7/22(月)より全国のホールで好評稼働中の『パチスロ鉄拳4』では、UE4を活用してクオリティ確保のみならず「本家ゲームと同じ雰囲気」を実現。3面で合計約3Kにおよぶ映像は、これまでの遊技機映像にない見応えと高い没入感を呼び起こす仕上がりとなった。
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 252(2019年8月号)からの転載となります。
TEXT_岸本ひろゆき /Hiroyuki Kishimoto
EDIT_藤井紀明 / Noriaki Fujii(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
© BANDAI NAMCO Entertainment Inc. © YAMASA
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『パチスロ鉄拳4』
www1.yamasa.co.jp/tk4
新基準機の目玉として5年ぶりの待望の新作
前作から5年を経て開発された、シリーズ最新作『パチスロ鉄拳4』。何と言っても目を引くのは、筐体左右に大きく張り出すように設置された3面液晶だ。「昨年末から稼働している6号機(現行の新基準機)の目玉として、ファーストインパクトを打ち出すべく筐体から力を入れています」と語るのは山佐のプロデューサーM氏だ。プロジェクトは前作『パチスロ鉄拳3rd』リリース後の2015年からスタート。企画開発の1年を含む約3年の構想期間を経て、2017年2月からコンテなどの本格的な制作が始まった。まずはゲーム『鉄拳7』(アーケード版2015年2月稼働開始、家庭用移植版2017年6月発売開始)の開発チームからエンジンを含むデータ提供を受け、パチスロ用映像としての魅力を打ち出すべくチューニングされていった。「炎や雷などリアルタイムで制約を受けてしまう要素も、遊技機映像としてしっかりつくり込むことができました」(B.B.スタジオ映像ディレクター・松尾公次氏)。
- 前列左から、リードショットアーティスト・石坂 淳氏、CGディレクター・荒木 茂氏、テクニカルディレクター・片山敏春氏(以上、アクセスゲームズ)。後列左から、プロデューサー・吉田 学氏(アクセスゲームズ)、プロデューサー・野々田光昭氏(バンダイナムコセブンズ)、プロデューサー・M氏(山佐)、映像ディレクター・松尾公次氏(B.B.スタジオ)
グラフィックス部分の主な開発を担当したアクセスゲームズ(以下、AG)は他のコンシューマゲーム案件などでUE4での制作業務には習熟していたが、映像制作用途としては初の使用となった。「映像は約1,800カット、のべ2時間分ほど制作しました。左右液晶を含めると3Kほどの映像となりますが、アンチエイリアスの品質を上げるために9Kでレンダリングして縮小しています。1年以内という短期間でクオリティを保ったまま安定してレンダリングを回せたのは、UE4のパワーあってこそだと思います」(AGプロデューサー・吉田 学氏)。またバンダイナムコセブンズ プロデューサー・野々田光昭氏は「本作は映像そのものを見てもらおうと強く意識しました。パチスロ映像にしては尺が長めのものもありますが、しっかりと観ごたえのあるものに仕上がったと思います」と語った。
<1>没入感を高める筐体仕様と画面演出
『鉄拳』本家の品質を引き継ぎ遊技機映像の強みをプラス
本機を見てみると、まず左右に大きく張り出した追加液晶を備えた3面液晶が目を引く。視野150度という広範囲をカバーし、遊技者の視界は周辺視野を含めほとんど覆われることになる。この状態で映し出される映像の迫力・没入感は非常に魅力的だ。「前作まではCG映像制作と同じようにレンダリングしていたためゲームとは異なる雰囲気となっていましたが、今回はゲーム開発で使われていたUE4データを提供いただきました。これを上手く使えないかなということで、UE4でレンダリングを行い、ゲームと同質のクオリティ・雰囲気の遊技機映像をつくることができました。遊技中は何十回と見る可能性のある映像もあり、そうした視聴に応えられるような情報量やディテール感を目指しています」(野々田氏)。
中央の映像のサイズは1,280×800で、左右液晶を含め1枚に繋がった映像としてレンダリング。そのサイズは約3Kだが、さらにアンチエイリアスの品質を高めるために9Kでレンダリング→縮小して使用している。視野150度を占める3面液晶に対応した映像は、約2.5:1の3K映像として出力された後、オーサリングで各面に対応したコンテンツに切り分けられる。映像のサイズが大きくなったことで、映さなければならない部分が大きく広がり、つくり込み作業の物量が増大。一方で、広い映像の隅々まで情報を散りばめてしまうとユーザーはどこを見ていいかわからなくなり、遊技体験を損ねてしまう。「映るものは増えましたが、同時に『見せるものを絞る』という相反した演出要件を満たす必要がありました。広い画面を充実させつつ情報は散らばらせない、という本作固有のハードルがありました」(松尾氏)。主に正面液晶を中心に、プレイに関わる重要な情報は慎重に提示されている。
「3面液晶の特性を発揮するために、キャラクター目線の1人称視点の演出を用いて没入感を高めています。これまでにない取り組みとして、大きな方針だけ提示して映像としてのつくりは完全にお任せした演出があるのですが、結果的には全体の中でもそれがもっとも良い仕上がりになりました。ぜひご覧いただきたいですね」(M氏)。
150度視野の3面液晶を搭載した業界初の専用筐体
観音開きの左右液晶が非常に目を引く筐体。正面【画像左】から見るとわかりづらいが、横【画像右】から見ると左右液晶も十分な面積があることがわかる。遊技者から見て150度の視野をカバーし、3面とも点灯する演出での没入感は非常に魅力的だ。一方で、遊技を左右するような重要な情報は正面の液晶に提示し、見落としによる混乱が起きないよう演出されている
スーパーワイドなアスペクト比を活かした演出
3面を使った演出の例。主要素は正面に映しつつ、左右液晶を用いた広角の映像が迫力を引き出している
大きく突き出した腕が印象的な演出。両腕とも正面液晶からはみ出すレイアウトだが、オーラを纏った右腕は左液晶の中でも比較的中央寄りに配し、視線を惹きつけている
正面のみと比べ3面では周辺情報が増強されている事例。後述するように通常より広角でレイアウトを取っているが、そのおかげで見える範囲がかなり広がっていることがわかる
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<2>ゲームデータを基にした遊技機グラフィックス制作
<2>ゲームデータを基にした遊技機グラフィックス制作
CGコンテとUE4の活用で後半工程をスリム化
本作のメインツールはMaya、ショットワークとレンダリングはUE4で行われている。キャラクター・技エフェクト・背景アセット・エンジン(バージョンは4.13)は『鉄拳7』開発チームから提供を受けているほか、パチスロ用新規シチュエーションの背景は新たに制作、さらにマーケットプレイスのプロップ、マテリアル、エフェクトも適宜活用されている。「家庭用版『鉄拳7』には膨大なコスチュームデータがあるので、キャラクター作業ではまずこれらを整理、最適化するところから始めました」と語るのは、テクニカルディレクターの片山敏春氏だ。「リギングはAGで長らく使っているAdvanced Skeletonを主に、カスタムの揺れものリグを追加するなどしています」(片山氏)。
背景アセットは演出に応じてブラッシュアップを加えつつ、新規つくり起こしも行われた。「全演出ではありませんが、手描きではなくCGアセットを用いたコンテを作成しました。レイアウトやタイミングはアニメーション工程の中でも一番時間のかかる部分なので、なるべく早期につぶしておこうというねらいがありました」(CGディレクター・荒木 茂氏)。これにより、広い背景データの中でどこを使えばどういう効果でレイアウトを切れるのか、また映し方によってどこがテクスチャ解像度が不足してしまうのかなどもチェック。先々の対応の目処をつけた。「これまでは、コンテからCGに落とし込んだらイメージと異なってしまった、といったことがどうしても発生していました。CGコンテではクライアントとも高いレベルでイメージを共有してから作業に入れるため、安心感がちがいます。キャラ・背景アセットの提供があったからこそできたことです」(荒木氏)。CGコンテやプリビズ制作を含むプリプロ作業は2017年2月ごろから徐々に始まり、これを受けて7月ごろからモーションキャプチャの収録がスタート。フェイシャルキャプチャでは新たにFacewareを導入し、フェイシャル作業を効率化した。
ショットワークでは、作成したキャラ・カメラのモーションをシーケンサーに読み込み、エフェクトを追加してライティングしている。「エフェクトはキャラ固有の技エフェクト以外に、演出的なねらいで追加しているものもあります。リアルタイムに最終画が確認でき、非常に効率的でした。一方で、UE4が苦手そうなエフェクトや画づくりはAEでプリレンダリング素材とコンポジットするなどして対応しています」(リードショットアーティスト・石坂 淳氏)。
内製ツールで効率化したリギング
リギングはAdvanced Skeletonで行われている。基本となる骨構造はフェイシャルも含め共通となっており、アニメーションデータの流用性を高めている。これに加え、キャラクターの髪型やコスチュームに応じて揺れもの用リグなどが追加されている
リグ自動セットアップ用のツール「TK4_createRig」。『鉄拳7』で用いられたものなどベースジョイントを指定するほか、揺れもの用のハイブリッドリグ、フェイシャルリグなどをここから作成する
ハイブリッドリグ。FK操作、サインデフォーマによる擬似揺れ、シミュレーション、IKスプラインの4種を複合して、スキニングジョイントに反映する構造になっている
CGコンテを活用したレイアウトの切り直し
コンテは手描きだけでなく実データ上でレイアウトしたCGコンテも作成。演出に応じた芝居場の確定、カメラから見たテクスチャ解像度不足などを早期に割り出し、後の作業を効率化。さらに、完成形に近いかたちで打ち合わせることでイメージのズレを最小限にし、安心して作業を進めることができたという
CGコンテの一例と背景データのどの位置で芝居するかの指定。演出に応じて、カットごとに適した位置へと芝居場を適宜移していることがわかる
レイアウトを切った後、ディテールアップが加えられた例。プロップを大量に配置し、画面を充実させている。こうしたディテールアップにはマーケットプレイス購入アセットも活用されている
新規背景と主観カメラワーク
ゲームにはない本作の新規シチュエーションとして背景がつくり起こされた「クライマックスフェイズ」。このステージは、クライマックスということで主観視点のカメラワークが盛り込まれ、さらに3画面液晶の視野の広さが存分に感じられる演出となっている(通常時は正面液晶のみで、展開に応じて高揚感を増すために3画面になる仕様)。「広い視野に対応するためにはこれまでの画角では収まりが悪く、概ね1.5倍くらい広角にすることで調整しています。それに加えて約2.5:1というアスペクト比もあって、慣れない難しさよりも新鮮な楽しさを味わいながらカメラワークを進めることができました」(荒木氏)
Mayaでの作業画面。ビューポートには3画面液晶に対応したイメージプレーンが貼られている
主観視点の例
ショットワーク&コンポジットのブレイクダウン
ショットワークはUE4を主体にしつつ、必要であればAEによるコンポジットも行なっている。「UE4ではポストエフェクトを使ったカラーグレーディングやライトチャンネルを活用したライティングなど、今まではAEでコンポジットしていた内容もほぼUE4内で完結できました。レンダリング後そのまま実装に移った演出もかなりあります。一方、別のプリレンダー素材を加えてリッチにするなど、コンポジットしてプラスアルファしているものもあります」(石坂氏)
Shotgunの活用とサポートツール群の整備
前述のリギングツールに限らず、本作では片山氏が中心となってパイプライン整備、細かいツールによるサポートが行われている。シーケンサーでのレンダリングは当初UE4上から行なっていたが、スタンドアロンで動くバッチレンダリングツールを作成、作業者負担を軽減した。レンダリングは9Kからリサイズすることでアンチエイリアスの精度を補強しているが、このリサイズツールも別途用意されている
AGではかねてよりShotgunを活用。レビュー用のアップロードツールも作成されたほか、アクションメニューから様々な便利ツールにアクセスできる
修正指示などもShotgun上でチケット管理されている
フェイシャルキャプチャにはFaceware、アニメーションデータの共有にはStudio Libraryを活用。骨構造を共通させているため、厳密なリップシンクが必要でない場合にはフェイシャル流用も行われた