Houdiniを用いた「ADT」を中心に作成される物件モデル
効率化の肝とも言えるADTは、Houdiniのプロシージャルモデリングをベースにつくられている。Houdiniを選んだ理由として野澤氏は、プログラムとしてのアップデートが期待できること、開発が複数の人で引き継げるスケーラブル性を挙げた。「今回のツールがゴールなら他のツールでも可能でした。しかし今後のことを踏まえると、Houdiniしか選択肢はなかったのです」(野澤氏)。
ADTはモデリングスキルのないCADオペレーターが、図面から数値を読みとって入力することでモデリングできるツールだ。マテリアルもシェーダで細かく設定することなく、マテリアル名を入力すれば自動的にデータベースから割り当てられる。ほかにもウォークスルー用にコリジョンも自動設定されるという。
入力が終わったらボタンひとつでデータをHoudiniに送り、そこからFBXで3Dモデルが書き出され、簡易ビューワで確認することができる。書き出しにかかる時間はわずか1物件1分程度という速さ。これらの作業はインターネットを介して行われるため、CADオペレーターのマシンにHoudiniがインストールされていなくても可能だ。「全ての建具がパラメータをもっていて、ADTではそのパラメータを変えると3Dモデルも自動的に変わっていきます。Houdiniの中でアセットの自動生成をするときにパラメトリックに変えられるように、ノードを組みました」と、開発と現場を橋渡しするGUNCY'Sのテクニカルプランナー小長井 雅博氏は語る。裏でHoudiniが動いており、CGモデラーはパラメータを調整することで、微調整やカスタマイズが可能だ。これも、DCCツールのプラグインではなくHoudiniを選んだ理由のひとつとのこと。また、これまで3ds Maxで業務を行なっていたときは、相性の良いAutoCADを使うなどの縛りもあったが、ADTはDXFを書き出せるソフトなら何を使っても問題ないそうだ。
ADT(add detail tool)
DXFをADTに読み込んだ状態。中間ファイルのDXFを使っているため、どのCADとも連携が可能だ。図面ではカラー情報が重要なので、見やすいように、ADTのインターフェイスはダークグレイでシンプルにまとめている
CADオペレーターによる数値の誤入力や入力漏れがあった場合、チェックする機能も搭載している。CADオペレーターはADTのみでモデリングを行うため、Houdiniや3ds MaxなどのDCCツールを起ち上げる必要はない
ADTの活用
ADT全てのレイヤー選択をした画面。レイヤー数は多く、サンプルのもので100を超えている。これらはCADでレイヤー分けをされたもので、ADTでそれを引き継いだ。例えば緑の小さい四角は天井の照明を表しているというように、建築独特の表示が見られる
ドアの開放方向やドアの種類を定義する画面。ドアのレイヤーには必要なパラメータが設置され、感覚的に選べるようになっている。内覧ではドアの開放方向や種類がとても重要だが、ROOVは公正取引委員会でも認定されるくらいに正確な表示をしている
部屋全体を通して共通した調整事項をまとめたアトリビュート。建具個々の設定だけではなく、共通したアトリビュートで効率的に入力できる
パラメータによる調整
厚みや数など、パラメータで簡単に調整することができる。例えばキッチンの使い勝手は、物件購入者にとって重要な点だ。扉の割り、シンクやコンロの位置なども正確に表現されているため、物件選びの参考となる。こういった細かい調整もポリゴン編集ではなくパラメータで管理できるのが、プロシージャルモデリングの利点だ
簡易モデルビューワ(1)
ADTでモデリングされたものを確認する簡易モデルビューワ。入力はパラメータで行われるため、自動でモデリングされたものの確認が必要となる。マテリアルごとに色が割り当てられており、立体表示することで、様々な角度から俯瞰してチェックしやすい。「入力した担当者が何回も確認して修正をくり返します」(中村氏)
ファーストビュー。このサイズだと詳細はわからない
俯瞰図。図面と比較しやすい
様々な角度から見ることで、間違いがないか確認し、精度を高める
簡易モデルビューワ(2)
ビューワではマテリアルこそ識別用の単色が割り当てられているだけだが、形状は正確につくられている
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洗面所。例えば蛇口やシンクの形状、シャワーの高さなども正確につくられている。これらはDCCツールを使わずADTだけで、しかも短時間でモデリングされているというのは驚きだ
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ビューワは俯瞰だけでなく、アイレベルを設定したウォークスルーモードの表示も可能だ。必要があればこのビューワ上で測定することもできる
3ds Maxによるモデリング
簡易モデリングからの細かい修正などは3ds Maxで対応するが、ほぼ必要ないほど、ADTによるモデリングは正確だという。「パフォーマンスとデータ容量の制約があるため、インスタンスなどを用いてモデルデータをStyler3D向けに最適化しています」と三浦氏は話す
クアッドビュー
ワイヤーフレーム。よく見慣れた3ds Maxの作業画面だ
制作された物件モデル
物件を俯瞰して見た状態
マテリアルが単色シェーダではなく、きちんと割り当てられている。特に未竣工の物件は型番の資料しかないのだが、データベースを使えばマテリアルのパラメータを選択するだけでここまで再現可能だ
自社開発ツール
HouseKeeper。3ds MaxからROOV用のデータをパブリッシュするためのもので、細かい設定ができる
Create Room Place Materials。マテリアルを自動生成するツールで、ADTとSHOTGUNから受け取ったマテリアル割り当て情報を基に、マテリアルを自動で生成してオブジェクトに割り当てる。ADTをはじめ、様々な自社開発ツールが現場での制作を手助けしている
再現率高く作成された物件モデル
比較するとシンクやコンロの形状、その下の収納の扉の割り、マテリアルの色合いや木目方向などが正確に再現されていることがわかる。データベースを利用して精度の高い3Dモデル・マテリアルを適切に作成できるため、公正取引委員会で認められるほど、物件の再現率は高い