>   >  キャラクターの魅力をモーションで伝えきる!「VR空間におけるキャラクターの自然な存在感を実現する方法」|CGWCCレポート(8)
キャラクターの魅力をモーションで伝えきる!「VR空間におけるキャラクターの自然な存在感を実現する方法」|CGWCCレポート(8)

キャラクターの魅力をモーションで伝えきる!「VR空間におけるキャラクターの自然な存在感を実現する方法」|CGWCCレポート(8)

鍵を握るのはキャラクター制御

「もっとも、ここまでは動きの素材をつくる上で必要な話でした。実際は動きの素材を、ゲーム中でどう活かすかについて考えることが重要です」(福山氏)。ゲームの醍醐味はインタラクティブなことで、プレイヤーの指示に対して、キャラクターがどのように行動するかで、体験が大きく変わる。丹精を込めてつくったアニメーションが、いざゲームに実装されると、想像をはるかに下回る動きになってしまい、がっかりすることも少なくない......福山氏はそう語った。それを防ぐには相応の工夫や連携が求められる。実際、本作の開発でもアニメーションの作成よりも実装にかけた時間の方が多かったという。

はじめに3Dアニメーターがすべきことは、ゲーム中の理想の動きを考え、チーム内に伝えることだ。本作ではカティアが前後左右を自由に移動できるように、基本の動きをブレンドした遷移アニメーションを作成する。これによって速度・横移動速度・方向の変化に応じて、動作の継ぎ目をスムーズに再生できるようにするのだ。その上でプログラマーにデータと意図を伝え、移動開始の方向とゴール地点までの距離や、そのときの視線方向で再生されるアニメーションが変化するようにしている。「カティアが後方に移動するときも、カティアの視線がどこにあるかで、再生されるアニメーションが異なります」。

ところが、ここでチームは大きな壁にぶつかった。本作ではカティアがステージ上のオブジェクトを操作するため、オブジェクト前の決められたポイントまで移動し、正確に止まる必要がある。ところが、開発段階ではVR上で最大20cmのずれがあった。カティアの移動ルートを絶対位置ではなく、アニメーションの移動量で計測していたためだ。停止ポイントの近くにカティアが到達したら、ルート移動をプログラム制御に切り替え、徐々に停止させるしくみも考えられたが、足滑りの問題を解消できなかった。特にVRではキャラクターが至近距離にいるため、違和感がぬぐえなかったという。

そこで考案されたのが「short Locomotion」という仕様だ。目指すゴールは半径30~40cmの円の中で、カティアがどの距離でも、どの方向でも足滑りなしで停止できるしくみをつくること。そこでアニメーションとプログラムをミックスさせる方法が採られた。キャラクターのルート移動と回転はプログラムで行い、短い移動から停止までのアニメーション(1~2歩程度)を停止方向ごとに作成して、両者を組み合わせるというもの。停止ポイントの半径35cm以内にカティアが到達したら、この処理をアクティブにして、状況に応じて必要な停止アニメーションを再生するというわけだ。

もっとも、ルート移動が0.05~35cmで可変であるため、そのままでは足滑りが発生する。そこで足を固定するfootLockをこのシーンだけ実装している。「5cmの移動でも35cmの移動でも、どちらでも似合うようなアニメーションを作成するのがなかなか大変で、かなり原始的なやり方で調整しました。しかしこの実装で、カティアが停止ポイントにピッタリ止まれないという問題は解消されました」(福山氏)。ちなみに、この実装が入ったのは2019年に入ってからのこと。そのため2018年に東京ゲームショウに出展した際は、まだ足が滑っていたという。

3DアニメーターとTA、それぞれのやりがい

最後に福山氏が明かしたのが意思の追加だ。もっとも、本作においてキャラクターAIは、そこまで力を入れて開発されたわけではない。カティアの視線をアニメーションで制御することで、あたかもカティアに意思があるかのように、プレイヤーに感じさせるテクニックが用いられたのだ。具体的には、ステージ上にある箱やスイッチといったオブジェクトには、それぞれカティアの興味レベルが設定されている。その上でカティアが「プレイヤーがポイントした先」、「自分が興味のある対象」、「プレイヤー自身」の中で、最も優先度が高いものに視線を向けるしくみになっている。

なお、オブジェクトには興味レベルとアプローチ半径が設定できる。また、オブジェクトにはクールダウン時間が設けられ、カティアの興味が次々に移るように工夫されている。カティアの興味や、オブジェクトに対する反応も、いくつか種類があり、ランダムで選定される。これらの要素を組み合わせることで、キャラクターが自ら行動しているように感じさせているというわけだ。「これは『ICO』や『ワンダと巨像』で行なっていた方法と同じようなしくみで実装しています。本作ではディレクターとエンジニアとアニメーターとで意見を出し合って、仕様を決めています」。

以上が講演で解説された、『Last Labyrinth』におけるキャラクターの存在感の出し方だ。個々は細かい処理でも、ひとつずつ丁寧に積み重ねていくことで、無機質なキャラクターを生きた存在に変化させられる。福山氏は、中でも重要なパートがキャラクター制御だと述べた。「3Dツールでつくるアニメーションの内容も重要ですが、完成してしまえばそれ以上に変化することはありません。キャラクター制御があるからゲーム内でNPCが生きてくるのだと思います。これが映画やアニメーション映像ではできない、ゲームだからこそできる表現ではないでしょうか」。

「キャラクターをつくり上げていく作業には苦労も多いけれど、自分が手がけたキャラクターとプレイヤーがコミュニケーションを取っている様子を見聞きすると、本当に苦労が報われるし、やりがいのある仕事だなと思います」(福山氏)。これに対してブロードヘッド氏は講演後「3Dアニメーターをはじめ、チーム全員の作業が上手く進むように、効率化を考えるのが楽しみ。何といっても、目の前にお客さんがいるので」と答えた。そうした環境があってこそ、3Dアニメーターがゲームデザイナーやプログラマーと高度に協業することが可能になる。すべての役職はコンセプトの実現に向けて、高度に連携しているのだ。

左からアレクシス・ブロードヘッド氏、福山敦子氏、髙橋宏典氏(代表取締役社長)

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