>   >  ディープラーニングを用いたアニメの自動彩色に産学の共同研究チームが挑戦。その展望と、産学連携の意義を語る
ディープラーニングを用いたアニメの自動彩色に産学の共同研究チームが挑戦。その展望と、産学連携の意義を語る

ディープラーニングを用いたアニメの自動彩色に産学の共同研究チームが挑戦。その展望と、産学連携の意義を語る

ちゃんと現場で実証実験をして、使える技術になるまで改良したい

C:最後に、産学の共同研究にどのような意義を感じているか、各々の意見を聞かせていただけますか?

前島:制作現場の近くに身を置いていると、目の前の課題を優先しがちで、今回のような研究課題に取り組む時間の確保が難しいのです。NAISTと組ませていただいたことで、その研究スピードの早さに驚きました。研究を本業にしていることに加え、各分野の専門家が集まった層の厚い体制によるところが大きいのかなと感じています。

向川:NAISTは学部をもたない大学院大学なので、一般的な大学に比べると圧倒的に多くの時間を研究に割くことができます。前職で大阪大学に所属していた頃はより多くの時間を教育に割いていましたが、NAISTの学生は全員が入学前に別の大学で卒業研究を経験しているので、研究者としての下地ができているという強みがあります。ゆえに研究スピードが速いと感じていただけたのだと思います。

加えて大学と組んでいただく意義として、制作現場の常識にとらわれないアイデアを出せることがあると思います。例えば、本研究ではアニメの制作現場を見学し、原画・中割り・彩色(仕上げ)という制作工程を教えていただきましたが、それをAIが担うにあたり、先に原画を彩色して、後から中割りをしても良いのではないかと思いました。現場の方は驚かれるかもしれませんが、そういう自由な発想でもって、今後も本研究に取り組んでいきたいと思っています。

C:その発想は、なかなか現場からは出てこないでしょうね。

四倉:そういう新しい風を吹かせていただくことを期待しています。本研究では、スタート直後から具体的な研究課題を共有できたことで、研究スピードに勢いがついたように思います。産学が一緒に何かをするときには、お互いにちょっと一歩を踏み出して、より具体的に、より率直に意見を交換できる体制をつくることが大事だなと再認識しています。

C:まずはピカチュウのトレス線の内側に限定して自動彩色を試みるというように、比較的ハードルの低い課題からスピード感をもって解決していくというやり方も功を奏しているように思いますね。

四倉:そうですね。大きな研究課題に対し、どういう戦略で臨むかという点は、NAISTの皆様や前島と共にかなりディスカッションしてきました。われわれが最初に研究課題を提示した段階ではまだまだ漠然とした部分があったのですが、率直で活発な意見交換を繰り返す中で、具体的な課題へと分解できた点が特に良かったと思います。企業が大学に研究を丸投げするのではなく、まめにディスカッションをして、ちゃんと現場で実証実験をして、その結果を大学にフィードバックして、使える技術になるまで改良するというサイクルを回していきたいと思っています。

C:中割りの自動化についても、同じように意見交換をしているのでしょうか?

池澤:はい。中割りも非常に難しい課題なので、取り組みやすい小さな課題に分解し、私ともう1人の学生とが、それぞれちがうアプローチで取り組んでいる最中です。この最初の一歩が、今後の成否を決める大事なポイントだと思っています。彩色に少し先を越されてしまいましたが、中割りでも成果を出したいと考えています。

向川:期待しています(笑)。

四倉:期待しています(笑)。加えて、アニメの研究をしている日本の大学は少ないので、本研究が基軸となってアニメの研究に取り組む大学や研究機関が増えてくれることにも期待したいです。

C:おっしゃる通り、本研究の成果に加え、アニメやCGの研究体制拡充にも期待したいですね。お話いただき、ありがとうございました。

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