<2>ゲームデータを基にした遊技機グラフィックス制作
CGコンテとUE4の活用で後半工程をスリム化
本作のメインツールはMaya、ショットワークとレンダリングはUE4で行われている。キャラクター・技エフェクト・背景アセット・エンジン(バージョンは4.13)は『鉄拳7』開発チームから提供を受けているほか、パチスロ用新規シチュエーションの背景は新たに制作、さらにマーケットプレイスのプロップ、マテリアル、エフェクトも適宜活用されている。「家庭用版『鉄拳7』には膨大なコスチュームデータがあるので、キャラクター作業ではまずこれらを整理、最適化するところから始めました」と語るのは、テクニカルディレクターの片山敏春氏だ。「リギングはAGで長らく使っているAdvanced Skeletonを主に、カスタムの揺れものリグを追加するなどしています」(片山氏)。
背景アセットは演出に応じてブラッシュアップを加えつつ、新規つくり起こしも行われた。「全演出ではありませんが、手描きではなくCGアセットを用いたコンテを作成しました。レイアウトやタイミングはアニメーション工程の中でも一番時間のかかる部分なので、なるべく早期につぶしておこうというねらいがありました」(CGディレクター・荒木 茂氏)。これにより、広い背景データの中でどこを使えばどういう効果でレイアウトを切れるのか、また映し方によってどこがテクスチャ解像度が不足してしまうのかなどもチェック。先々の対応の目処をつけた。「これまでは、コンテからCGに落とし込んだらイメージと異なってしまった、といったことがどうしても発生していました。CGコンテではクライアントとも高いレベルでイメージを共有してから作業に入れるため、安心感がちがいます。キャラ・背景アセットの提供があったからこそできたことです」(荒木氏)。CGコンテやプリビズ制作を含むプリプロ作業は2017年2月ごろから徐々に始まり、これを受けて7月ごろからモーションキャプチャの収録がスタート。フェイシャルキャプチャでは新たにFacewareを導入し、フェイシャル作業を効率化した。
ショットワークでは、作成したキャラ・カメラのモーションをシーケンサーに読み込み、エフェクトを追加してライティングしている。「エフェクトはキャラ固有の技エフェクト以外に、演出的なねらいで追加しているものもあります。リアルタイムに最終画が確認でき、非常に効率的でした。一方で、UE4が苦手そうなエフェクトや画づくりはAEでプリレンダリング素材とコンポジットするなどして対応しています」(リードショットアーティスト・石坂 淳氏)。
内製ツールで効率化したリギング
リギングはAdvanced Skeletonで行われている。基本となる骨構造はフェイシャルも含め共通となっており、アニメーションデータの流用性を高めている。これに加え、キャラクターの髪型やコスチュームに応じて揺れもの用リグなどが追加されている
リグ自動セットアップ用のツール「TK4_createRig」。『鉄拳7』で用いられたものなどベースジョイントを指定するほか、揺れもの用のハイブリッドリグ、フェイシャルリグなどをここから作成する
ハイブリッドリグ。FK操作、サインデフォーマによる擬似揺れ、シミュレーション、IKスプラインの4種を複合して、スキニングジョイントに反映する構造になっている
CGコンテを活用したレイアウトの切り直し
コンテは手描きだけでなく実データ上でレイアウトしたCGコンテも作成。演出に応じた芝居場の確定、カメラから見たテクスチャ解像度不足などを早期に割り出し、後の作業を効率化。さらに、完成形に近いかたちで打ち合わせることでイメージのズレを最小限にし、安心して作業を進めることができたという
CGコンテの一例と背景データのどの位置で芝居するかの指定。演出に応じて、カットごとに適した位置へと芝居場を適宜移していることがわかる
レイアウトを切った後、ディテールアップが加えられた例。プロップを大量に配置し、画面を充実させている。こうしたディテールアップにはマーケットプレイス購入アセットも活用されている
新規背景と主観カメラワーク
ゲームにはない本作の新規シチュエーションとして背景がつくり起こされた「クライマックスフェイズ」。このステージは、クライマックスということで主観視点のカメラワークが盛り込まれ、さらに3画面液晶の視野の広さが存分に感じられる演出となっている(通常時は正面液晶のみで、展開に応じて高揚感を増すために3画面になる仕様)。「広い視野に対応するためにはこれまでの画角では収まりが悪く、概ね1.5倍くらい広角にすることで調整しています。それに加えて約2.5:1というアスペクト比もあって、慣れない難しさよりも新鮮な楽しさを味わいながらカメラワークを進めることができました」(荒木氏)
Mayaでの作業画面。ビューポートには3画面液晶に対応したイメージプレーンが貼られている
主観視点の例
ショットワーク&コンポジットのブレイクダウン
ショットワークはUE4を主体にしつつ、必要であればAEによるコンポジットも行なっている。「UE4ではポストエフェクトを使ったカラーグレーディングやライトチャンネルを活用したライティングなど、今まではAEでコンポジットしていた内容もほぼUE4内で完結できました。レンダリング後そのまま実装に移った演出もかなりあります。一方、別のプリレンダー素材を加えてリッチにするなど、コンポジットしてプラスアルファしているものもあります」(石坂氏)
Shotgunの活用とサポートツール群の整備
前述のリギングツールに限らず、本作では片山氏が中心となってパイプライン整備、細かいツールによるサポートが行われている。シーケンサーでのレンダリングは当初UE4上から行なっていたが、スタンドアロンで動くバッチレンダリングツールを作成、作業者負担を軽減した。レンダリングは9Kからリサイズすることでアンチエイリアスの精度を補強しているが、このリサイズツールも別途用意されている
AGではかねてよりShotgunを活用。レビュー用のアップロードツールも作成されたほか、アクションメニューから様々な便利ツールにアクセスできる
修正指示などもShotgun上でチケット管理されている
フェイシャルキャプチャにはFaceware、アニメーションデータの共有にはStudio Libraryを活用。骨構造を共通させているため、厳密なリップシンクが必要でない場合にはフェイシャル流用も行われた