>   >  実際の業務を想定した建築パース制作を解説するコラム連載がAREA JAPANでスタート〜「3ds Max × ビジュアライゼーション ウェビナー」
実際の業務を想定した建築パース制作を解説するコラム連載がAREA JAPANでスタート〜「3ds Max × ビジュアライゼーション ウェビナー」

実際の業務を想定した建築パース制作を解説するコラム連載がAREA JAPANでスタート〜「3ds Max × ビジュアライゼーション ウェビナー」

<4>制作範囲を限定しつつ印象的にするための構図選択

例えば、今回の構想検討は下記のようなイメージになる。「このキッチンのある生活をしたいと考えるように構想検討しました」(吉田氏)。

●正面からの構図(安定感がある、主人公がわかりやすい、作るものを限定できる)
●キッチンだけに限定する。ダイニングなどは作らない
●環境光のみのライティング(自然な感じを出すため)
●環境は森林(商品のターゲット層の好みを意識)。強い光ではなく、一度反射して柔らかくなった光を使う
●コンセプトは「昼下がりのキッチン」(森林の環境光が一番映える)

正面からの構図と、構造を考えたときのスケッチ

今回の制作のポイントのひとつは、キッチンのみを捉えた正面からの構図だ。作るものを限定することで、その分、完成度を上げる作業に時間を使うことができる。斜めのアングルから作ると奥行き感がわかりやすく、説明に向いたアングルになる。

斜めからの構図

しかし、今回の仕事はカタログの見出しに使われるパースなので、説明的というよりも印象的なものが必要。斜めからのアングルでも角度を急にすれば(漫画の集中線のように)印象的になるが、その場合、キッチン以外の窓の向こうに見える植栽も作らなければならなくなり、作る範囲が増えてしまう。

急角度の斜めからの構図(右側)は、作る範囲が増える

作るものを限定しつつ印象的な絵にするために、今回は正面アングルを選択。カメラを置く位置などは、Googleの画像検索で「キッチン かっこいい」などで検索して、CG画像ではなく実写の写真を参考にしているという。

<5>部屋のモデリングと面取りのポイント

先述の通り、正面からの構図のため、今回作るのはキッチン周りのみ。見せたい部分の優先順位を決め、見せたい部分のみ品質を上げるように制作を進める。

まずは部屋から作っていく。部屋を先に作った方がインテリアを配置するときに収まりを意識しながら配置できるからだ。単にボックスを作るだけでは作業中に部屋の中が見られないが、ポリゴン編集モディファイヤで壁面を選んで反転させると、部屋の中を見ながら作業することができる。ワイヤフレーム表示でも部屋の中を見て作業できるが、シェーディングのときに中が見えなくなるため、背面非表示で、ポリゴンの裏面が見えなくなるよう設定する。

作業しながら部屋の中が見られるよう壁面を選んで反転させる

また、キッチンの家具は、全て面取り(※)するようにしているという。図面上では面取りが1mmもない家具だとしても、生活によって摩耗する場合もあるため、現実には角が鋭利なままになっていることは少ない。まったく面取りが入っていない木材や金属では、触ると指が切れてしまう。

※面取り:柱や家具の角を削って、そこに新しい面を作ること。実際にはカンナやヤスリ等で角をわずかに削る。最初は面取りがなくとも摩耗によって角が丸くなる場合もある

左:面取りなしの家具、右:面取りを施した家具。面取りがないと、それぞれの角が鋭すぎていかにもCGっぽくなってしまう

面取りをCGに反映させる際は、大きく2種類に分けて扱う。図面上で面取りが入っているものと、図面には面取りがないものだ。面取りする方法としては、[ポリゴン編集]モディファイヤと、[面取り]モディファイヤを使う方法がある。[ポリゴン編集]モディファイヤの場合、形状操作に応じて面取りされるが、一度決まった面取りの幅が変えられないこと、モデリング作業が進んでいるときに面取りの調整が難しいという課題がある。[面取り]モディファイヤを用いると、特定の場所だけに面取りを入れる、滑らかさを調整するなどの調整が後からできる。図面に面取りの指示が入っていないものを面取りする場合は、1mm以下から2mmほどの幅で面取りしているという。[面取り]モディファイヤは、3ds Max 2020から機能強化されている。

面取り設定の様子

「3ds Max 2021から使えるようになった[重みのある法線]モディファイヤを用いると、シェーディングが良い感じになります。このモディファイヤを入れているだけで、自動的に良い感じにしてくれる。有機的な形や複雑なモデルでは上手くいかない場合もありますが、建築で使うような、単純な形状にちょっと面取りが入っているようなモデルの場合は、これを入れるだけで綺麗になります。法線の方向が良い感じになるのでぜひ使ってください」(吉田氏)。

[重みのある法線]モディファイヤを利用していない場合

[重みのある法線]モディファイヤを利用している場合

最後に、質疑応答が行われた。

Q. 即日納品の仕事の場合、どれくらいのスピード感で作業するのか?

吉田:慣れてくると書き起こさなくても、電話しながら言葉で伝える程度でも良い。こういう製品ならこういうのが良いですかね? など、いちいちラフを作って提出するような時間はなくても話すだけでも効果がある。要素は、事前に自分で書き出してみたり、制作中にお客様と電話したり、交渉したり。実際の仕事では、新人に即日納品の仕事が任せられるといった連載のような状況はないでしょう。

今回の制作は普通のクリエイターPCを利用し、午前中から始めて夕方に納品できるくらい。モデリングが1時間から1時間半ほど、制作全体で3〜4時間、その後レンダリングを開始して2時間ほどでレンダリングの調整作業も終わるくらいのペースを想定しています。

高畑:最後のタイムリミットから逆算して、クオリティを調整して作業している。全てをCGで作るのではなく、Photoshopレタッチで完成させる場合もあります。

今回、100人強を集めた本ウェビナー。視聴者からは連載の更新に合わせて毎回ウェビナーを開催してほしいとの要望もあり、盛り上がった話題の中で90分が締めくくられた。なお、現在AREA JAPANにおいて本ウェビナーの動画がオンデマンド配信中だ。8月31日(月)までの限定配信のため、興味のある方は早めの視聴をオススメする。

ウェビナー動画視聴はこちら

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