<2>群衆カットの表現
ツールも作業アプローチもカットの特性に応じて使い分ける
ここからは、各カットをみていこう。本作で、冒頭から目を引くのはスライムの群集カット。こちらのカットは、MayaのnParticleを用いたシンプルな方法で作成された。同じく、群衆で描かれたのは、朝の通勤ラッシュというシチュエーションで描かれるがいこつたち。こちらの表現には、Golaemを使用。「使い慣れているGolaemを利用しました。車内に配置しているものは、見えるところ以外はめり込みも許容して詰めています。手が見えるところにはCGでつり革を新たに足したりもしましたね」(齊藤氏)。実写撮影は、鉄道会社に協力してもらい実際の通勤時に撮影を実施。その甲斐あり、手前で驚く通勤客のエキストラをにらむがいこつの演技が加えられるなどリアルな表現に仕上がっている。群衆表現では細密なマスク処理も欠かせないが、ディテールのブラッシュアップについてはオンライン編集を手がけた坂巻亜樹夫氏(jitto)によって丁寧に仕上げられている。余談だが、横浜赤レンガ倉庫前を歩くゴーレムたちのカットでは、Golaemで作成したデジタルモブが画面奥に追加された。「ショットワークを進めていくなかで実写のエキストラだけでは後ろが寂しかったので追加しました。井口監督の作品ではGolaemを利用する機会が多いですね(笑)」(齊藤氏)。
本作を完成させるにあたっては外部パートナーの協力も不可欠であった。MARKからは、貞原氏と齊藤氏をはじめとする約10名が参加。そして外部パートナーには、一部のモンスターのアセット制作を担当したイチ・スタ、トランジスタ・スタジオ。特徴的なモンスターのアニメーションを担当した神央薬品。カット単位でアニメーションからレンダリングまで一括して担当したtsumiki、チドリグラフが参加している(そのほかにもエフェクト作業やアセット制作にはフリーランスのアーティストたちが参加)。また、MARKではメインツールはMaya、レンダラはV-Rayを使用したが、カット単位で外部パートナーに一括して担当してもらったものについては、使用ツールについても一任することによって、監督からのリクエストにも臨機応変に対応できるよう配慮したという。エフェクト作成についても同様だが、主にはHoudiniを使い、担当プロダクションやアーティストによってはMayaや3ds Maxも併用しているとのこと。この点については目撃映像風ということでカットごとに求められたルックが異なった点を上手く活かしたワークフローと言えるだろう。
スライムの群衆シミュレーション
渋谷センター街のスライム集団
ブレイクダウン
オンライン編集後の最終形
満員電車から降りてくるがいこつ集団
ブレイクダウン
オンライン編集後の最終形
横浜赤レンガ倉庫前を歩くゴーレムたち団
ブレイクダウン
オンライン編集後の最終形