担当する姉の「時季ヶ原 埋(うめる)」(左)だ

ベーシックスタイル(起動時)のデザイン画

埋&写の設定画
(キャラクターデザイン:謎のアニメ団)



  • 埋の全身設定画
    ©DWANGO Co., Ltd.



  • 埋の表情設定画
    ©DWANGO Co., Ltd.



  • 写の全身設定画
    ©DWANGO Co., Ltd.



  • 写の表情設定画。擬人化したこともあり「スタッフが愛でていました」とアニメーションプロデューサーの本多氏は話す
    ©DWANGO Co., Ltd.

原画トレス(写くん)

左から、原画・原画トレス・動画検査修正後の原画トレス

写を使用した原画トレスの事例を紹介しよう。最新版は進化して良くなっているそうだだが、当時はまだ作品の中でトレスした線をそのまま使用することはなかった。「AIは何回もやって学習していくので、目などのニュアンスが必要なところは1回やらせただけでは思った結果が得られませんでした。そこは手直しして使用しています」(末澤氏)。【左】は原画、【中】は写が描いた原画トレス、【右】は動画検査修正後の原画トレス。一見すると良いように見えるが、それぞれを比べてみると、【中・原画トレス】は線としては離れていてほしい部分が繋がっていたり、細部が潰れて省略されていたり、原画のニュアンスを拾い切れていない部分がある。またAIが描いた線は、通常やりとりしているデータとしてそのまま同じように使用できるのか聞いたところ、「AIが割った線はアンチエイリアスがかかるので、二値化する作業は制作進行が担当しました。まだ意外と手間がかかりますね」と寺田氏は当時をふり返る

地面のひび割れ(埋ちゃん)

埋が担当した事例の1つ目は、地面のひび割れカットである

原画

埋が担当した中割り(原画6~7の間の動画のみ)

動画検査修正後の本番素材(原画6~7の間の動画のみ)

本番カット。「まずは地面のひび割れの中割りを担当してもらいました。自分が原画を描き、AIがリニアのながれを見つけて割ってくれています。AIの中割りは線が出たり消えたりしていましたが、気持ち悪い感じにバキバキなってほしかったことと、ひび割れだったら大丈夫じゃないかと、そのままやらせてみました。計算を多少失敗してしまい、ちょっとガタッと変化する箇所もありますが、演出的には問題なかったです」(末澤氏)。途中、上手く原画と原画の真ん中を見つけられない箇所があり、そこは指示を出したわけではないが、結果的に「前ツメ」、「後ツメ」となったという。そこはご愛敬といったところだ。AIが割った動画は末澤氏に戻され、最終的に色が塗られ仕上げられていく

煙(埋ちゃん)

埋の事例2つ目は、最後のカットの後ろの煙だ

原画

埋が担当した中割り(原画4~5の間の動画のみ)

画検査修正後の本番素材(原画4~5の間の動画のみ)

本番カット。「若干変な動きをしている、ゆっくりと動く煙がAIによる動画です。後ろの位置でサイズが小さく、画面の主題は他の背景とキャラクターなので、失敗しても大丈夫だと思い、試しにやらせてみました。途中を見ると、割りやすい原画番号の部分だけ綺麗に割られていて、煙は謎のもやもやしたものが描かれていて、なかなか上手くいかなかったですね。それから2日くらい経つと、線がハッキリしてきてピントが合ってくるというか、線が割られて、最終的に7日くらいでできました。これ以上は改善が見込めないところまでやって、動画検査さんにまわし、少し直してもらっています。時動画検査さんが"この中割りは失敗しているけど、これ以上直すとこの子の良さがなくなってしまう"と言って可愛いがっていました。AIは、人間が割る動画とは全然ちがう割り方をします。それを人間が割るような動画に戻してしまうと、今回AIでやった意味がなくなってしまうので、失敗はしていますが、個性を残しています。不思議な感じでしたね」(末澤氏)



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    発売日:2018年9月10日

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