本連載では、CG映像制作におけるテクニカル系スタッフの仕事の現状と課題を、パイプライン開発の専門家である痴山紘史氏(日本CGサービス(JCGS)代表)が探っていく。第13回では、AI技術の研究開発で知られるPreferred Networks(以下、PFN)を取材。3Dスキャンや3D生成AI、空間理解技術などを手がけるメンバーへの取材を通して、AIと3DCGの接点で進化を続けるテクニカル系スタッフの仕事を前後編にわたって深掘りする。

記事の目次

    PFNのAI・3DCG開発を担うメンバーたち

    松元叡一氏(以下、松元):私はPFN創業初期から在籍し、約11年にわたり画像処理やコンピュータビジョン領域の研究開発に携わっています。初期にはロボット分野へのAI技術の応用に取り組み、その後、社内で3Dスキャン技術の開発部門を立ち上げ、リードを担当してきました。現在は、コンピュータビジョン領域全体を扱う事業部門のリードも務めています。

    ▲松元叡一氏(AIプロダクツ&ソリューションズ事業本部/次世代視覚ソリューション開発部 部長)

    小林颯介氏(以下、小林):私は松元の少し後にPFNへ入社し、もうすぐ在籍10年になります。もともとは自然言語処理の研究を専門としていましたが、その後、画像、動画、3Dへと研究領域を広げてきました。現在は、コンピュータビジョンや3D領域にも深く関わっています。

    小林颯介氏(リサーチャー)

    松岡 徹 氏(以下、松岡):私はPFN入社以来、一貫して3DCG・映像領域の技術開発に従事しています。それ以前は映像制作やゲーム開発の現場でキャリアを積んでいましたが、3D制作の領域も今後はAIによって大きく進化していくと感じたことからPFNへ参加したんです。現在は、3D技術を活用したツール開発や技術研究に取り組んでいます。

    ▲松岡 徹 氏(エンジニア)

    伊藤 翔 氏(以下、伊藤):私の担当は事業開発・ビジネス開発です。ほかのメンバーが所属している技術開発部門とは異なる立場ながら、PFNにおける3D領域の事業開発については中心的に関わっています。前職・前々職でもVR系スタートアップで3D領域の事業開発に携わっており、PFNでもその延長線上で3D領域の事業展開を推進しています。

    伊藤 氏(AIプロダクツ&ソリューションズ事業本部 ビジネス開発)

    PFNは何の会社なのか。「垂直統合」で読み解く事業構造

    松元:PFNは、今回メインでお話しする3Dスキャン以外にも、非常に幅広い領域で事業を展開しています。そのため、外から見ると「何をコアにしている会社なのか」が少し見えにくい部分もあるかもしれません。

    PFNの取り組みを整理する上で重要になるのが、「垂直統合」という考え方です。AIを取り巻くエコシステム全体を、下層から上層まで一貫して手がけていく。PFNでは、AI半導体、計算基盤、生成AI基盤モデル、AIプロダクト・ソリューションまでを自社で連続的に開発しています。

    ▲PFNの垂直統合事業モデルの概要

    松元:まず、一番下のレイヤーにあるのがAI半導体です。PFNでは、AI向け半導体そのものを自社で開発しています。

    ▲PFNが開発するAIプロセッサー「MN-Core」の概要

    松元:その上にあるレイヤーが、そうした半導体を用いた計算基盤、いわゆる計算クラスターです。自社開発の半導体を用いる場合もありますし、一般的なGPUを並べた大規模計算基盤も整備しています。

    近年のAIは、大量のデータを膨大な計算機で学習させる方向へ進化しており、扱うデータやモデルの規模も急速に拡大しています。そのため、大規模な計算基盤を整備し、その上で巨大なモデルを構築・運用することが重要になります。

    ▲PFNが構築した計算クラスター

    松元:さらにその上位に位置するのが、生成AI基盤モデルのレイヤーです。代表例のひとつが、大規模言語モデル「PLaMo」です。日本語データを重点的に学習させており、日本語性能に強みをもつモデルとして展開しています。現在は企業向けトライアルも開始しており、2026年3月にはニュースリリースも出しました。

    国産フルスクラッチ開発の、大規模言語モデル「PLaMo」の概要

    松元:さらにその上にあるのが、「AI Products and Solutions(AIPS)」のレイヤーです。本日参加しているメンバーもこの部門に所属しており、生成AI基盤モデルなどの技術を、実際のプロダクトやサービス、企業向けソリューションへと接続する役割を担っています。

    AIPSでは、本当に幅広い産業領域にAI技術を展開しています。AI技術は、ひとつの産業に閉じず、異なる領域へ横展開しやすい特性をもっています。これは大規模言語モデルだけでなく、画像系AIについても同様です。

    ▲PFNのAI技術は、エンターテインメントを含む幅広い産業領域をサポートしている

    松元:PFNの特徴は、こうした技術を垂直統合で下層から積み上げながら、同時に水平方向へ幅広く応用している点にあると思います。

    代表的なのが製造業です。例えば工場の自動化や効率化にAIを適用する取り組みがありますし、素材科学の領域では、新素材や合金の探索にもAIを活用しています。「どの金属を、どの比率で組み合わせると、より性能の高い合金ができるのか」といった探索を、AIによって高速化しているわけです。

    このように、PFNでは様々な産業領域へ技術を展開しています。

    その中で、今回テーマとなる3DCGや映像は、エンターテインメント領域に位置づけられます。CG映像業界から見ると、PFNがこの領域に以前から取り組んでいたことは、あまり知られていないかもしれません。ただ実際には、かなり早い段階から継続的に関わってきた領域でもあります。

    3Dスキャンチームの開発体制

    松元:3Dスキャンチームにはエンジニアが10名ほど在籍しているのに加え、ビジネスサイドのメンバーも所属しています。組織としては、先ほどお話しした垂直統合モデルの最上位にあるAIPSの中に、コンピュータビジョン領域を専門に扱う「次世代視覚ソリューション開発部」があり、3Dスキャンチームのメンバーもその中に所属しています。

    3Dスキャンの話に入る前に、PFNがこれまで取り組んできた教育とエンターテインメント領域の事例についてもご紹介できればと思います。

    ひとつは教育の領域です。PFNでは教材開発も手がけており、「Playgram」は、ゲーム感覚でプログラミングを学べる教材として展開しています。

    ▲PFNが開発する、小学生向けプログラミング教材「Playgram」の概要

    松元:また、エンターテインメントとしてSteamで配信している「Omega Crafter」は、クラフトゲームの形式を採用したコンテンツです。相棒のようなキャラクターをプログラミングすることで、木を切る、素材を加工するといった作業を自動化できるしくみになっており、遊びながらプログラミングの考え方に触れられるよう設計されています。

    さらにCG映像業界向けの取り組みとして、「Scenify」と呼んでいるプロダクトがあります。これは、写真をベースに背景をアニメーション作品に馴染むルックへ変換するソフトウェアです。今では珍しくない技術ですが、PFNではかなり早い段階から取り組んでいました。具体的には、写真をアニメ風に変換したり、アーティスティックなスタイルを加えたりしながら映像制作へ活用するもので、東映アニメーションと共同で取り組んだ事例もあります。

    実験映像作品『URVAN』(2021)における、「Scenify」を利用した背景美術制作の例。詳細はニュースリリースを参照

    松岡:別のアプローチとしては、かなり前になりますが、映画制作向けに群衆アニメーションのAI技術を提供したこともありました。人物の動きをAIで計算し、群衆表現へ活用するという取り組みです。

    松元:それ以外にも、AIを活用したキャラクターデザイン支援の事例があります。AIに様々なデザインパターンを生成させ、それを人が確認しながらデザインへ落とし込んでいくかたちです。生成結果をそのまま使うというよりは、アイデア出しの段階で活用するアプローチでした。

    伊藤:直近の事例のひとつとしては、TBSの日曜劇場『GIFT』(2026年4月放送開始)があります。私たちは背景制作工程の一部を担当しており、作品内で重要な舞台となる体育館を3DGS(3D Gaussian Splatting)で復元し、スタジオ内でのキャスト撮影の背景として活用できるようにする取り組みを進めています。

    ▲3DGSで再構築された『GIFT』の体育館

    小林:この作品は車いすラグビーをテーマにしており、体育館がメインロケーションとしてくり返し登場します。そのため、単純に空間を3D化するだけではなく、最終的に映像の中でどう使われるのかをふまえながら、どのアングルを重視して撮影するのか、どのように復元するのかまで含めて設計する必要がありました。

    松元:こうしてふり返ると、PFNは最近になってエンターテインメント領域へ参入したというよりも、かなり前から少しずつ関わりを深めてきたと言えると思います。CG映像業界からはそう見えていなかったかもしれませんが、実際には継続的に様々な取り組みを行なってきました。

    3D技術の出発点は、ロボットと自動運転

    松元:PFNでは様々な産業領域のサポートに取り組んでいますが、その中で3D関連の技術開発が立ち上がってきた背景には、エンターテインメントとは異なる文脈があります。

    ロボットや自動運転の分野では、3D技術が非常に重要になります。例えば、ロボットが物体を掴んだり、自動運転車が歩行者や障害物を回避したりするためには、空間を三次元的に正しく認識しなければなりません。

    そして、そうした3D空間をAIが扱えるようにするためには、学習用の3Dデータセットが不可欠です。大量の3Dデータを構築するには、多数の3Dモデルを用意する必要があり、その過程で3Dスキャン技術が求められました。つまり、AI開発のためにデータが必要で、そのデータをつくるために3Dスキャン技術が必要だった、というながれです。PFNでは、私が入社した11年ほど前から、この領域の研究開発を継続しています。

    そうしたながれの中で立ち上がったのが、「PFN 3D Scan」です。サービスを開始したのは、今から5年ほど前になります。3Dスキャン技術をCG映像制作へ活用し始めたのもこの頃で、私たちがスキャンしたアセットをVTuberのミュージックビデオで使っていただきました。PFNとして3Dスキャン技術を外部へ展開していく、最初期の取り組みのひとつだったと思います。

    ▲AIPS事業のひとつである「PFN 3D Scan」の概要

    PFNの3Dスキャンは、何がちがうのか

    松元:ちょうど5年ほど前は、NeRF(Neural Radiance Fields)や3DGSのような、AIベースの三次元復元技術が登場し始めた時期でした。PFNでは、そうした技術を比較的早い段階から取り入れ、3Dスキャンサービスの開発を進めてきました。

    CGWORLD(以下、CGW):当時は3Dスキャンサービス自体が増え始めていた時期でもありましたが、その中でもPFNのスキャンは、透過物や反射物、いわゆる透明な物体の再現性が高い印象がありました。

    松元:AIベースの3Dスキャン手法は、従来のレーザー計測中心の手法とは、アプローチ自体が異なります。例えば透過物は、レーザーでは距離情報を取得しづらく、三次元復元が難しいケースが多くありました。一方、AIベースの手法は、その点に強みがあります。

    もうひとつの特徴は、カメラで撮影した写真を元に空間を再構築していくため、見た目の再現度が非常に高いことです。人が見たときに「リアルだ」と感じられる表現に強いのは、AIベースの3Dスキャン技術ならではの特徴だと思います。PFNでも、そうした再現性を重視しながらサービス開発を進めてきました。

    ▲3Dスキャンした背景を活用したバーチャルプロダクション

    松元:PFNの3Dスキャンで特徴的なのは、市販のサービスをそのまま利用するのではなく、スクラッチに近いレベルから実装し、内部をカスタマイズしている点です。

    NeRFや3DGSは、ディープラーニングの研究領域から生まれてきた技術でもあります。そのため、PFNがこれまで蓄積してきた計算基盤や研究開発との相性も非常に良かったんです。そうした背景もあり、単純に3D化するだけではなく、できる限り高い再現度を目指した開発を進めています。

    AIと3DCGの技術開発に真正面から取り組む

    CGW:日本では、「AI×3D」というと生成AIの活用事例が中心で、技術開発そのものへ本格的に取り組んでいる会社は、まだそこまで多くない印象があります。

    伊藤:そうですね。だからこそ、PFNの独自性は、AIと3Dの両方を研究開発レベルから手がけている点にあると思っています。

    私がPFNに惹かれたのは、日本国内でAIと3Dをかけ合わせ、本格的に技術開発を行なっている会社が非常に少ないと感じていたからです。3DやVRの延長線上でAIを活用している会社はありますが、基礎研究から取り組んでいる会社は、かなり少ないと思います。

    松元:現在、PFNでは3D領域を大きく3つに分けて捉えています。

    ひとつは、現実空間や物体を高精度に再現する3Dスキャン。2つ目は、画像やテキストから三次元データを生成する3D生成AI。そして3つ目が、ロボットや自動運転向けの3D空間理解です。

    こうして俯瞰すると、PFNにとっての3Dは、特定領域向けの個別技術というより、複数の産業領域にまたがる基盤技術として位置づけられていることがわかると思います。

    本記事の後編は、2026年6月公開予定です。

    痴山紘史

    日本CGサービス(JCGS) 代表

    大学卒業後、株式会社IMAGICA入社。放送局向けリアルタイムCGシステムの構築・運用に携わる。その後、株式会社リンクス・デジワークスにて映画・ゲームなどの映像制作に携わる。2010年独立、現職。映像制作プロダクション向けのパイプラインの開発と提供を行なっている。

    TEXT_痴山紘史/Hiroshi Chiyama(日本CGサービス
    EDIT_尾形美幸/Miyuki Ogata(CGWORLD)
    PHOTO_弘田 充/Mitsuru Hirota