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KAKELA STUDIOS×デジタルヒューマンRin

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<3>フェイシャル&リギング

アニメーションを見越してのリグ制作

アニメーションを付ける際に必須となるリギングにはmGearを使用。多くのプロダクションで採用されているmGearは、直感的で非常に使いやすいと定評のあるツールだ。モデル更新の際には、作成したスクリプトによって一括でリグの移植を実行する処理を行なっている。リグに精通したスタッフがいない同社にとって、mGearは力強い味方となったようだ。

「当たり前のこと」を丁寧に積み重ねる

技術的には特別なことをやっていないというRinだが、形状やテクスチャなど細部まで「当たり前のこと」を積み重ねて、きちんと形づくられている点が特徴的だ。例えば、歯の位置は少しでもズレたらまるで印象が変わってしまうパーツなので、歯科医さながら歯並びと顎の形を厳しくチェックしている。ほかにも、眉骨に沿って眉毛が正しく生えているか、まつ毛の生え際に違和感がないかなど、人体として正しい造形ができているかを深く掘り下げつつ細部を詰めている。「デッサンすることで、日頃どれだけものを見ていないかをうかがい知ることができるので、当たり前になっていることに対してゼロベースで考え、謙虚な姿勢で臨めます」と、一丸氏。彼らが丁寧なモデリングを実践する背景には、単なる形状へのこだわりやリアルさの追求ではなく、社会的に意義のある作品をつくりたいという同社の真摯な姿勢が根底にあることが窺える。

まつ毛の生え際はどうなっているのか、眉毛が生えている場所はどこが正しいのか。顎と歯の関係はどうなっている? 歯の大きさはこれで良いのか......。人体を形成する1つ1つのパーツを細部まで観察して形づくられている

<4>テクスチャ&コンポジット

一段階ずつ深堀りした繊細なテクスチャ作成

テクスチャワークは非常に繊細な工程で、ほんの少し色味や明暗のバランスがちがうだけで印象が大きく左右されてしまう。キャラクターに合っているか、変な色を使っていないかを常に意識しながら、一段階ずつ深堀りしてテクスチャを付けていった。今回、レンダリング素材として背景にビビッドなピンクを敷いたのだが、その結果、顔色が青黒くくすんで見えてしまい調整が必要となった。テクスチャの工程では、フィニッシュを考慮して制作することも必要なのだ。ちなみに、Rinのテクスチャはほぼ全てPhotoshopで作成されている。テクスチャ制作を担当した藤原氏によると、継ぎ目を考えずに済む場合は手慣れたPhotoshopで完結させることが多いとのことだ。

テクスチャはほぼ全てPhotoshopで作成している

Arnoldの標準シェーダを使いこなした肌の表現

レンダリングはArnoldを使用し、標準のスキンシェーダにディテール用のテクスチャをタイリングさせて情報量を増やしている。シェーダのノードを見ると、奇をてらわず丁寧にテクスチャを接続した実直なシェーディングがされていることがわかる。特別なチューニングを施すと、環境によってはレンダリング結果がブレてしまうこともあるが、基本的な機能を使って品質を上げていく手法は後工程での使い勝手が良く、ブレが少ない。また、肌の色はNix Pro 2を使用し、人間の皮膚を実測して色味を抽出している。肌の色を感覚で調整するのではなく、実測できるものは可能な限り数値化して割り出すという「ひと手間」が、リアルなデジタルヒューマンを制作するポイントだろう。

Arnoldの標準スキンシェーダに、ディテール用のテクスチャをタイリングさせて情報量を増やしている

Nix Pro 2を使って肌の色を抽出して数値化。iPhoneのアプリを使用して色を取得することができる(www.nixsensor.com/nix-pro

抽出した際のアプリ画面(数値はRinで使用しているものではありません)

後加工を必要としない、高品質なレンダリングを実現

コンポジットにはDaVinci Resolveが使われている。静止画の場合、レンダリングしたものに修正加工を多数入れて仕上げることが多いが、今回はカラーグレーディングで少し手を加えただけで、顔部分には1ピクセルも描き込み(レタッチ)をしていないという。「形が正しくて、質感が正しくて、ライティングが正しければリアルになる」と藤原氏。前述したように、愚直なまでに細部を詰めたモデリングとごまかしのない実直な姿勢が、後加工を必要としない高品質なレンダリングにつながっている。動画やリアルタイムに展開していく際にも有利となるだろう。コンポジット時のフォローを考えつつ時間をかけずにモデリングするか、時間をかけてもはじめから高精度なものをつくって後工程を減らすかについては、目的やプロダクションによって考え方にちがいがあるだろうが、同社のように専任のコンポジターがおらず、少人数で制作する場合は後者の手法が向いているのかも知れない。

レンダリング結果(左)とDaVinci Resolveで少し色味を調整したもの(右)。顔部分には1ピクセルもペンを入れていないという



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