「ドラゴンクエストⅤ 天空の花嫁」のストーリーを原案にした3DCGアニメーション映画『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』から、主人公のリュカやビアンカ、フローラ、モンスターたちのメイキングを紹介していく。
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 252(2019年8月号)からの転載となります。
TEXT_石井勇夫(ねぎぞうデザイン) / Isao Ishii(negizo-design)
EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
映画『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』2019年8月2日(金)全国東宝系公開
原作・監修:堀井雄二
音楽:すぎやまこういち
総監督・脚本:山崎 貴
監督:八木竜一・花房 真
出演:佐藤 健、有村架純、波瑠、坂口健太郎、山田孝之
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©2019「DRAGON QUEST YOUR STORY」製作委員会
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本作の魅力のひとつが表情豊かなキャラクターたち。どのように活き活きとしたキャラクターがつくられたかをみてみよう。最初につくられたのは主人公・リュカのモデルだ。制作期間はパイロット版のモデルを含めると1年以上がかけられている。他のモデルはリュカのモデルをベースに、トポロジーを変えずにつくられており、制作期間は40~60日ほど。
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キャラクターアセットチームリーダー 竹内 義氏(白組)
shirogumi.com
モデリングの進め方としては、まず花房監督によるデザイン画を基にキャラクターアセットチームでスキンモデルと呼ばれる人間の身体の部分を制作。その際、全体のバランスをみるために服や髪の暫定的なモデルと、ベースにしていたリュカのマテリアルが付けられる。また、まつ毛は顔の印象に大きく関係するので、この時点でHair Farmで生やされている。このスキンモデル以降のヘア、スキンマテリアル、衣装の各工程は並行して、分業で進めることができる体制が組まれた。
髪や眉毛、髭などのヘアにはHair Farm、スキンマテリアルにはMARIを採用。また、衣装についてはMarvelous Designerを中心に、3ds Max標準の服飾メーカーが使われている。衣装はシミュレーションで動きを付けるのが前提なので、正確な面積をもつようにモデリングしなければならない。手作業だけでは難しいので、シミュレーションでおおまかな形をつくり、その後、手作業でブラッシュアップしていく方法が採られた。キャラクターアセットチームリーダーの竹内 義氏によると「単純な分業体制というわけではなく、チームの状況を見て担当を決めています。結果的にひとりでキャラクターを1体つくることもありました」とのこと。
モデリングチェックは全身を3K、バストアップを2Kでレンダリングして行われているが、チェック方法については反省点もあったと語るのは、ショットチームリーダーでキャラクターアセットも担当した山口拓史氏。「本番ライティングを想定したチェックシーンではなく、キャラクターの見映えが良いチェックのためだけのルックデヴをしてしまいました。そのため、後工程で役に立たないチェックライティングにしてしまったのが反省点です」。また、コンポジットのみACESが採用されたため、ACES(RRT)のトーンマッピングが適用されたコンポジットとリニアsRGBのアセット、ルックデヴ、ライト、レンダリングとでは画がちがってしまっ た。これは次回作から改善したい点だという。
キャラクター制作のながれ
リュカの父、パパスを例にしたモデリングのワークフロー。ベースとなったリュカからの変形でモデリングされている
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衣装 衣装のモデリング。パパスに限らず、本作では衣装にディテールのあるキャラクターが多いため、アニメーションまでを含めて力が入れられた部分のひとつ だ -
各要素を組み合わせて完成 完成。なお、【3】~【5】は分業して、並行で作業する ことが可能
主人公のリュカ
一番はじめにつくられた主人公・リュカのモデル。パイロット版を修正しつつ、制作には1年以上がかけられている。ポリゴン数は剣のない状態で約12万ポリゴン(レンダリング時はスムース化)。髪の毛はHair Farmで140万本。テクスチャサイズは4Kで、デフォルト状態での生身の身体部分が54枚、衣装が200枚。衣装は後のシミュレーションの工程を考えて、Marvelous Designerで制作されている
リュカのバリエーションの一例。ターバンの着脱、無精ひげや、雪が積もったマテリアル、重ね着、各種の汚れ、物語の途中で体型がより筋肉質に変わるなど、バリエーションは30種類以上に及ぶ。荷袋や剣、杖などの、プロップも多い。バージョンが増えるたびにテクスチャも増加し、最終的には1,000枚以上が用意された
リュカの幼なじみビアンカ
ビアンカのデザイン画とモデル。髪の毛の後ろが跳ねるなど、原作から髪型がアレンジされ、顔にそばかすも追加されて、活動的なイメージが強くなっている。鳥の羽といった服装のディテールもこだわりがみえる
サラボナの大富豪の娘フローラ
フローラのデザイン画とモデル。より女性らしく、ビアンカとの対比が強く出ているデザインだ。顔つきも穏やかな印象。華やかな服の模様の細かさに注目。ヘアアクセサリーも装飾が多く、かわいらしい
[[SplitPage]]トポロジーのさらなる改良
頭部トポロジーのながれは前作『STAND BY ME ドラえもん』(詳しくは本誌vol.193を参照)のときと比べて、今回はFACS(後述)用フェイシャルターゲットがつくりやすいように変更された。LightStageのモデルや海外のブレイクダウンなどを参考にして、良いとこ採りを目指したという。また、目頭の形状はデフォルメされているため涙腺はなく、瞼は欧米人のようなソケット型二重に。監督がアニメ的なアイキャッチ(主光源の反射)を望んだため、眼球の形状は人間のように先細りではなく、真球に瞳孔の凹凸がついている形状になっている
MARIによる高精細のテクスチャ
肌部分はMARIのテンプレートデータを使用。肌のキメ、血管、シミ、ほくろなどはプロシージャル。脂肪が薄い部分の赤みなどはUVベースでつくられている。マップはDiffuse、 Reflection、 ReflectionGlossiness、 Normalで、チャンネル内のレイヤーがリンク(インスタンス)されている。なお、Substance Painterも試していたが、自由なリンク関係の繋ぎ方がわからなかったのと、UDIMのシームレスなペイントができなかったため、採用は見送られた。UVはできる限り共通にしているが、どうしても個別になったときはMARIの転送機能を使用。目と口は半開きのUVで作成された。4チャンネルごとに各10UDIMで4Kのマップだったため、作業が非常に重くなってしまい、作業者にはできるかぎりレイヤーキャッシュやMariExtensionPackのPause Viewportを使って作業軽量化してもらったという
プルプルで透明感のあるスラりん
「ドラゴンクエスト」シリーズのマスコット的キャラクター、スライムのスラりん。本作ではゼリーのような透明感のあるルックに仕上げられている。「マテリアルからショットまで、V-Rayに関わる問題は多かったのですが、オークの技術サポートでひとつひとつクリアしていきました。V-Rayに限らない知識の量と質には本当に助けられました」とV-Ray代理店のオークを絶賛する山口氏。このスラりんの質感も難易度が高く、サポートを受けた部分だという
パイロット版の制作時は口内が透けないようにレンダリングを別にしたり、裏側から見たときに穴が空いている部分が見えてしまったため、前からと後ろからでは別のモデルでレンダリングしたりしていた。本制作に入ってからは1モデル、1レンダリングで終るように改良。目と口の穴は屈折にしか影響しないオブジェクトで動的に塞いでいる
口内から飛び出した眼球は、口内モデルを距離マスクに適用してマテリアル側で透明にし、消している
口内のように身体と一体でプロパティ設定できないものは、VrayOverrideMtlの屈折に透明マテリアルを繋いで、身体を通して透けて見えないように設定
完成カットの一例
ネコ科らしい身体つきと毛が印象的なキラーパンサー
キラーパンサーをはじめとする毛が生えたモンスターは、最初は毛がない状態でつくられたが、その上でFurを生やすと印象がホワっとボケたものになりがちだった。特に眉間の肉の盛り上がりでできるシワは残したかったので、試行錯誤が重ねられた。とはいえ先端の技術ではなく、担当者がアナログに手動で直して、監督とチェックを重ねるという、地道な作業のくり返しだったという。また、アップで映るカットはそれに耐えられるよう、標準よりも毛の量を増やし直している。なお、キラーパンサーの場合は、ネコ科独特の口を開けたときの周りの変形具合が、特に調整が難しかったという
ボスキャラクターのゲマと多彩なモンスターたち
主人公であるリュカの宿敵、ゲマ。本作ではボスらしくリデザインされている。アップになったときの細かい造形は必見だ
シリーズお馴染みのモンスターたち。ひとくい箱の舌は生物的で生々しく、キメラの背中には爬虫類のような鱗があるなど、全体的に質感が非常にリアルにつくられている。このほかにも掲載しきれないほどたくさんのモンスターが出てくるので、映画を要チェックだ