オートデスク製品に関するコラム記事、チュートリアル、ユーザ事例、求人などが掲載されている「AREA JAPAN」にて、5月20日より新連載「3ds Max × ビジュアライゼーション」がスタート。ビジュアライゼーションに特化した本連載はオートデスクのテクニカルセールススペシャリスト吉田将宏氏によるものだ。その連載開始を記念したZoomウェビナー「3ds Max × ビジュアライゼーション ウェビナー~超シンプルにつくる「昼下がりのキッチン」モデリング編~」が6月11日(木)に開催。コラム記事掲載内容の解説と、最新版である3ds Max 2021の機能紹介、建築CGデザイナーとして活躍する「世界で一番やさしい 3ds Max 建築CGパースの教科書」の著者。高畑真澄氏をゲストコメンテーターとして迎えた90分の内容をお伝えする。

TEXT_安藤幸央(エクサ)/ Yukio Ando(EXA CORPORATION)
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)

<1>建築業界の3ds Max初学者に向けた新連載

5月20日より、「3ds Max × ビジュアライゼーション」のコラム連載を始めたオートデスクテクニカルセールススペシャリストの吉田将宏氏。まずはじめに、この連載がどういった内容で、対象となる読者はどういった層なのか、なぜ連載を始めたのか、などが話された。ウェビナー開始時のアンケートによると、参加者のうち3ds Max 2021ユーザーは19%、2020が24%で最も多く、2019が23%、2018が11%、2017が5%、2016・2015がそれぞれ1%という比率であった。

吉田将宏氏(右上・オートデスク株式会社技術営業本部テクニカルセールススペシャリスト)と自己紹介スライド

吉田氏は北海道の北端にある利尻島出身。オートデスクには2018年に入社、前職は建築ビジュアライゼーションを手がける企業で建築パースや建築VRを手がけていたという。3dx Maxの好きな機能は「プロオプティマイザー」(※オブジェクトの外観を維持しながら、オブジェクトの頂点数および面の数を削減できる最適化ツール)とのこと。

新連載はビジュアライゼーション初心者向けの内容で、3ds Max初心者というよりは、初期講習修了程度のスキルの人向けの記事だという。理論や機能というよりも、とにかく実際に作品を作って学ぶというOJT(オンザジョブトレーニング:教えてもらいつつ仕事をしながら学ぶ)形式を採っている。新入社員、学校を卒業したての人、経験ゼロで入社して建築ビジュアライゼーションを担当することになった人などを対象とする。

吉田氏が仕事をする中で勉強を重ねていった内容を基に、連載ではキッチンのパースを作るという実際の仕事のやり方に似せた題材に沿って解説が進んでいく。3ds Maxを始めたばかりの人に「こういう作り方もあるんだな」と感じながら体験してもらえればと考えているそうだ。

「ここ5年くらい、建築CADからデータを流用して建築ビジュアライゼーションを作成するなど、建築業界でも3DCGに触れる機会が増えてきました。建築業界への3ds Maxの新規導入も増え、それに伴いオートデスクへの問い合わせも増加してきています。問い合わせの多くは『どうやって3ds Maxを勉強すれば良いの?』というものです。トレーニングを受けたり、経験者に聞いたりするのが一番ですが、近くにトレーニングセンターがなかったり、経験者が社内にいない場合もあります。首都圏や大阪、福岡であれば何とかなりますが、それ以外ではなかなか難しい。このような状況を踏まえて、オンラインのコンテンツを増やしています」と、吉田氏は本連載を含めたAREA JAPANでの展開のねらいを語る。

<2>動画チュートリアル作者が語る本連載のポイント

そういったコンテンツのひとつとして挙げられたのが、建築パースの基礎を動画で学べるオンライン講座「やさしい3dx Max はじめての建築CG」だ。続いて、その作者であり書籍「世界で一番やさしい3ds Max 建築パースの教科書」の著者でもあるゲストスピーカーの高畑真澄氏が登場、本講座と書籍について紹介した。

●やさしい3ds Max -はじめての建築CG-
https://area.autodesk.jp/movie/3ds-max-architecture/

高畑真澄氏(右下)と、著作「世界で一番やさしい3dx max 建築パースの教科書」

「AREA JAPANのチュートリアルは、1本あたり3分から5分で42本、膨大な量です。このチュートリアル動画で足りない部分は書籍の方で詳しく解説しています。本書は3ds Maxの使い方だけでなく、建築CGに必要な知識が豊富に掲載されています。例えば手すりの種類の名前や「スラブ」とは何かといった建築用語の説明も加えています。CGのことを知っていても照明器具のことを知らないと、パースが描けません。また、付録としてV-Rayを利用する際の設定方法も載っています」(高畑氏)。そもそも書籍の編集者が初心者で、その編集者が読みながら3ds Maxを操作してみて作った本なので、初心者にもとてもわかりやすい内容になっているそうだ。

高畑氏のYouTubeチャンネル「やさしい建築CG by Masumi Takahata」では3DCGだけでなく、Photoshopでのレタッチなども解説されている。「綺麗なCGを仕上げるときに、マテリアルとテクスチャはとても重要です。テクスチャが汚いと良い絵になりません。例えば、御影石のテクスチャ。このままくり返して使うと四隅がつながらず目立ってしまうため、シームレス加工をした方が良い。そういった手順の紹介など、3ds Maxだけでなく綺麗なパースを制作するコツを紹介しています」(高畑氏)。

「やさしい建築CG」④大事な基礎のテクスチャ【期間限定公開中】

さらに話は吉田氏の連載に戻り、高畑氏がこの連載記事を読んで共感した点が紹介された。

Point 1:タイトルと物語、作品の統一感が素晴らしい
・タイトルの「昼下がりのキッチン」と時計が示している時間が一致している
・タイトルの「昼下がりのキッチン」の通り、窓から差し込んでいる日光が昼過ぎの明るさ

Point 2:小物の配置とバランスが素晴らしく、動きと空気感が感じられる
・きちっとしている部分と、ものに動きがある部分とがある
・全部のオブジェクトがきちっとしすぎていると空気感が感じられなくなる

Point 3:全体のトーンが素敵
・木材の色味が統一されていて、トーンがまとまっている

<3>コラムを読んで擬似OJT体験

基礎を勉強した後、その先どうやってレベルアップしていくのか? スクールに通う、海外のYouTubeを観る、書籍で学ぶなどその方法は様々考えられる。吉田氏は一番レベルアップに効くのはOJTだと考えていて、実際の仕事の中で実力をつけていくのが大事だと語る。ディレクターや先輩に直されることで気づきを得、チェックバックの量が実力になっていくという。

「上司も先輩も教育者ではないので、教え方が上手い人とそうでない人がいます。普段の仕事をしながらなので、なかなか時間も取れません。ビジュアライゼーションの部門が立ち上げられたばかりで先輩がいないケースもあります。そういった環境の中でも、この連載で擬似OJT体験をしてほしい。こういう作り方もあるんだということを知ってほしいですね」(吉田氏)。3ds Maxや建築ビジュアライゼーションを始めたばかりの人にとっても、経験者にとっても、新しい作り方を知るための連載だと続けた。

本連載での擬似OJT体験のポイントは、以下の3つ。
●仕事の要件設定:この仕事は、どういった経緯で、このキッチンを作っているのか?
●作品の構想検討
●今回のモデリングのポイント

今回の擬似OJTの要件設定

仕事の要件設定としては、キッチンカタログの小見出しに使うCGパース、雰囲気はお任せ、図面はなし、即日納品という無理な要望ながらも実際にありがちなもの。カタログ用のパースなのに即日納品という普通の仕事にはなかなかない状況だが、普通の仕事にはない経験の方がOJTとして経験になると考え、こういったテーマが設定されているという。

即日納品なので、特急料金の仕事ということになる。トイレ、リビングといった分類の中での「キッチン」、さらにシリーズで項目が分かれている商品カタログ。そのようなカタログのシリーズの掲載写真として使われるCGが今回の仕事だ。カタログの表紙に使われるほど重要ではないが、そこそこ目立つ扱いになる。

仕事として即日納品、短時間という要件はまだ良いが、「雰囲気おまかせ」というのが落とし穴になる、と吉田氏。クライアントが「もう好きに作っちゃって」と言っていても、締切日の夕方を迎えて納品すると、なかなか返事が返ってこない。その上「何か思っていたのと違う」と言われてしまい、この後怒涛のチェックバックが返ってくる。「雰囲気おまかせ」でも、いったん出来上がったものを見ると指摘が出てくるのはよくあることだ。発注側は建築の専門家ではあるが、CGの専門家ではないことが多い。

こういった状況を避けるために一番簡単なのは、事前に話すこと。「こういう雰囲気で作りますね」と事前に話してしまうこと、また、完成後に直してほしいと言われたとき、「これはこういう理由でこうしています」とはっきり説明できることも大切だという。

そのためにも必要になるのが、制作に入る前の「作品の構想検討」だ。構想検討は自分のイメージを具体化して作品に反映させやすくする。モデリングの作業、ライティングの作業など後の作業スケジュールが明確になり、モチベーションを上げる効果もある。

今まで自分が作ったものとまったくちがうものを作ってみたり、海外パースの真似をするなどして構想検討をしておくと、制作中にイメージと違う絵がレンダリングされた場合でも悩んで手が止まることなく、あらかじめ検討した構想を基にさらに作業したり調べたりすることができる。何となく作品を作るよりも、スキルが身について能力が上がってくるのだ。

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<4>制作範囲を限定しつつ印象的にするための構図選択

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<4>制作範囲を限定しつつ印象的にするための構図選択

例えば、今回の構想検討は下記のようなイメージになる。「このキッチンのある生活をしたいと考えるように構想検討しました」(吉田氏)。

●正面からの構図(安定感がある、主人公がわかりやすい、作るものを限定できる)
●キッチンだけに限定する。ダイニングなどは作らない
●環境光のみのライティング(自然な感じを出すため)
●環境は森林(商品のターゲット層の好みを意識)。強い光ではなく、一度反射して柔らかくなった光を使う
●コンセプトは「昼下がりのキッチン」(森林の環境光が一番映える)

正面からの構図と、構造を考えたときのスケッチ

今回の制作のポイントのひとつは、キッチンのみを捉えた正面からの構図だ。作るものを限定することで、その分、完成度を上げる作業に時間を使うことができる。斜めのアングルから作ると奥行き感がわかりやすく、説明に向いたアングルになる。

斜めからの構図

しかし、今回の仕事はカタログの見出しに使われるパースなので、説明的というよりも印象的なものが必要。斜めからのアングルでも角度を急にすれば(漫画の集中線のように)印象的になるが、その場合、キッチン以外の窓の向こうに見える植栽も作らなければならなくなり、作る範囲が増えてしまう。

急角度の斜めからの構図(右側)は、作る範囲が増える

作るものを限定しつつ印象的な絵にするために、今回は正面アングルを選択。カメラを置く位置などは、Googleの画像検索で「キッチン かっこいい」などで検索して、CG画像ではなく実写の写真を参考にしているという。

<5>部屋のモデリングと面取りのポイント

先述の通り、正面からの構図のため、今回作るのはキッチン周りのみ。見せたい部分の優先順位を決め、見せたい部分のみ品質を上げるように制作を進める。

まずは部屋から作っていく。部屋を先に作った方がインテリアを配置するときに収まりを意識しながら配置できるからだ。単にボックスを作るだけでは作業中に部屋の中が見られないが、ポリゴン編集モディファイヤで壁面を選んで反転させると、部屋の中を見ながら作業することができる。ワイヤフレーム表示でも部屋の中を見て作業できるが、シェーディングのときに中が見えなくなるため、背面非表示で、ポリゴンの裏面が見えなくなるよう設定する。

作業しながら部屋の中が見られるよう壁面を選んで反転させる

また、キッチンの家具は、全て面取り(※)するようにしているという。図面上では面取りが1mmもない家具だとしても、生活によって摩耗する場合もあるため、現実には角が鋭利なままになっていることは少ない。まったく面取りが入っていない木材や金属では、触ると指が切れてしまう。

※面取り:柱や家具の角を削って、そこに新しい面を作ること。実際にはカンナやヤスリ等で角をわずかに削る。最初は面取りがなくとも摩耗によって角が丸くなる場合もある

左:面取りなしの家具、右:面取りを施した家具。面取りがないと、それぞれの角が鋭すぎていかにもCGっぽくなってしまう

面取りをCGに反映させる際は、大きく2種類に分けて扱う。図面上で面取りが入っているものと、図面には面取りがないものだ。面取りする方法としては、[ポリゴン編集]モディファイヤと、[面取り]モディファイヤを使う方法がある。[ポリゴン編集]モディファイヤの場合、形状操作に応じて面取りされるが、一度決まった面取りの幅が変えられないこと、モデリング作業が進んでいるときに面取りの調整が難しいという課題がある。[面取り]モディファイヤを用いると、特定の場所だけに面取りを入れる、滑らかさを調整するなどの調整が後からできる。図面に面取りの指示が入っていないものを面取りする場合は、1mm以下から2mmほどの幅で面取りしているという。[面取り]モディファイヤは、3ds Max 2020から機能強化されている。

面取り設定の様子

「3ds Max 2021から使えるようになった[重みのある法線]モディファイヤを用いると、シェーディングが良い感じになります。このモディファイヤを入れているだけで、自動的に良い感じにしてくれる。有機的な形や複雑なモデルでは上手くいかない場合もありますが、建築で使うような、単純な形状にちょっと面取りが入っているようなモデルの場合は、これを入れるだけで綺麗になります。法線の方向が良い感じになるのでぜひ使ってください」(吉田氏)。

[重みのある法線]モディファイヤを利用していない場合

[重みのある法線]モディファイヤを利用している場合

最後に、質疑応答が行われた。

Q. 即日納品の仕事の場合、どれくらいのスピード感で作業するのか?

吉田:慣れてくると書き起こさなくても、電話しながら言葉で伝える程度でも良い。こういう製品ならこういうのが良いですかね? など、いちいちラフを作って提出するような時間はなくても話すだけでも効果がある。要素は、事前に自分で書き出してみたり、制作中にお客様と電話したり、交渉したり。実際の仕事では、新人に即日納品の仕事が任せられるといった連載のような状況はないでしょう。

今回の制作は普通のクリエイターPCを利用し、午前中から始めて夕方に納品できるくらい。モデリングが1時間から1時間半ほど、制作全体で3〜4時間、その後レンダリングを開始して2時間ほどでレンダリングの調整作業も終わるくらいのペースを想定しています。

高畑:最後のタイムリミットから逆算して、クオリティを調整して作業している。全てをCGで作るのではなく、Photoshopレタッチで完成させる場合もあります。

今回、100人強を集めた本ウェビナー。視聴者からは連載の更新に合わせて毎回ウェビナーを開催してほしいとの要望もあり、盛り上がった話題の中で90分が締めくくられた。なお、現在AREA JAPANにおいて本ウェビナーの動画がオンデマンド配信中だ。8月31日(月)までの限定配信のため、興味のある方は早めの視聴をオススメする。

ウェビナー動画視聴はこちら