<3>その他のキャラクター表現
最終的な見た目こそが全てシンプルにゴールを見定める
最後に、本誌が注目したカットをいくつか紹介したい。まずはCGのキャラと人間がインタラクションしているのが印象的なのが相撲の稽古を行うトロールのカット。協力してもらった高校の相撲部員たちが稽古する様を撮影し、トロール側の人物にCGキャラクターを重ねている。なおトロールは本来、棍棒を手にしたモンスターのため、このカットでは後ろで見守る部員にCGで作成した棍棒を持たせる合成が施された。フラッシュアイデアだったそうだが、クライアントにも好評だったとか(つくり手たちが楽しみながら制作していたことが伝わってくるエピソードだ)。続いては、中盤に登場する砂場から階段が出現するカット。こちらは一見シミュレーションを用いてそうだが、実はメッシュアニメーションである。砂の質感をつくり、メッシュで地面が開いていく様子をアニメーションにして表現。面が接地している部分はメッシュを重ねて別の砂の流れをつくることでリアリティを高める工夫が施された。砂場のおもちゃは、パーティクルインスタンサーでメッシュ状に配置しつつ、階段とコリジョンするところだけ手付けで動きが付けられた。制作後期に追加されたカットだったため、1週間で完成させる必要があったそうだが、「限られた作業期間で確実に画づくりを行うには、シミュレーションではなく、この方式が結果的に良かったと思います」(齊藤氏)。
またモーモンと、ベビーパンサーの2カットは、キャラクターアニメーションへの強いこだわりが求められた。モーモンはモルモット、ベビーパンサーは野良猫という、ガイドとなった動物の動きにベースにアニメーションが付けられたが、特にベビーパンサーについては、実際の猫とのプロポーションのちがいによる動きの差異も相まってなかなかリアルな動きに仕上がらず、最後までブラッシュアップを重ねたそうだ。そして、ギガンテスたちの青森ねぶたカット。こちらは、許諾を得た上で一般の方が撮影した動画に対してVFXワークが施された。ねぶたの山車に合成するモデルの作成では、テクスチャやデザインのつくり込みに約1ヶ月も費やされた。さらにねぶたを表現する上では内部に発光処理が求められたため、レンダリング負荷も特に大きいカットになったという。「全カットに共通して、頭でっかちにならずに目指す表現を実現できる手法を経験から模索していきました。トラッキングもルック調整も最終的には見た目合わせで詰めていきましたが、カット数はもちろん、各カット用のアセットがワンオフのものが多かったので、シンプルに対応していくことでスムーズに制作を進めることができたと思います」(齊藤氏)。これぞ短尺コンテンツならではの作業スタイルである。
公園の砂場に突如出現する階段
本文でも述べたとおり、砂場に出現する階段はシミュレーションではなくメッシュアニメーションによって表現された
うごくせきぞう in さっぽろ雪まつり
さっぽろ雪まつり会場に展示された、うごくせきぞうが立ち上がるカットより
身体から流れ落ちる雪エフェクトはHoudiniでシミュレーションされた
青森ねぶたのギガンテス山車
ギガンテス山車の完成モデル
内部の発光表現用に配置されたCGライト。そのほかにも骨組みを強調するワイヤー表現や墨絵テイストのテクスチャリングなど、青森ねぶたの見た目に仕上げる上では細かな工夫が施された
ブレイクダウン
富士山火口から立ち上がるエスターク
エスタークの完成モデル
レンダリングイメージ。当初から登場することが決まっており、なおかつ正面を見せる案を前提としていたため、図のとおりハイディテールに仕上げられた。しかし、最終的に映るのは使用されたのは手元のアップと後ろ姿になってしまったため、貴重な正面から見た様をここに掲載する
キャッチコピーが載る、富士山の火口から登場したエスタークを背面から捉えたカットのブレイクダウン
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