>   >  『ゴッド・オブ・ウォー』はなぜワンショットカメラを採用したのか?~GDC 2019レポート(1)~
『ゴッド・オブ・ウォー』はなぜワンショットカメラを採用したのか?~GDC 2019レポート(1)~

『ゴッド・オブ・ウォー』はなぜワンショットカメラを採用したのか?~GDC 2019レポート(1)~

ワンショットカメラを可能にする技術的飛躍

もっとも、ワンショットカメラを効果的に使うには、様々な技術的課題が存在した。「ズームレンズ」、「絵を汚す」、「手もち撮影」、「プリビズ」などだ。

はじめにズームレンズでは、プレイヤーにそれと気づかせないように、ゲームプレイと融合させる形で、さりげなく使用する必要があったと述べられた。そもそも人間の目は、カメラと同じように焦点は変えられるが、ズーム機能は存在しない。そのためズームレンズを用いた演出は、臨場感を重視する近年のハリウッド作品では、避けられる傾向にある。映像が作為的になりすぎるからだ。しかし本作では、イベントシーンとバトルシーンのつなぎ目で、ズームレンズを使用せざるを得ない場合がある。これをいかにさりげなく、かつ効果的に使うことができるかが重要だったという。

例としてあげられたのが、E3 2016で公開されたトレイラーの1シーンだ。クレイトスと巨大モンスターとの激しいバトルシーンがあり、クレイトスがモンスターの頭を羽交い締めにして地面に押し付ける。ここでカメラはズームアウトし、少し離れた地点で見ていたアトレウスの肩越しの視点になる。もっとも、アトレウスが弓で射た矢はモンスターではなく、クレイトスの右肩に当たってしまう。すると再びカメラはクレイトスにズームインして、格闘シーンが続き......というながれだ(下記動画、5分25秒~6分10秒あたりを参照)。

『ゴッド・オブ・ウォー』E3 2016トレイラー

このとき、カメラは24mmの広角レンズでクレイトスとモンスターの戦いを収め、続いてズームアウトして6m離れたクレイトスの肩越しに位置し、120mmの中望遠レンズで弓を投射する様を映す。そして最後に再びズームインして24mmの広角レンズで迫力あるバトルを描き......と、その焦点距離が変化していく。これら一連のながれがシチュエーションや、プレイヤーの心情をなぞっているからこそ、冷めることなくゲームに熱中できるというわけだ。

続いてArazi氏は、いわゆる「不気味の谷」を乗り越えるために、「絵を汚す」必要があるとした。前述したような手ぶれ、逆光、ハレーション、ピントのボケ、画面のざらつきといった、一連のポストエフェクトの活用だ(これがドキュメンタリー風の絵づくりにもつながり、感情移入度が高められるという)。そのためにArazi氏は、アーティストが実際のカメラやレンズに親しみ、その効果を知ることが重要だと述べた。また「手ぶれ」はキャラクターのアニメーションと同じくらい重要で、様々な動きをブレンドしてリアリティをもたせること。その上で、やりすぎて画面酔いの原因にならないように注意が必要だと指摘した。

最後にArazi氏が指摘したのがプレビズ(プリビジュアライゼーション)の重要性だ。『GoW』においても開発チームがイベントシーンの内容にあわせて芝居を行い、その内容をビデオカメラで撮影して、プレビズに多用したという。そのために重要なのがリハーサルとなる。Arazi氏は「3DCGツールで作業をする前に、アナログの世界でできることがある」と、アーティスト自身が役者となってプレビズを収録する重要性を念押しした。



様々な要素の集合で総合的にナラティブを演出する

Arazi氏が指摘したのは、ゲームならではの物語体験をプレイヤーに対して、どのように効果的に提供し続けるか、という点だ。Arazi氏は「一人称視点は没入感が高く、三人称視点は共感性に富む。ゲームでは三人称視点に一人称視点の良さを加えることで"共感的な没入感(Empathetic Immersion)"を提供できるが、この状態を保つのは"スプーンで卵をすくって走り続けるようなもの"だ」と指摘する。この状態を保つのは非常に難しく、一度地面に落としてしまえばリカバリーが難しいというわけだ。

その上で具体的なやり方としてあげたのが、ドキュメンタリースタイルの絵づくりであり、ワンショットカメラの採用だが、他にも様々なテクニックがあるという。

一番重要なことは分野横断的な開発体制にもとづき、お互いが緊密に連携をとることだ。レベルデザインにおいては「ディズニーランドのアプローチ」が重要で、プレイヤーに適切な物語体験を提供するには、適切な環境が必要だと言う。ライティングにおいても、単に遊びやすいというだけでなく、ナラティブを意識することが重要だ(ドラマチックな照明で物語をひきたてるのは、映画ではおなじみの手法だ)。ゲームデザイナーとシナリオライターの緊密な連携は言わずもがなで、ゲームではプロットではなく、キャラクター主導で物語を展開していく必要があるという。

その上で、これら全てを可能にする土台となるのが、明確で詳細なパイプラインの構築だ。こうした細かいつくり込みを大規模開発と両立させた同社の開発体制や効率化は見事と言うしかなく、AAAゲーム開発の奥深さを感じさせた。国産ゲーム開発においても学ぶ点が多々あるセッションだったといえるだろう。

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