今月はニュージーランドからお届けしよう。今年2月に開催された第24回VFXアワードにおいて、最優秀キャラクター賞「ドラマ部門/コマーシャル部門/リアルタイム部門」でノミネートされたWētā FXの張本嘉浩氏。日本で生まれ、ニュージーランドに移住した張本氏の横顔に迫る。
Artist's Profile
張本嘉浩 / Yoshihiro Harimoto(Lead Creature Technical Director / Wētā FX)
1986年東京都生まれ。1994年まで神奈川県日吉で過ごし、1999年まで台湾・台北日本人学校に5年間在籍し、2000年にニュージーランドのオークランドへ移住。2005年にオークランド大学へ進学し、生物医学を専攻。在学中の2007年にMedia Design Schoolにて3Dアニメーションを学び、オークランドでフリーランスとして3DCG制作に従事する。2009年後半にはWētā FX(旧Weta Digital)にて、映画『アバター』(2009)の制作に参加し、ハリウッドデビューを果たす。フリーランスとして活動した後、Wētā FXに再び参加。その後、同社でキャリアを積み、現在はLead Creature Technical Directorとして勤務している
www.wetafx.co.nz
日本、台湾、ニュージーランドで過ごした学生時代
――子供の頃や、学生時代の話をお聞かせください。
13歳までは日本と台湾で教育を受け、図工や算数、科学、体育が好きで、サッカーに夢中でした。家族でハリウッド映画を観ることも楽しみでした。14歳でニュージーランドへ移住し、現地の学校に通い始めました。
当時、ピーター・ジャクソン監督の『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズが公開され、特に『王の帰還』のワールドプレミアをTVで観たときの興奮は忘れられません。16歳でエクステンデッド・エディションDVDの特典映像を観て映画制作の裏側を知り、VFXに強い関心を持つようになると同時に、Wētā FXの凄さを知りました。自分の住むニュージーランドでハリウッド映画が制作されているという事実も、大きな衝撃でした。
こうしてVFXに興味をもちはじめ、高校の夏休みには3ds Maxの短期コースを受講したこともあります。
ニュージーランドへの移住から1年後、父が歯科技工士としてのスキルにより永住権を取得しました。私自身も家族帯同として永住権を取り、24歳でニュージーランド国籍を取得しました。
――海外の映像業界での就職活動は、いかがでしたか?
私の場合は、ニュージーランドという特殊な環境での経験になります。
人口が少なく、一見すると3DCG業界の発展しにくい国ですが、1990年代後半に『ロード・オブ・ザ・リング』の制作をきっかけに、Wētā FXを中心とした世界的な拠点へと成長しました。
私はオークランド大学(The University of Auckland)在学時には生物医学(Biomedical Science)を専攻しましたが、2007年に進路を転換し、同じくオークランドにあるMedia Design Schoolで2年間、3Dアニメーションを学びました。
Media Design Schoolを卒業後、学生作品でデモリールを作成し、オークランドの小規模スタジオへ応募しました。不採用や返信がないこともありましたが、Yukfoo Animation Studioで約4ヵ月間の経験を積み、その後、映画『アバター』(2009)制作に向けたWētā FX(当時はWeta Digital)の募集に応募し、約3ヵ月間、プロジェクトに参加しました。卒業した年に憧れの会社で働けたことは大きな驚きであり、非常に嬉しい経験でした。
就職活動から学んだ重要な点は3つです。まずデモリールは「短く・分かりやすく・ベストのみ」を見せること。次に、不採用や無返信を恐れず応募を続けること。そして、3DCG業界ではタイミングや運も大きく影響するため、準備を怠らないことです。ニュージーランドではWētā FX以外の機会は限られていますが、挑戦を続けることで道が開けると感じました。
英語はほぼ母国語レベルで使えましたが、面接で最も大きな課題だったのは語学力ではなく緊張への対応で、面接そのものに慣れておくことも、語学力と同じくらい重要だと感じました。
――現在の勤務先はどんな会社でしょうか。簡単にご紹介ください。
2010年から現在まで、ニュージーランド・ウェリントンを拠点とする世界的なVFXスタジオである Wētā FXに勤務しています。
同社は映画や映像作品における高度なVFX制作を専門としており、リアルで没入感のある映像表現において業界をリードしています。近年はメルボルンやバンクーバーにもオフィスを展開し、総勢2,000人以上のスタッフが在籍しています。
代表的なプロジェクトには『アバター』や『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズがあり、最先端の技術とアーティストの創造力を融合させた作品づくりを行なっています。
――最近参加された作品で、何か思い出に残るエピソードはありますか?
『ストレンジャー・シングス 未知の世界』 シーズン5(2025)に、クリーチャーリードとして関わりました。制作期間中は非常に忙しかったのですが、同僚の多くや私自身がシリーズの大ファンだったこともあり、最終シーズンに携わることができたのはとても嬉しい経験でした。
マインド・フレイヤー制作チームとして2026年のVisual Effect Society Awardsにノミネートされたことも嬉しかったです。
憧れだったWētā FXでクリーチャーに命を吹き込む
――現在のポジションの面白いところは何でしょうか。
現在はクリーチャー部門でクリーチャーリードとして働いています。このポジションで最もやりがいを感じるのは、自分が手がけるクリーチャーに命を吹き込むプロセスです。
筋肉の動きや収縮、筋膜(ファシア)の滑り、脂肪の揺れ、シワの寄り方といった細かな要素を積み重ねることで、キャラクターにリアリティを与えていきます。こうした微細なディテールを丁寧に積み上げていくことで、最終的に“本当にそこに存在している”と感じられるレベルまで引き上げられる点が、この仕事の大きな魅力だと思います。
――ニュージーランドでの生活はいかがでしょうか?
私はニュージーランドのウェリントンに住んでいます。
ウェリントンは「風の街」と言われるほど風が強いことで有名ですが、年間を通して気温の変化は比較的穏やかで、過ごしやすい気候です。
また、カフェ文化が非常に発達しており、コーヒーのクオリティが高いのも特徴です。食に関しても多国籍で、アジア料理やヨーロッパ系のレストランが充実しているほか、日本食レストランや日系スーパーもあり、日本の食材もある程度手に入ります。
プライベートでは、結婚して子どもが2人いるため、週末は家族中心の生活になります。子どもたちを公園やビーチに連れて行ったり、軽いハイキングをしたりして過ごすことが多いです。また、ウェリントンは自転車レーンも整備されているため、家族で自転車に乗って出かけることもあります。夏の暖かい時期には、キャンプに行くこともあります。
自然が身近にあり、都会すぎず落ち着いた環境の中で、家族と過ごす時間を大切にできるのが、ウェリントンでの生活の魅力だと感じています。
――英語や会話のスキル習得はどのようにされましたか?
私は14歳で両親とともにニュージーランドへ移住し、現地の学校で英語による授業を受け始めました。最初の1年間は授業についていくのも難しく、英語習得には大変苦労しました。
転機となったのはサッカーチームへの参加です。地元の友人ができ、日常的に英語で会話する機会が増え、学校だけでなくプライベートでも英語を使う環境に身を置けたことで、自然と会話力が伸びていきました。
その結果、5年後の高校卒業時には英語をほぼ母国語レベルで使えるようになりました。ふり返ると、ティーンエイジャーの時期に移住できたことは大きなアドバンテージであり、両親にはとても感謝しています。
ただし、それ以上に重要だと感じるのは、環境に関わらず自分から積極的に話す機会を増やすことです。英語力向上には「できるだけ多く使うこと」が最も効果的だと思います。
――将来、海外で働きたい人へのアドバイスをお願いします。
まず一番大切だと感じるのは、自分の専門分野で通用するスキルをしっかり身につけることです。
特に映像やVFX業界では、学歴よりもデモリールなどのアウトプットで評価されるため、「自分は何ができるのか」を明確に示せる準備が重要になります。
次に、継続して挑戦し続けることです。海外就職では不採用や無返信はごく一般的なので、そこで諦めずに応募を続けることが大きな差になります。チャンスはタイミングに左右される部分も大きいため、準備を続けながら機会を待つ姿勢が重要です。
また、英語力については「完璧さ」よりも「使うこと」が大切だと感じています。どんな環境でも、自分から積極的に使い続けることで確実に伸びていきます。
さらに、国や地域によってチャンスの数や業界の構造が大きく異なるため、どこで働くかという戦略も重要です。環境に合わせて目標を明確にすることで、進むべき道がより見えやすくなります。
海外で働くことは決して簡単ではありませんが、やるべきことはシンプルです。スキルを磨き、挑戦を続け、常に準備しておくこと。それを積み重ねていけば、チャンスは必ずどこかで巡ってきますし、そのときに掴めるかどうかは自分次第です。
そして何より、自分が本当にやりたいことに向かって挑戦し続ける過程そのものが、大きな価値になると思います。ぜひ恐れずに一歩踏み出してみてください。
【ビザ取得のキーワード】
①14歳で両親とともにニュージーランドへ移住
②現地で中学・高校教育を受ける
③父がニュージーランド永住権を取得し、家族帯同として永住権を取得
④24歳でニュージーランド国籍を取得
連載「新・海外で働く日本人アーティスト」では、海外で活躍中のクリエイター、エンジニアの方々の海外就職体験談を募集中です。
ご自身のキャリア、学生時代、そして現在のお仕事を確立されるまでの就職体験について。お話をしてみたい方は、CGWORLD編集部までご連絡ください。たくさんのご応募をお待ちしてます!(CGWORLD編集部)
TEXT_鍋 潤太郎 / Juntaro Nabe
ハリウッドを拠点とするVFX専門の映像ジャーナリスト。著書に『海外で働く日本人クリエイター』(ボーンデジタル刊)、『ハリウッドVFX業界就職の手引き』などがある。
公式ブログ「鍋潤太郎☆映像トピックス」
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada