<2>頭の中のイメージを0からカタチにする「コンセプトアートコース」
■熟練の技を隅々まで堪能! コンセプトアートコース〈Day1〉
ここからは各コースの様子をレビューしていく。コンセプトアートコース初日のスタートを切ったのは、ゲームやアニメで活躍中の有里(Yuuri)氏による『ゼロからの異世界構築~ファンタジー世界をデザインする際のアイデア出しと思考手順~』。世界観を含めたコンセプトアートをゼロからつくるにあたり、リファレンスの集め方や構想の練り方など具体的な例や手法を織り交ぜながら、コンセプトアートがつくられる工程を解説した。「1を伝えるために100を考える」という姿勢で、友人の実家である温泉旅館に出向いて取材して集めたというリファレンスは量も質も圧巻であった。取材を活かして緻密に構築された世界観は説得力抜群だ。
▲有里(Yuuri)氏とMCを務めた西原氏(右)
続いて2本目のセッションは、ホラーテイストを持ち味とする友野るい氏による『気温や匂い、雰囲気などの形の無いもののビジュアライズ~絵に臨場感を出す手法を紹介~』。具体的なコンセプトアートの作例が出てこない、絵を描くための考え方に焦点を当てた個性的なセミナーであった。美大で絵画を専攻した同氏の考察は独特で、あえて画で説明せず抽象的かつ理論的に解説していった。作品をつくる上での形のない感覚を捉えるための考察は、そう簡単に理解できるものではないが示唆に富んでいる。感覚が鋭い受講者なら非常に深く刺さったことだろう。とても独特かつミステリアスな講義であった。
3本目は長砂ヒロ氏の『CGプロダクションのためのコンセプトアー~海外の現場で必要とされたコンセプトアートとは~』では、プロダクションにおけるコンセプトアートの意味や使われ方をわかりやすく解説。ピクサーやトンコハウスといった、「ハリウッド流CGアニメーションの王道」ともいえるコンセプトアートの作法が語られた。後半で行われたPhotoshopでの細かいテクニックを駆使したデモンストレーションも具体的な内容で今後の参考となったことだろう。
さて、初日最後の講義はイラストレーターとして数々の実績を積んだ上杉忠弘氏による『コンセプトアートの着想と視点~Photoshopを使ったコンセプトアートの実演~』だ。ライブペインティングを通してコンセプトアートの描き方が語られたのだが、一見サラリと簡単に描いているようではあるが、これまでのキャリアが濃縮された筆の動きにすっかり魅了されてしまった。話を聞きながらリアルタイムに出来上がっていく様子を見るのは極上の体験である。コンセプトアートコースの1日目を通して、作品への姿勢は人柄を表し、アーティストの数だけアプローチがあるということを目の当たりにした。講師たちの考え方や方法論は濃厚で刺激的なので、良い意味である種の覚悟が必要かもしれない。
▲有里氏による『ゼロからの異世界構築~ファンタジー世界をデザインする際のアイデア出しと思考手順~』の様子。細部までしっかりと練り込まれた設定を見ているだけで、有里氏が作り出した異世界にひきこまれるようでワクワクしてしまった
■コンセプトアートの醍醐味を味わい尽くすコンセプトアートコース〈Day2〉
コンセプトアートコース2日目は、マットペインターでありコンセプトアーティストの竹下優子氏による『カラー&ライト』からスタートした。カラーや明暗の関係を、カラーホイールを使って論理的に説明してくれる。感覚だけに頼らない筋道のある数字を使った理論はわかりやすく、理解できれば実践ですぐに使えそうだ。また、最後のコメントに対して、リアルタイムで臨機応変に事例を挙げて説明してくれたのもわかりやすかった。続いて、東條あずさ氏による『キーフレームをつくるためのエクササイズ&カナダのILMでアート部門に入るまでの道のり』では、実践的なトレーニング方法だけではなく、彼女がたどったILMに至る道のりを詳細に語ってくれた。これからコンセプトアートの世界を目指す若者にとって、その軌跡はおおいに参考になるだろう。
▲東條あずさ氏(左)とMCを務めた西原氏(右)
国内外で活躍する実力派コンセプトアーティストの沢田匡広氏による『3DCGを活用したコンセプトアート講座~3Dソフトを駆使したワークフローを各ソフトの利点や欠点、住み分け等を解説~』では、表現方法だけでなく自身が日頃使っているツールを具体的に紹介。さらに、2Dだけではなく積極的に3Dツールを使う最近のコンセプトアート事情が体感できた。3Dや2Dの手法にこだわらず、メリットとデメリットを精査しながら合理的にツールを使いこなす考え方は非常に参考になる。
コンセプトアートコースの最後を締めくくったのは、日本のコンセプトアート界を牽引するINEI代表の富安健一郎氏による『デザイン、イラスト、コンセプトアートをレベルアップする方法~コンセプトの作り方、ライブペインティング~』だ。狭い意味でのコンセプトアートに留まらず、作品の本質的なコンセプトを探るためのワークフローを解説。さらに後半では「これぞコンセプトアートの醍醐味」ともいえるライブペイントを堪能することができた。
2日間を通して8名ものトップクリエイターによる講座を受けたわけだが、正直、情報量が多くて混乱気味ではあったものの、基礎や概念的な講義からはじまる理解しやすいながれのタイムテーブルで進められたため、負担を感じることなく視聴することができた。また、アニメーションコースの視聴を目的に参加したという方にとっても、コンセプトアートの世界を知ることは、今後制作する上でプラスとなることだろう。分業化が進む今、横の連携が必要となっている。他の工程に対する相互理解を深めるためにも貴重な講義となったのではないだろうか。
▲東條あずさ氏による『キーフレームをつくるためのエクササイズ&カナダのILMでアート部門に入るまでの道のり』のセッションの様子。実践的なトレーニング方法だけではなく、彼女がこれまでに歩んできた「ILMに至る道のり」をリアルに語ってくれた。これからコンセプトアートの世界を目指す若者にとって、彼女が歩んできた軌跡は参考になったことだろうし、ベテランにとっても若者の成長の速さと向上心に焦りを感じたのでは。かく言う筆者も、彼女の前向きさに影響されたひとりである。もっと努力せねばと思わされた次第だ