トポロジーのさらなる改良
頭部トポロジーのながれは前作『STAND BY ME ドラえもん』(詳しくは本誌vol.193を参照)のときと比べて、今回はFACS(後述)用フェイシャルターゲットがつくりやすいように変更された。LightStageのモデルや海外のブレイクダウンなどを参考にして、良いとこ採りを目指したという。また、目頭の形状はデフォルメされているため涙腺はなく、瞼は欧米人のようなソケット型二重に。監督がアニメ的なアイキャッチ(主光源の反射)を望んだため、眼球の形状は人間のように先細りではなく、真球に瞳孔の凹凸がついている形状になっている
MARIによる高精細のテクスチャ
肌部分はMARIのテンプレートデータを使用。肌のキメ、血管、シミ、ほくろなどはプロシージャル。脂肪が薄い部分の赤みなどはUVベースでつくられている。マップはDiffuse、 Reflection、 ReflectionGlossiness、 Normalで、チャンネル内のレイヤーがリンク(インスタンス)されている。なお、Substance Painterも試していたが、自由なリンク関係の繋ぎ方がわからなかったのと、UDIMのシームレスなペイントができなかったため、採用は見送られた。UVはできる限り共通にしているが、どうしても個別になったときはMARIの転送機能を使用。目と口は半開きのUVで作成された。4チャンネルごとに各10UDIMで4Kのマップだったため、作業が非常に重くなってしまい、作業者にはできるかぎりレイヤーキャッシュやMariExtensionPackのPause Viewportを使って作業軽量化してもらったという
プルプルで透明感のあるスラりん
「ドラゴンクエスト」シリーズのマスコット的キャラクター、スライムのスラりん。本作ではゼリーのような透明感のあるルックに仕上げられている。「マテリアルからショットまで、V-Rayに関わる問題は多かったのですが、オークの技術サポートでひとつひとつクリアしていきました。V-Rayに限らない知識の量と質には本当に助けられました」とV-Ray代理店のオークを絶賛する山口氏。このスラりんの質感も難易度が高く、サポートを受けた部分だという
パイロット版の制作時は口内が透けないようにレンダリングを別にしたり、裏側から見たときに穴が空いている部分が見えてしまったため、前からと後ろからでは別のモデルでレンダリングしたりしていた。本制作に入ってからは1モデル、1レンダリングで終るように改良。目と口の穴は屈折にしか影響しないオブジェクトで動的に塞いでいる
口内から飛び出した眼球は、口内モデルを距離マスクに適用してマテリアル側で透明にし、消している
口内のように身体と一体でプロパティ設定できないものは、VrayOverrideMtlの屈折に透明マテリアルを繋いで、身体を通して透けて見えないように設定
完成カットの一例
ネコ科らしい身体つきと毛が印象的なキラーパンサー
キラーパンサーをはじめとする毛が生えたモンスターは、最初は毛がない状態でつくられたが、その上でFurを生やすと印象がホワっとボケたものになりがちだった。特に眉間の肉の盛り上がりでできるシワは残したかったので、試行錯誤が重ねられた。とはいえ先端の技術ではなく、担当者がアナログに手動で直して、監督とチェックを重ねるという、地道な作業のくり返しだったという。また、アップで映るカットはそれに耐えられるよう、標準よりも毛の量を増やし直している。なお、キラーパンサーの場合は、ネコ科独特の口を開けたときの周りの変形具合が、特に調整が難しかったという
ボスキャラクターのゲマと多彩なモンスターたち
主人公であるリュカの宿敵、ゲマ。本作ではボスらしくリデザインされている。アップになったときの細かい造形は必見だ
シリーズお馴染みのモンスターたち。ひとくい箱の舌は生物的で生々しく、キメラの背中には爬虫類のような鱗があるなど、全体的に質感が非常にリアルにつくられている。このほかにも掲載しきれないほどたくさんのモンスターが出てくるので、映画を要チェックだ