「やっぱり『どれみ』と同じトーンでやっていいんだ」(鎌谷監督)
CGW:キャラクターデザインについて、監督から馬越さんに何かご要望はお伝えしましたか? ソラ・ミレ・レイカに、どれみ・はづき・あいこを彷彿とさせる要素が含まれていたり、それぞれのルックとは異なるキャラを推していたりする部分も興味深かったです。
▲作中カット。左から、 ソラ、レイカ、ミレ
佐藤:設定をお伝えして以降のデザイン面については、馬越さんに一任しています。『どれみ』たちの要素を盛り込んだのも、我々は後から聞いたので、すべて彼のセンスです。しかもそれがちゃんと物語の中で活きてくるというところも含めて、さすがだなと思います。20代の女性のファッションについては、僕はまったく詳しくないので、関さんと鎌谷監督に資料を用意してもらって、馬越さんにお伝えするながれだったと思います。
鎌谷:本作の舞台は我々が生きている世界と同じなので、実際に流通している服をショッピングサイトなどで探してお伝えしました。衣装替えについては、中村章子さん(作画監督)が、旅行に行くときは必ずしも毎日服を変えたりせず、シャツだけ変えてボトムスは同じにしたり、髪型をアレンジしたりするといった現実感を盛り込んでくださいました。
CGW:本作に限らず佐藤監督はほかの作品でも実在の場所を登場させていますが、そうすることで作品のリアリティにどのような効果をもたらすと考えますか?
佐藤:これにはメリットとデメリットがあります。まず、デメリットについては、現実にある場所をそのまま使うと、例えばある地点から別の地点に移動するのに必要な時間が、物語の中の時間のながれまで縛ってしまうという点が挙げられます。この移動距離で、これだけの会話をするのは不可能といった具合です。だから、モデルにしつつも実はちがう場所、みたいな塩梅がちょうど良い(笑)。メリットについては、作品を一度観て「楽しかった」で終わるのではなく、訪れたり、そこでコミュニケーションをしたりすることで、作品を二度三度楽しめるという点が挙げられます。本作は、きちんと実在の場所に寄り添った形にしていく方針でしたので、丁寧に描くことを心がけました。
▲作中の旅行シーン。【上】は岐阜県の高山、【下】は奈良県の東大寺
CGW:ちなみに本作の中で、主人公たちがMAHO堂のモデルになった建物がある鎌倉市を "聖地巡礼" していますが、この設定を明言したのはこれが初めてですか?
佐藤:そうですね。当時もそのつもりで描いていましたが、ハッキリとは言わないようにしていて、「目の前に海があって、後ろに山があるから、鎌倉を念頭に、街中は裏原宿みたいにしよう」というくらいの扱いでうっすらと決めていました。
CGW:旅先で撮った記念写真のカットを連続で見せるなどして、短い尺の中で多くの観光地を紹介したことで、主人公たちの過ごした時間がより濃密に表現されていました。
鎌谷:シナリオの段階から主人公たちはいろんな場所に行っていたので、画でもできるだけ多くの場所を見せていきたいなと考えていました。記念写真の演出は、五十嵐さんが奈良観光のパートの絵コンテでやっていました。そのパートが最初に仕上がったので、序盤の主人公たちが出会うシーンで、ミレが写真を撮影するという演出につながっていきました。
CGW:絵コンテはどのように分担しましたか?
鎌谷:奈良・京都観光のパートは五十嵐さん、高山観光のパートは自分が担当しました。佐藤監督は冒頭と最後のどれみたちのパート、谷(東)さんはオープニングの直後から高山観光の直前までを担当されました。
CGW:最初に仕上がった五十嵐さんの絵コンテが、作品全体のトーンを決めるといったことはありましたか?
鎌谷:非常にありましたね。例えば、ギャグ顔としてどこまで崩すことを良しとするか。『どれみ』のギャグ顔は子供向けアニメだからアリでしたが、今回は我々と同じ世界にいるキャラクターですから、どこまで崩すか......といったことを悩む間もなく、五十嵐さんが崩していたので(笑)。「ああ、やっぱり『どれみ』と同じトーンでやっていいんだ」ということが、明確になりました。絵コンテだけで、私たちを引っ張ってくれたと思っています。
▲五十嵐氏が絵コンテを担当した奈良観光のシーン
佐藤:五十嵐さんの中で、現実世界だろうが『どれみ』の世界だろうが、「こう!」みたいなのがあったんでしょうね。迷った形跡がなかった(笑)。
鎌谷:ただ、崩し顔はあっても、同じ世界にいる女性なので、芝居が下品にはならないようにしています。例えば、全身を地面にこすりつけてドザーッとコケるような芝居は入れていません。
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