面白い作品をつくってほしいが、採用では作品性より技術力が問われる
C:古岩先生はデジタルハリウッドの卒業生でもあるそうですが、卒業なさったのはいつですか?
古岩:2005年頃だったと思います。半年間のコースでMayaを勉強しました。その後、スクールのTA(Teaching Assistant)をやりつつデモリールを充実させ、ポリゴン・ピクチュアズで働き始めました。その少し前の2008年頃からスクールの講師をやり始め、途中から大学のゼミも担当するようになり、今にいたります。
C:例えば1年制のスクールの場合、1年間でCG制作のイロハを習得し、CG映像業界に就職することが大多数の学生の目標だと思います。そんな中で観る人の心を動かすショートフィルムまでつくるのは、かなりハードルが高いのではないでしょうか?
杉山:その通りです。だからスクール生の約半数は、ショートフィルムをつくらず、デモリール制作だけに集中しています。その方が就職につながりやすいとは思いますが、指導する先生たちにはいろんなジレンマがありますよね。実際のところ、古岩先生はどちらを推奨していますか?
古岩:学生の意向を最優先にしています。私が指導している本科CG/VFX専攻は1年間でMayaの基本を勉強しつつ、After Effects、ZBrush、Houdiniなどにも触れるので、学ぶことは大量にあります。加えてゼネラリスト志望の人もいれば、スペシャリスト志望の人もいますから、卒業制作をつくり始める前に、ショートフィルムとしてつくる場合の良い点と悪い点、デモリールとしてつくる場合の良い点と悪い点を、必ず伝えるようにしています。それを踏まえて学生に考えてもらった上で、各々の企画をヒアリングし、卒業制作の内容やボリュームを決めていきます。
学生の中には働きながら通学している人や、他校と本校のダブルスクールで学んでいる人もいるので、卒業制作に使える時間は人によって様々です。各々の状況に応じて「1人でショートフィルムをつくるなら、このくらいのボリュームに抑えた方が良いんじゃないか」「アニメーター志望で使える時間も限られているなら、デモリールの方が良いんじゃないか」といった提案をするようにしています。
C:それぞれの良い点と悪い点というのを、具体的に教えていただけますか?
古岩:ショートフィルムとしてつくる場合の良い点は、作品づくりを楽しめることと、作品全体の制作に携われることですね。いったん就職してしまうと、作品全体の制作に携われる機会はそうそうありません。特に分業体制のCGプロダクションだと「このエピソードの、このカットの、このアニメーション」というように、ひとつの作品の限られた部分に接することしかできません。自主制作をするための時間の確保も難しくなります。ただし中途半端な出来映えのショートフィルムになってしまうと、就職はもちろんコンテストでも評価されないという、散々な結果になります。
杉山:話が面白くない上に、モデルも動きも大したことがなければ、どれもできない人に見えてしまいますからね。
古岩:デモリールとしてつくる場合の良い点は、自分が得意な分野の技術力を磨き、それをプレゼンテーションすることに集中できる点ですね。採用する側は、往々にして作品性よりも技術力を見ているので「ストーリーは表現せず、技術力だけを見せる」というように割り切っても良いといった話もしています。
C:以前、とあるCGプロダクションの取締役にインタビューした際に「コンテストで作品を審査するときと、採用担当者としてデモリールを審査するときとでは、評価基準を完全に変えている」という話をなさっていましたね。「人を採用するときには、職人としての腕の良し悪しを見ている」と語っていました。
古岩:はい。「技術力しか見ていないと言っても過言ではない」という話もしています。そのせいもあって最近はデモリールだけをつくる学生が増えてきたのですが、スクールとはいえ、それで良いのかな......という思いもあります。個人的には、面白い作品をつくってほしいという思いを常にもっています。私が学生だった時代は、全員が卒業制作としてショートフィルムをつくっていましたしね。
杉山:だんだんと、業界全体がショートフィルムではなくデモリールを見たがるようになってきたので、教育機関もそのニーズに応えるようになったという背景がありますね。採用する側としては、デモリールを見せてもらった方がわかりやすいですから。
C:加えて、特にスペシャリスト志望の人は、モデラーにしろ、アニメーターにしろ、エフェクトにしろ、1人でショートフィルムをつくるのは無理がありますよね。
杉山:ところがたまに奇跡を起こす人がいるから面白いんですよ。去年の平松さんは1人で良いショートフィルムをつくり、SSFF & ASIA 2018のレッドカーペットの上を歩き、作品が上映されましたが、ゼネラリストではなくアニメーター志望でした。彼のショートフィルムは複数のCGプロダクションの採用担当者に評価され、卒業後はアニメーターとしてオムニバス・ジャパンに採用されました。
▲【左】SSFF & ASIA 2018にてCGアニメーション部門のアワードセレモニーに参加した監督やプロデューサーたち/【右】写真中央が、前述の『レター(LETTER)』を制作した平松氏。「アワードセレモニーに招待されると、有名監督や俳優さんと同じレッドカーペットの上を歩き、フォトセッションに応じ、アフターパーティでは世界各国の受賞者やフィルムメーカーの人たちと交流できます。良い思い出になりますし、親御さんは喜ぶし、以降の制作にも何らかの影響を与えると思います」(杉山学長)
写真提供:ショートショート実行委員会
C:すごいですね。そんなレアキャラもいらっしゃるんですね。
古岩:そうなんです。一概には言えないから、複数の選択肢を提示して、挑戦できる余地をつくっておきたいと思います。スクール生は総じて年齢が高く、いろんな経験を積み、様々な引き出しをもっているので、大学生よりもストーリーをつくる能力が高いように思います。私自身「なるほど」と勉強になることもあって、スクールならではの予測できない可能性があると感じます。一方で、大学で担当しているゼミの方は「卒業制作はショートフィルムしか認めません」という縛りを設けてあるので、学生たちは腰を据えて作品制作に取り組んでいます。
杉山:大学の場合は在学期間が4年間もあるし、ゼミに所属する前の1、2年次にCGの基礎を学習しますからね。とはいえ、ストーリーテリングを教えるのは大変だと思います。
古岩:すごく大変ですね。CGの技術よりも、レウアウトや演出を教えることの方に力を入れています。私自身、それなりの知識を常に取り入れておく必要がありますし、学生の企画に対して意見を言う場合は、なるべく論理的に説明しないと納得してもらえません。「それを伝えたいなら、事前にこういう情報がほしいよね」とか、「それを伝えるのが目的なら、これは不要では?」といった話し合いを重ね、半年くらいかけてストーリーや絵コンテを練り上げてから、実制作に入るよう指導しています。
C:実制作に入る前の期間が長いですね。
古岩:しっかり企画を詰めてから実制作に入らないと、無駄な作業が大量に発生してしまいます。それで作品が完成しなければ、学生も私もつらいです。ただ、その後の実制作にも10ヶ月くらいの期間をかけるので、途中で息切れしてしまい、モチベーションが下がる学生もいます。仕事ではあたり前のことですが、20歳そこそこの学生が、1年以上同じことをやり続け、しかも毎週ダメ出しをされるのはつらいだろうと思います。それでもコツコツと続けられる学生はいるので、そういう人の姿を見て、また奮起してくれるケースもあって、そこは学校ならではの良さだなと思います。
C:同じゼミの学生に差をつけられている現実を見れば、やっぱりがんばろうと思いますよね。原則として、作品制作は1人で行うのでしょうか?
古岩:グループ制作も認めています。1人で質の高い作品をつくるのは難しい時代になってきましたし、「モデリングは得意だけど、アニメーションは苦手だから、得意な人と組みたい」というように、自分の向き不向きを把握している学生も多いです。だから4年生同士でチームを組む場合もありますし、作品制作の一部を3年生に手伝ってもらう場合もあります。4年生が最大限がんばって作業をすることが大前提ですが、その上で「背景のこの部分だけは3年生に手伝ってもらう」といった分担は認めています。そうすると3年生はその経験を踏まえて卒業制作に取り組めるので、面白いながれになってきたなと感じています。
C:在学期間が4年間あると、いろいろな経験を積めますし、自分の向き不向きを見極める機会も多いでしょうね。
杉山:そこは大学のメリットですね。スクールの場合は、必死でツールを覚えて、脇目も振らず卒業制作をつくって、気が付いたら在学期間が終わっているというケースも多々あるでしょう。
古岩:そんな中で、就職できるだけの力をつけることが求められるので、ショートフィルム制作を推奨しないケースもありますね。平松さんは早い時期からショートフィルムをつくりたいという強い意欲があったのですが、学生の中には高い技術力があるにも関わらず「何をつくって良いかわからない」という人もいます。そういう人には、デモリールをつくるよう勧めることが多いです。
C:創作意欲は、教えられるものではないでしょうからね。
杉山:そんな背景もあって、スクールでは2018年度から新たに本科CGヴィジュアルアーティスト専攻という1年制のコースを立ち上げました。「とにかく作品をつくりたい」と思っている人を集めようという心意気でやっており、美術系の教育機関の卒業生やクリエイティブ業界の経験者だけを受け入れるという制限を設けています。最初期の本科では選考時にデッサンの試験をやっていたので、それに近い位置づけだと思います。
C:創作意欲があり、何らかの表現をしてきた経験のある人を対象に、CGによる表現のやり方を教えるコースというわけですね。そのコースの学生も、DFでの受賞や、SSFF & ASIAでの上映をひとつの目標として、作品制作に取り組んでいるのでしょうか。
杉山:そうであってほしいと願っています。まだ立ち上げたばかりのコースなので、どんな作品が出てくるのか、楽しみでもありますし、ドキドキしてもいます。蓋を開けてみたら、クレイアニメをつくる人がいるかもしれません(笑)。
C:クレイアニメとCGアニメーションの融合作品が出てきたら、それはそれで面白そうですね。本日はお話いただき、ありがとうございました。
info.
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ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 2019
映画祭代表:別所 哲也
フェスティバルアンバサダー:LiLiCo(映画コメンテーター)
開催期間:5月29日(水)~6月16日(日)
上映会場:都内複数の会場にて
※開催期間は各会場によって異なります
料金:無料上映
※予約開始は4月24日(水)を予定。一部、有料イベントあり。
お問い合わせ先:03‐5474‐8844 / look@shortshorts.org
主催:ショートショート実行委員会 / ショートショート アジア実行委員会
https://www.shortshorts.org