>   >  漫画原作&アニメ版の線画表現を3DCGを駆使して現実世界に再現『映像研には手を出すな!』
漫画原作&アニメ版の線画表現を3DCGを駆使して現実世界に再現『映像研には手を出すな!』

漫画原作&アニメ版の線画表現を3DCGを駆使して現実世界に再現『映像研には手を出すな!』

<2>水崎氏が思い描く映像研の部室[第2話]

動きを付けながらモデルも増やしていく

2話に登場する、水崎氏が理想とするインテリアを線画で表現するシーン。こちらも1話のカイリー号と同様に、アニメーターが描いたガイドの作画(作画机、チェア、熱帯魚など)をベースに作業が進められた。まずは、野路氏が必要となる要素をモデリング。そしてショットワークは川嶋氏が担当。「当初は、水崎氏の台詞に合わせて線画の家具を置いていくというシンプルな表現になる予定でしたが、1話のカイリー号の表現でかなりつくり込んだのに応じて、モデルは雑物(※作画机の場合は、机上の小物など)を増やし、アニメーションの密度も濃くしていきました」(川嶋氏)。

特に濃密だったのが、熱帯魚。ガイドを参考に4種類のモデルを作成し、2種類のループアニメーションを用意。それらを組み合わせて動きを付け、さらに水中感を高める気泡を3種類の球体パーティクルのインスタンスで表現している。「必要に応じてモデルの種類や数を追加して、画面の密度を高めていきました。ただし、魚の数が多過ぎると線が重なって役者さんの演技が見えづらくなってしまうため、レイヤーを細かく分けて重なり具合を細かく調整していきました。膨大な作業量で、データの整理も大変でしたが、大きなリテイクもなく、良いかたちに仕上げられたと思います」(川嶋氏)。コンポジット作業では、手前の線は太くハッキリ、奥は細くしぼかす、といった具合にしっかりと奥行き感を出すことが意識された。ちなみにPencil+のレンダリングは、長くても1フレーム約30秒程度だったという。アニメーション作業時は、プレイブラストでもラインが出るためトライ&エラーを効率良く行えたそうだ。

事前の検証

デザインコンセプト(描き手のデザインセンス、好み等)の整合性を保つために、撮影用小道具スケッチブックの描き手でもある、アニメーションチームの水崎氏担当アニメーターが描いた各種デザイン画。これらをベースに画づくりが進められた

ショットワーク

作画机パートの作業変遷



  • 作画チームから提供されたデザイン画



  • デザイン画を基に起こしたCGモデルから生成された線画

雑物を足し、情報量を増やした完成形。言うまでもなく、CGモデルのデザイン修正やパーツの追加作業が大量に発生したが、線画表現用のモデル制作は野路氏がリードしたという


ソファ&フローリングパートの作業変遷



  • 作画チームから提供されたデザイン画



  • デザイン画を基に起こしたCGモデルから生成された線画

雑物を足し、情報量を増やした完成形


熱帯魚パートのMayaシーンファイル。レンズの歪みをコンポジット時に修正するため少し大きめのサイズでレンダリングしている



  • カメラビュー



  • パースビュー

完成形。このシーンの中でも最も情報量が多いパートだが、演者の芝居と共存させつつ線画が雑然と見えないよう細かな調整が施された

<3>浅草氏の宇宙遊泳[第3話]

デザインから一括して画づくりを担当

3話に登場する宇宙遊泳の表現。当初は、クレーンで吊った浅草氏の実写のみで描く予定だったが、2月前半に行われたオフライン編集チェックにて、想定よりも宇宙遊泳感が弱く、ビジュアルインパクトが不足していることが判った。そこで急遽、線画表現を追加することになったそうだ。「幸い、TVドラマ版の作業を終えたのと劇場版用のアセット制作も目処がついたタイミングだったので、対応できました。作画のガイドがなかったので、原作漫画の『部室船』を参考にしつつ、デザインを含めて制作させていただきました」(水石氏)。宇宙感を出すために、地球や月、賑やかしとして別の宇宙船などを足して画面に密度を加え、宇宙船に関しては空いている穴を見映え優先でわかりやすく表現したりコクピットの中も作成したり、細かいところまでつくり込み、画づくりをしていったとのことだ。遠景にレイアウトする月と地球についてもアーカイブ素材を利用しつつ、新規に作成。良い塩梅でラインが出るように地表をモデリングし、自転のアニメーションも加えられた。「宇宙遊泳は、モデル制作だけでなく、仕上げも担当させていただきました。水石さんと川嶋さんがワークフローを確立してくださっていたので、作業に専念することができました。大変でしたが、とても楽しかったです。プロになって、まだ1年目のタイミングで本作のようなやりがいのあるプロジェクトに参加することができて幸せです」と、野路氏。「ずっと、『正解はどこだろう?』と考えながら走り続けていました。ダビング時に完パケを拝見する機会があったのですが、『やってきたことは合っていたんだ』と、ようやく思うことができました」(水石氏)。

作業の変遷

実写撮影終了後に線画表現が追加されることになったため、急遽作成した要素確認用のラフレイアウト。宇宙船&宇宙ボートはラフモデルを起こし、背景の月と地球はこの段階ではモデルを起こさず2Dで配置

地球と月も3Dモデル化した上で、構成要素のディテール追加等のブラッシュアップが施された完成形

ショットワーク

ヒキ画のMayaシーンファイル

(左)パースビュー、(右)カメラビュー。各パーツごとに書き出し、コンポジットで配置を2Dで調整しているため、地球の位置が完成形とは異なっている



  • 月モデル(メッシュ表示)



  • 第3話のブレイクダウン動画(下の動画)に登場するデブリモデル(メッシュ表示)。コンポジット作業時に3Dレイヤーで使用

ブレイクダウン動画における完パケ画像

©2020「映像研」実写ドラマ化作戦会議 ©2016 大童澄瞳/小学館
©2020「映像研」実写映画化作戦会議 ©2016 大童澄瞳/小学館



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