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アニメーション技術を新たなフィールドで活かす、クラフターグループによるUnityを使った自動車HMI制作事例

アニメーション技術を新たなフィールドで活かす、クラフターグループによるUnityを使った自動車HMI制作事例

CASE02『DENSO Future Cabin Concept Ver.2』

DENSO Future Cabin Concept Ver.2

本作は、株式会社デンソーの考える自動運転が実現された近未来が3DCGで描かれたコンセプトムービーの第2弾。自動運転(Level 4)が導入されると予測されている2025~2030年において、自動運転車両で移動しながら飲み物を注文する、パーソナライズされた空調を調整する、誘導および認証システムでスムーズに乗り換えを行うなど、先端技術によって得られるモビリティ体験が表現されている。アニメーション映像と同時並行でVRコンテンツの制作が行われており、共通のアセットを用いてUnityのシーン構築を行うことでワークフローの最適化が図られている。同じ世界観とキャラクターを用いて、2つのプラットフォームで異なるシナリオを表現するため、絵コンテ制作からモーションキャプチャ収録までは個別に行い、以降の工程は全てUnity上で行われている。

STEP 00 アニメーション&VR並行ワークフロー

ワークフローは9つの工程に分かれている。「コンセプト」ではデンソーが近い将来提供する価値を最大限理解できるビジュアル表現・シナリオについて協議し、コンセプトアートを基にプラットフォームごとの「絵コンテ」を制作。過去の作品で用いたアセットをブラッシュアップ(ディテールモデル)し、MotionBuilder上で「動画コンテ」を制作したのち「モーションキャプチャ」に入っていく。モーションキャプチャスタジオでそれぞれのシナリオ分の収録を行い、以降はUnityで「ルックデヴ」「シーン構築」を行なっていく。ルックデヴをUnityで行うことで、アニメーション映像とVRどちらもルックに統一性をもたせることができ、その後のシーン構築も共通の様式で進めることができている。なお、ファイル管理はGitで行われており、特に変更の多かったUI系は個別のフォルダで管理され、決定項のみがコミットされるしくみを採っていた

STEP 01 コンセプト&デザイン

クライアントから提示された訴求ポイントをどのようにコンテンツに落とし込むかについて社内で協議し、シナリオのほかに、淺川真歩氏を中心とするデザインチームがコンセプトアートを作成。ビジュアル化された情報をベースに再度打ち合わせを行い、細かなデザインや機能をどう落とし込むかの仕様を策定する。「コンセプトアートを見ながらミーティングを行うことは、仕様をより深く考えるきっかけになったり、新たなアイデアを生むベースになりました」(淺川氏)。クライアントのアイデアをビジュアル化する際も、「こういうデザインと機能を用いれば、より良い体験ができるのではないか」とクラフター側から提案することも多かったとのこと

【画像】はコンセプトアートの一部で、近未来の機能やモビリティ体験が現実味のあるビジュアルに落とし込まれていることがわかる

STEP 02 シナリオ制作と絵コンテ・ビデオコンテ

コンセプトとほぼ同時並行でシナリオの作成が行われた。多角的に訴求ポイントを伝えるため、映像作品側は「コンセプトを伝えやすいシナリオ」、VRコンテンツ側は「体験を伝えやすいシナリオ」と役割を分けて制作されている。クラフターでは通常3Dモデルを用いて絵コンテ【A】・ビデオコンテ【B】【C】を作成するため、シナリオ決定から2週間という早いタイミングで一連のながれのクライアントチェックを受けることができたという(なお、VRコンテンツの絵コンテ【D】【E】は、期間の関係から手描きベースとなっている。【F】はVRのビデオコンテ)。エンターテインメント系の業務と異なり、クライアントの意向次第でいつでもシナリオ・デザインが変更できる柔軟なつくり方をする必要があったため、ビデオコンテはレイアウト変更が容易なMotionBuilderで制作されている。前述の3Dモデルのキャラクターデザインもクラフターが行なっており、コンセプトからシナリオ、ビデオコンテまでを1社で完結することでスピード感のある制作が可能となっている

STEP 03 モーションキャプチャ

本作で収録したのはボディのみで、フェイシャルはアニメ的な表現のため全て手付けとなる。モーションキャプチャを統括する田尻真輝氏によれば、アニメーション映像の場合は隠れている(画面に表示されていない)部分が物理的におかしくてもある程度は無視できるが、自由に視点移動のできるVRコンテンツの場合はオブジェクト配置も気を配る必要があり、HMIを操作する手を右手から左手に変えたりといった細かな調整も収録中に発生したという。前工程のビデオコンテ時点では見えてこなかった問題を現工程で事細かに修正できるのも、アニメーション制作などですでにモーションキャプチャのノウハウがあったからとのこと。クラフターは昨年9月から自社内にモーションキャプチャスタジオを有したため、今後の制作ではシナリオが決定次第すぐにアニメーション工程に移ることができるようになった。これは1社完結型の強みと言えるだろう

STEP 04 ルックデヴ&VRシーン構築

Unityでは共通のアセットを用いたシーンをアニメーション映像とVRコンテンツで共有できるため、アニメーション側でルックデヴを施したデータを【上】のようにVRに適用することで、両プラットフォームでほぼ同じルックを再現できる。そのため、アニメーション映像を観てからVRを体験することで「本当にその世界に入ったかのような体験」を得ることができるという。VRコンテンツでは、キャラクターの目線をユーザーに向ける、キャラクターの頭身をリアルな人間の頭身バランスにしてリアリティをもたせるなどの工夫が行われているほか、カメラアングルやレイアウトの工夫でできる限り世界が狭く見えないようにシーンが構築されている。例えば、アニメーション映像では電光掲示板のサイズはキャラクター3体分程度の横幅だが、VRコンテンツでは2倍以上大きく描かれている【下】。これは「(容量的につくり込みができない)電光掲示板の後ろ側を覗き込まれないため」の処理であ り、シーンに応じて3Dモデルのデザインを変更することでユーザーの視線を誘導する目的があるという

STEP 05 ゲームエンジンの利点を活かしたアジャイル開発

ゲームエンジンを活用した3DCG制作のメリットは、レンダリングを待つことなくリアルタイムにビジュアルを確認することができる点だ。「プリレンダーは7割までつくり込んだ後にレンダリングを行い、そこからクオリティを上げていくイメージですが、リアルタイムでは3割の段階でも視覚化して確認ができる状態になります。常にビジュアルを評価しながらクオリティを高めていけるのは大きなメリットです」(川島氏)。クライアントや他の作業者にも作業状況の共有がしやすいため、コミュニケーションをとりながら途中段階を確認し合うことでアイデアを追加したり問題を修正したりといったアジャイル開発が可能になっている。また、クライアントとコンセンサスを得ながら進めることは、結果として手戻りを未然に防ぐことにもつながっている

【1】~【4】アニメーションにおけるアジャイル開発の変遷

【上段】VRならではのHMI開発と【下段】VRコンテンツの完成イメージ



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