>   >  キャラクターの魅力をモーションで伝えきる!「VR空間におけるキャラクターの自然な存在感を実現する方法」|CGWCCレポート(8)
キャラクターの魅力をモーションで伝えきる!「VR空間におけるキャラクターの自然な存在感を実現する方法」|CGWCCレポート(8)

キャラクターの魅力をモーションで伝えきる!「VR空間におけるキャラクターの自然な存在感を実現する方法」|CGWCCレポート(8)

動作の情報量

キャラクターモデルと同じく、動きについてもリアルに寄せすぎず、VR空間上での存在感を高めることを目標とした......。福山氏はアニメーションのコンセプトについて、このように語った。「私たちはフォトリアルの追求がキャラクターに対する愛着や存在感につながるとは考えていません。ここ(VR空間)に存在していると感じられれば、それが写実的なものでも、デフォルメされたものでも良いと思っています」。そのため、本作では現実世界の物理法則や質量感を守りつつ、若干のデフォルメを意識して、手付け(キーフレーム)主体でモーションが制作された。

重さを意識させるモーション

①木箱を動かす

カティアの年齢や体格をふまえて、全身の体重をかけて木箱を動かすモーションとなった。「カティアは10歳くらいの女の子です。腕力があるタイプでもありません。そんな彼女が腰の高さほどある大きな木箱を動かすには、彼女自身の体重をかけて動かすにちがいありません」(福山氏、以下同)。

②ハッチを開ける

ハッチを構成する鉄板の重さが良く伝わってくる動きだ。「重い鉄板を体全体でもち上げたら、もち上げたところで手を鉄板の裏に回したいところですが、片手では鉄板を支えきれないと思います。そこで足で鉄板を支えるだろうと思い、足を使いました。また、ハッチが開いたときに"バーン"と大きな音がするので、それに驚く仕草をほんの少し入れています」。

③転轍機を動かす

当初もっと重そうに動かすか否か、迷ったという福山氏。最終的にゲーム中、カティアが何度も転轍機を動かすことになるため、プレイヤーのストレスを考慮して今の速度になった。「重さの表現は、タメを使ったり、体の動きの速度を遅くしたりするので、それだけアニメーションの時間が長くなります。ゲーム内容や操作性も考慮してアニメーションを決めるのがベストかなと思います」。

このようにゲームプレイを通して「重さ」を意識させることで、プレイヤーが直接触らなくても、木箱の重さを疑似体験させられる。一方でプレイヤー側も木箱のグラフィックから、その重さを無意識のうちに把握しているはずなので、その感覚を悪い方に裏切らないことが大切......福山氏はこう指摘する。これはキャラクター単体の動きでも同様で、腰や手足が移動する速度なども、すべて重さを意識しなければ、説得力がある画にならない。「それでも上手くいかないことがしばしばで、自分もまだまだ技術が足りないですが、意識するとしないとでは大きな差が出ると思っています」。

キャラクター性を加味するモーション

④ハッチの音に少し驚く

単純にドアを開けるだけでなく、ドアの奥を覗き込む仕草を入れることで、カティアの性格や雰囲気などを伝えられる。

⑤ソファに座ってくつろぐ

ソファに深く身を沈めて、足を投げ出したり、周囲を見わたしたり......メインの動きに細かい仕草を加えていくことで、キャラクターの性格が徐々に積み上がっていく。

キャラクター性はアニメーションでも高められる。メインとなる動きに対して、細かい仕草を付け加えていくのだ。「カティアは言葉を発しますが、架空の言語であるため、言葉の意味は理解できません。カティアの性格は、動きや行動から感じ取ってもらうしかないのです」。ただし、何事もやりすぎは禁物で、ゲームプレイ全体のながれを妨げる場合もある。そのためプレイヤーの入力に対して、素早く反応しなければならないときは避けるなど、ゲームの状況に合わせることが必要だ。また、過剰な仕草が浮いて見えることもあるため、さりげない仕草が求められるという。

動きのキーとなるポーズを決める上でも、キャラクター性を考慮することは重要だ。カティアらしさとは何かを掘り下げ、「お約束」のポーズを避けることで、キャラクター性が産まれてくる。指先の緊張度や脇の締め具合、膝や肘の向きといった点まで配慮することが重要だ。片膝をつくポーズでも、膝の開き具合や手の位置を変えるだけで、キャラクターの自意識を表現できる。「カティアらしさを表現する上で、カティア自身が周囲からどのように見られているか意識せず、自然体ですごしているようなポーズであることが重要でした」。

3Dアニメーターを活かすリギング

ここで講師はブロードヘッド氏に戻り、トピックが動作のバリエーションに移った。どれだけ自然な動きでも、同じ動きを続けるだけでは、プレイヤーは飽きてしまう。そのためにはアニメーションのバリエーションが必要で、本作でも600クリップ以上が制作されたという。そこで求められるのが、効率的な作業環境を整えること。「アニメーションをつくるとき、一番避けたいのがリグとの喧嘩です。また、シーン専用リグをつくることも、効率化にはあまり貢献しません。そのため、使いやすくて汎用性の高いリグは存在感を高める上でとても重要です」。

もっとも、使いやすさの定義は人によって異なる。そのためParent Switchingを活用し、各自のニーズに合わせられるリグの制作が目指された(余談だが同社では、本作で初めてParent Switchingが導入された)。これにより自由度を最優先課題として、どのパーツでもペアレントが変えられるように工夫されている。また、Matchingツールも利用されている。リグのコントローラのデザインをシンプルにすること。重要な機能を表に出して、できるだけChannel Boxを触らずに作業ができること。使用頻度の低いコントローラは表示のON/OFFを切り替えられること、なども配慮されている。

1つのコントローラで複数の動きができるようにすることも重要だった。本作の特徴にインゲームのモーションとしては異例の、30秒を超えるクリップが多い点が挙げられる。前述のように各々の動きに対して、演出意図が込められているからだ。一方で細かい動きを加えるほどに、管理が必要なコントローラの数が増加していく。そのため、本作のリグではコントローラに親子関係が導入され、複数のコントローラを1つのコントローラーで制御できるようにされた。これにより、大ざっぱなポーズを簡単につくった上で、個別の動きを細かく制御していくというわけだ。

カティアのリグの数々

こうした工夫で大きな恩恵を受けたのが、手や指の動きだ。1つのコントローラを回転させたり移動させたりすることで、手全体の動きがつけられる。指を1本ずつポーズづけすることも可能だ。これらのリグはMayaのNode Editorを使用し、力業でつくられている。足の動きも同様で、1つのコントローラでロール・ターン・かかとの回転や移動などが制御可能だ。フェイシャルリグも考え方は同じで、ブレンドシェイプではなく、すべてボーンで動かしている。その上でリグの親子関係が工夫され、「眼球が動くとまぶたが動く」、「口を動かすと頬が動く」ように設定された。他にモーションをつけた後で全体的な動きを調整することもできる。いずれもブロードヘッド氏が力業で実装したという。

モーションキャプチャと修正後のちがい

こうしたリグがつくられたのも、福山氏というベテラン3Dアニメーターの存在あってのことだ。ブロードヘッド氏の机は福山氏の隣で、「ほとんど専属のTAみたいなもの」だという。とはいえ、プロジェクト後半にモーションの遅れが目立つようになり、HTC Viveを使用した簡易モーションキャプチャシステム「Orion」が導入された。コストパフォーマンスの高さに加えて、動きだけでなく、移動距離もデータ化できた点が決め手だった。もちろん修正は必要だったが、福山氏は「長いクリップの動きをつける際、目安となる動きのデータをつくる上で役立ちました」と補足した。

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