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UE4をベースにHoudiniも活用! アーケード人気シリーズ最新作『HOUSE OF THE DEAD ~SCARLET DAWN~』

UE4をベースにHoudiniも活用! アーケード人気シリーズ最新作『HOUSE OF THE DEAD ~SCARLET DAWN~』

Topic 4
リアルタイム環境を活かしたカットシーン制作

シーケンサーを活用したカットシーン制作の効率化

本作のカットシーンは、開発初期にセガ側の台本(シチュエーションとセリフが記載されたもの)を基に岩男氏が絵コンテを起こした後、セガでモーションキャプチャを行い、カットシーン担当である工藤啓之氏を中心にMayaでプリビズを制作して、OKが出たらUE4のカットシーンエディタである「シーケンサー」で再現するかたちで進められた。メインのカットシーンはコンポジット時に加工しないようセガからのオーダーがあったが、例外的にAfter Effects(以下、AE)で編集した場面もある。

主人公をはじめ人型のキャラクターのボディモーションとフェイシャルのキャプチャは個別に収録されたが、どちらも外国籍のアクターが採用されている。選定にはコミュニケーションが円滑になるよう日本語が話せるアクターに依頼した。「本作のボイスは英語になるため、アグニ・フレア社内の外国籍のスタッフには、英語の発音に合うようにフェイシャルの調整も行なってもらいました」とアニメーションを担当した渡邊氏。フェイシャルには「Performer2 SV」を採用している。また、ヒロインのドレスの揺れはインゲームもカットシーンもAPEX Clothによるもの。ただし処理や暴れるリスクなどを鑑みて、APEXと骨物理シミュレーションを使い分けたとのことだ。また、この頃にはシーケンサーの機能も充実してきており、カット頭の揺れものの乱れも解決できたそうだ。

工藤氏はカットシーン中のライティングやポストエフェクトも担当しており「UE4では最終的なルックをリアルタイムで確認できるため非常に効率的でした」と語る。新人スタッフや外国籍のスタッフにもその場で調整指示を行える面も良かったという。総カットシーンは49・231カット、総尺15分に及んだが、確認用としては作業マシン1台で夜間にバッチレンダリングをかければ十分で、翌朝には全シーンを動画で見られたそうだ。

カットシーンの制作事情とモーションキャプチャ

AEで合成作業を行なったカットシーン。画面を分割して2つの異なるロケーションを収める必要があったのがその理由だ

Mayaによるプリビズの様子



  • セガのモーションキャプチャスタジオでボディモーションをキャプチャしている様子



  • こちらはフェイシャルキャプチャの様子。機材はなんとサバゲー用のヘルメットとウェブカメラでアグニ・フレアが自作したもの。問題なく製品レベルで使用できたそうだ

カットシーンを引き立てるライティング演出

ヒロインのケイトを引き立てるためにいわゆる「女優ライト」を配置し、シーケンサー上でカットごとにVisibleやIntensityを制御した



  • キャラクターの輪郭を浮き立たせるためにリムライトを当てたシーン。逆光により不気味に見せてもいる。インゲームの背景のライトが邪魔な場合にはシーケンサーでインゲームのライトを読み込み色味や強弱をカットごとに調整したそうだ



  • ボリュームライトを強めに入れて印象的なシーンを演出した

シェーダにより実現した特殊な表現

シリーズ恒例となる、ボス登場時に弱点を解析する演出。ボスの体には赤い走査線が走るようワイヤーフレーム状のモデルが使用されており、モニターグラフィックスはマテリアルとブループリントの合わせ技で表現している

画面が乱れるグリッチ【画像左】とライトバースト【画像右】といった独自のポストエフェクトは、工藤氏がポストプロセスマテリアルを制作して実現している

Topic 5
Houdiniをフル活用したエフェクト制作

Houdiniによる表現力の向上と低コスト化の実現

アグニ・フレア側のエフェクト制作で使用された3DソフトはHoudiniのみとなり、国内のゲーム開発に関わる会社では非常に珍しいケースのように思う。「Houdini一本で完結することで、大きな効率化が図れました」とエフェクト担当の小林健太氏。Houdiniのラーニングを含めて約1年、様々な表現の検証を経て正式導入に至ったという。検証した具体的な内容としては、炎・爆発・水といった流体シミュレーション、エフェクトで利用するモデルの形状をパラメータで容易に調整するためのツール制作、破砕アニメーションの骨入りメッシュへのベイク、そして「Vertex Animation Texture(VAT)」という技術を用いたソフトボディや流体表現などになる。

VATはモデルの形状変化のアニメーション情報をテクスチャにベイクして、ランタイム時に頂点シェーダで再生するテクニックで、特殊な表現をゲーム中に表現できることからここ数年での使用事例が増えている。骨のアニメーションだとCPU負荷になるが、VATだと処理をGPUに逃がせるメリットもある。本作ではカットシーンのみの利用となったが、コウモリの大群やクリーチャーの触手が千切れる表現、気泡など様々なものにVATが利用されている。これらはカットシーンを制作する過程で生まれたタスクになるという。「制作工程の中でエフェクトは下流に位置するため想定しないタスクが発生しがちですが、こういったタスクをアニメーターにお願いするよりも、Houdini内のシミュレーションでカバーすればエフェクトアーティストで完結できるため、ローコストで対応することができました」と小林氏。

Houdini導入により表現の幅が広がったことに加え、作業速度や調整・フィードバック対応も早くなったという。ちなみに、ちょっとしたノイズテクスチャやフローマップの制作には従来通りPhotoshopやAE、Substance Designer等も用いられたそうだ。

流体シミュレーションと滝モデル制作ツール

Houdini上で煙のシミュレーションを行なっている様子。レンダリングにはGPUレンダラを導入し、それまで3分かかっていたレンダリング時間が6秒になったそうだ

パイプから流れる滝がステージ中に数多く配置されているが、場所により形状も変える必要があるため手作業で用意するのは大変だ。そこでモデル自体を簡単に調整できるようなツールをHoudini上で作成して量産に対応した

Vertex Animation Texture(VAT)で広がった特殊表現

カットシーンで使用された血液の気泡をHoudiniで制作してVATで表現したもの。流体表現であってもこのようにシルエットがはっきりしているモチーフならばVATに適していると言えるだろう

触手が千切れる表現はソフトボディのシミュレーションをVATにベイクすることで対応した

カットシーンでボスに付随するコウモリの大群は、Houdiniで羽ばたくアニメーションをVATのかたちでUE4に持ち込み、エフェクトツールでメッシュパーティクルとして大量に飛ばすことで表現している

ゲームではカットされた、煙をシーンに馴染ませるよう施された工夫

連番テクスチャを再生するマテリアル。RGBチャンネルを使い分けた構成をベースにしつつ、各ステージの環境に馴染むようパラメータで色を与えられるようになっていたり、ソフトパーティクルの強さを自由に調整できる構成になっている



  • 基本的に煙はライティングを受けるように設定されている



  • 前述したパラメータでシチュエーションに合わせた色を与えて場に馴染ませている

一枚画の煙のテクスチャを使用したカスタムマテリアルをモデルで表示させている例。マテリアルではテクスチャをフローマップで歪めて複雑な動きを表現している



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