1999年から2000年代初頭にかけて東映アニメーションが制作した『おジャ魔女どれみ』シリーズ(以下、『どれみ』)は、当時の小学生女児を中心に大きな人気を誇り、今なお心に残る作品であり続けている人も少なくないという。11月13日(金)より公開中の映画『魔女見習いをさがして』の主人公たちは、まさにそんな20代の3人の女性だ。『どれみ』20周年を記念する本作の監督を務めた佐藤順一、鎌谷 悠両氏に、制作の経緯から、演出、『どれみ』らしさ、本作に込めた思いまで、多岐にわたり語ってもらった。

TEXT_日詰明嘉 / Akiyoshi Hizume
EDIT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
ASSISTANT_柳田晴香 / Haruka Yanagida(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

▲おジャ魔女どれみ20周年記念作品『魔女見習いをさがして』Final予告


  • おジャ魔女どれみ20周年記念作品『魔女見習いをさがして』 11月13日(金)全国ロードショー
    原作:東堂いづみ、監督:佐藤順一・鎌谷 悠、脚本:栗山 緑、キャラクターデザイン・総作画監督:馬越嘉彦、プロデューサー:関 弘美、アニメーション制作:東映アニメーション
    出演:森川 葵、松井玲奈、百田夏菜子(ももいろクローバーZ)、千葉千恵巳、秋谷智子、松岡由貴、宍戸留美、宮原永海、石田 彰、浜野謙太、三浦翔平
    https://www.lookingfor-magical-doremi.com
    ©東映・東映アニメーション


主人公は『どれみ』世代。イベントで見たファンの目の輝き

CGWORLD(以下、CGW):まずは企画の始まりについて教えてください。

佐藤順一監督(以下、佐藤):『どれみ』が、20周年を迎えるということで、東映アニメーションの関 弘美プロデューサーから、オリジナルのスタッフである脚本の栗山 緑(山田隆司)さん、キャラクターデザインの馬越嘉彦さんたちを集めて映画をつくろうと思っているという話を伺いました。その時点では、小学生のどれみたちを描くのか、小説(『おジャ魔女どれみ16シリーズ』/栗山 緑 著/2011~15年刊)で展開したティーンエイジャーの彼女たちの話のながれを汲むのかといった方向性は決まっていませんでした。

その後、栗山さんに大人になったどれみたちの話のプロットをつくっていただいたのですが、せっかく映画をつくるならば、当時の『どれみ』ファンだけではなく、もっと幅広い人たちに観てもらいたいなと考え直し、企画を揉んでいきました。現在の形につながるアイデアの素を出したのが誰だったか、記憶が定かではないのですが、この方向に固まってから、さらに皆で議論を重ね、話をつくっていきました。

  • 佐藤順一監督
    1960年生まれ。愛知県出身。『おジャ魔女どれみ』初代シリーズディレクターを五十嵐卓哉氏と共に務め、児童・少女向けアニメーション作品を多数手がける。主な監督作品に、TVアニメ『美少女戦士セーラームーン』(1992〜1993)、TVアニメ『夢のクレヨン王国』(1997〜1999)、TVアニメ『ケロロ軍曹』(2004〜2011)、TVアニメ・OVA『ARIA』シリーズ(2005〜)、TVアニメ『あまんちゅ!』(2016〜2018)、TVアニメ『HUGっと!プリキュア』(2018〜2019)、映画『泣きたい私は猫をかぶる』(2020)などがある。


CGW:鎌谷監督はどのタイミングで参加されましたか?

鎌谷 悠監督(以下、鎌谷):私が加わったのはシナリオが決定して、五十嵐(卓哉)さんがご自身のパート(※)の絵コンテを仕上げた後です。ちょうど、佐藤監督の下で『HUGっと!プリキュア』(以下、『HUGプリ』)第33話の絵コンテ・演出の仕事をしている最中でした。

※『おジャ魔女どれみドッカ〜ン!』(2002〜2003)第10話、第11話にて、どれみたちが修学旅行で訪れた奈良・京都を、本作の主人公たちが "聖地巡礼" するパートの絵コンテは五十嵐氏が担当した。


  • 鎌谷 悠監督
    『映画 ドキドキ!プリキュア マナ結婚!!?未来につなぐ希望のドレス』で助監督(2013)、『映画 プリキュアスーパースターズ!』(2018)で絵コンテ・演出、TVアニメ『HUGっと!プリキュア』(2018〜2019)第33話「要注意!クライアス社の採用活動!?」で絵コンテ・演出として参加するなど、次世代のアニメ業界を牽引するクリエーター。オリジナルの制作スタッフが揃う中、『おジャ魔女どれみ』シリーズ初参加にして監督デビューを果たす。


CGW:鎌谷監督はリアルタイムで『どれみ』をご覧になっていましたか?

鎌谷:いいえ。関プロデューサーはそのつもりで本作の監督に推薦してくださったと思うのですが、世代的にはちょっとズレていて、リアルタイムでは観ていなかったんです。なので、このお仕事をいただいてから、観始めた形です。

佐藤:関さんは若い演出家で有望な人を目ざとく探してくるんですよ。鎌谷さんとの仕事は『HUGプリ』が最初でしたが、その前に関さんから、「『タイガーマスクW』(2016〜2017)の鎌谷さんの演出回(※)を観ておいてください」と言われまして、きちんと安定した仕事ぶりが印象に残りました。その後、『HUGプリ』で一緒に仕事をしたときには、「こちらも背筋を伸ばさねば」と思わされました。

※鎌谷氏の演出回は、第4話「赤き死の仮面」、第13話「虚構の勝利」、第24話「再びの猛虎激突!」、第32話「ランバージャック」、第38話(最終回)「仮面タイガースプリンガー」の全5話。


CGW:それはどんなところから?

佐藤:第33話のシナリオが規定よりちょっと長かったんです。そうしたら、彼女からA4で2枚くらいのクレームの手紙がきて(笑)。

CGW:ええっ!?

鎌谷:(笑)。

佐藤:「もうちょっと尺に合う形に収まるように監督がチェックしてくれないと、後々の各話演出家の作業に大きな負担がかかるんです!」と(笑)。自分が表現したい映像をつくる演出家というのは珍しくありませんが、彼女はそれだけではなく、お仕事としてもきちんとした形でつくろうという姿勢で向き合うんですね。こういう演出家はそう多くはいません。僕らも「ごめんなさい」と言うほかありませんでした(笑)。

鎌谷:昔の話は恥ずかしいですね(笑)。

CGW:本作の主人公たちは、『どれみ』を観ていた世代です。佐藤監督が『どれみ』をつくられていた当時は、視聴者にどのように作品が受け止められているかを把握する余裕がなかったそうですが、本作をつくるにあたって、成長した視聴者たちのことをリサーチされましたか?

佐藤:これは僕というよりも、関さんを含めた企画サイドでやっていただいていることなのですが、当時から、ターゲットである幼稚園未就学児~小学校低学年の子供たちが、どんな状況で、何が問題になっているのかをリサーチしていました。今回もやり方は同じで、ターゲットである20~30代くらいの女性が、今、どういう状況に置かれているかといったことを、東映アニメーションの社内外でリサーチしていきました。

  • それで感じたのは、「何だか、生きづらそうだな」ということでした。特に日本の女性は、仕事ができる・できない以外に、別の何かを求められたり、男社会でつくられた壁があったりする。だからといって、みんなそれで一日中鬱々としているわけではなく、明るく楽しいこともきちんと見つけている。本作の主人公の3人は、そういうリサーチを経て形づくられていきました。


▲長瀬ソラ(CV:森川 葵)は、愛知県出身の大学4年生。年齢は22歳で、『おジャ魔女どれみドッカ〜ン!』をリアルタイム視聴していた。周りの意見に流されがちで、自分を表現することが得意ではない。教師になる将来の夢を抱いているも......


▲吉月ミレ(CV:松井玲奈)は、東京で一流貿易商社に勤めているキャリアウーマン。年齢は27歳、リーダー気質で海外生活が長かったこともあり、思ったことをすぐに口にしてしまいがち。『おジャ魔女どれみ』は日本から送られてくるDVDで視聴していた


▲川谷レイカ(CV:百田夏菜子(ももいろクローバーZ))は、広島県出身の20歳のフリーター。『おジャ魔女どれみ』シリーズ放送時は観ておらず、再放送と配信で視聴した。地元・尾道のお好み焼き屋でアルバイトをしながら、絵画修復士になる夢のために、進学費用を貯めている


CGW:主人公たちが『どれみ』をどのように観ていたかを表現するためには、佐藤監督たちがつくられた『どれみ』とは何だったのかを見つめ直す必要があったかと思います。20年という時間経過も含めて、どのように受けとめていますか?

佐藤:当時『どれみ』を観ていた子供たちが、今、『どれみ』をどのくらい懐かしいと思ってくれているかはわかりませんでしたが、小説を刊行した際の反響や、各地でのイベントに集まるお客さんのキラキラした目が印象的で、本当に好きなんだっていうことが伝わってくるんですね。それはひとつの自信にもなりました。だからといって、「僕たちがつくったものをもっと好きになれ~!」というのもおこがましいところで(笑)。

本作に『どれみ』の要素をどこまで採り入れるか、悩みどころではありました。初期の栗山さんのシナリオだと、どれみたちの登場シーンや、オマージュを込めたシーンがもっと多かったのですが、そこでバランサーになってくれたのが鎌谷監督でした。観ていなかったぶん、映画のつくり方としての良し悪しをドライにジャッジできたのです。「この要素を入れるなら、もっと説明してくれないとわかりません!」と言ったりして(笑)。そこで自分たちのつくった『どれみ』を、今一度、冷静に見ることができました。

鎌谷:『どれみ』って、結構重い問題に迫る話が多くて。ただそうであっても、後味が悪いまま終わるのではなく、問題に向き合って解決してもしなくても、「観てよかったな」と思える終わり方をするんですよね。

  • 本作のシナリオを読んでも、栗山さんがそういう姿勢で『どれみ』をつくられていたんだなと感じることが多々ありました。本作でも、シナリオをそのように昇華させることで、「どれみ観」を守っていく必要があると感じました。


▲『どれみ』のおジャ魔女たち。左から、瀬川おんぷ(CV:宍戸留美)、妹尾あいこ(CV:松岡由貴)、春風どれみ(CV:千葉千恵巳)、藤原はづき(CV:秋谷智子)、飛鳥ももこ(CV:宮原永海)、春風ぽっぷ(CV:石毛佐和)


CGW:『どれみ』は、主に子供の世界観で描かれていましたが、本作では大人の世界観で仕事や恋愛などの要素が描かれています。世界観づくりで意識されたことは何でしたか?

佐藤:『どれみ』を観る年齢の子供たちの世界は、だいたい自分の家と、住んでいる街、幼稚園や学校などで完結しているんですよね。そこから広げると、少し手触り感がなくなってしまう気がしていました。本作は大人向けということで、例えば女子旅の「あるある」な実感は、鎌谷さんに丸投げして、我々はそれに従いました(笑)。

鎌谷:自分も仲の良い友達が2人いるので、その女3人集まって姦しいワチャワチャ感をシナリオにある女子旅にくり出す主人公たちに盛り込めたらと思いました。その上で、『どれみ』らしさ、先程お話ししたそれぞれの立場の問題には迫るけれども、きちんと寄り添って終わらせるということをより強く念頭に置きました。


©東映・東映アニメーション

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「やっぱり『どれみ』と同じトーンでやっていいんだ」(鎌谷監督)

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「やっぱり『どれみ』と同じトーンでやっていいんだ」(鎌谷監督)

CGW:キャラクターデザインについて、監督から馬越さんに何かご要望はお伝えしましたか? ソラ・ミレ・レイカに、どれみ・はづき・あいこを彷彿とさせる要素が含まれていたり、それぞれのルックとは異なるキャラを推していたりする部分も興味深かったです。

▲作中カット。左から、 ソラ、レイカ、ミレ


佐藤:設定をお伝えして以降のデザイン面については、馬越さんに一任しています。『どれみ』たちの要素を盛り込んだのも、我々は後から聞いたので、すべて彼のセンスです。しかもそれがちゃんと物語の中で活きてくるというところも含めて、さすがだなと思います。20代の女性のファッションについては、僕はまったく詳しくないので、関さんと鎌谷監督に資料を用意してもらって、馬越さんにお伝えするながれだったと思います。

鎌谷:本作の舞台は我々が生きている世界と同じなので、実際に流通している服をショッピングサイトなどで探してお伝えしました。衣装替えについては、中村章子さん(作画監督)が、旅行に行くときは必ずしも毎日服を変えたりせず、シャツだけ変えてボトムスは同じにしたり、髪型をアレンジしたりするといった現実感を盛り込んでくださいました。

CGW:本作に限らず佐藤監督はほかの作品でも実在の場所を登場させていますが、そうすることで作品のリアリティにどのような効果をもたらすと考えますか?

佐藤:これにはメリットとデメリットがあります。まず、デメリットについては、現実にある場所をそのまま使うと、例えばある地点から別の地点に移動するのに必要な時間が、物語の中の時間のながれまで縛ってしまうという点が挙げられます。この移動距離で、これだけの会話をするのは不可能といった具合です。だから、モデルにしつつも実はちがう場所、みたいな塩梅がちょうど良い(笑)。メリットについては、作品を一度観て「楽しかった」で終わるのではなく、訪れたり、そこでコミュニケーションをしたりすることで、作品を二度三度楽しめるという点が挙げられます。本作は、きちんと実在の場所に寄り添った形にしていく方針でしたので、丁寧に描くことを心がけました。

▲作中の旅行シーン。【上】は岐阜県の高山、【下】は奈良県の東大寺


CGW:ちなみに本作の中で、主人公たちがMAHO堂のモデルになった建物がある鎌倉市を "聖地巡礼" していますが、この設定を明言したのはこれが初めてですか?

佐藤:そうですね。当時もそのつもりで描いていましたが、ハッキリとは言わないようにしていて、「目の前に海があって、後ろに山があるから、鎌倉を念頭に、街中は裏原宿みたいにしよう」というくらいの扱いでうっすらと決めていました。

CGW:旅先で撮った記念写真のカットを連続で見せるなどして、短い尺の中で多くの観光地を紹介したことで、主人公たちの過ごした時間がより濃密に表現されていました。

鎌谷:シナリオの段階から主人公たちはいろんな場所に行っていたので、画でもできるだけ多くの場所を見せていきたいなと考えていました。記念写真の演出は、五十嵐さんが奈良観光のパートの絵コンテでやっていました。そのパートが最初に仕上がったので、序盤の主人公たちが出会うシーンで、ミレが写真を撮影するという演出につながっていきました。

CGW:絵コンテはどのように分担しましたか?

鎌谷:奈良・京都観光のパートは五十嵐さん、高山観光のパートは自分が担当しました。佐藤監督は冒頭と最後のどれみたちのパート、谷(東)さんはオープニングの直後から高山観光の直前までを担当されました。

CGW:最初に仕上がった五十嵐さんの絵コンテが、作品全体のトーンを決めるといったことはありましたか?

鎌谷:非常にありましたね。例えば、ギャグ顔としてどこまで崩すことを良しとするか。『どれみ』のギャグ顔は子供向けアニメだからアリでしたが、今回は我々と同じ世界にいるキャラクターですから、どこまで崩すか......といったことを悩む間もなく、五十嵐さんが崩していたので(笑)。「ああ、やっぱり『どれみ』と同じトーンでやっていいんだ」ということが、明確になりました。絵コンテだけで、私たちを引っ張ってくれたと思っています。

▲五十嵐氏が絵コンテを担当した奈良観光のシーン


佐藤:五十嵐さんの中で、現実世界だろうが『どれみ』の世界だろうが、「こう!」みたいなのがあったんでしょうね。迷った形跡がなかった(笑)。

鎌谷:ただ、崩し顔はあっても、同じ世界にいる女性なので、芝居が下品にはならないようにしています。例えば、全身を地面にこすりつけてドザーッとコケるような芝居は入れていません。


©東映・東映アニメーション

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「『どれみ』は「もう僕らのものではないな」と感じる」(佐藤監督)

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「『どれみ』は「もう僕らのものではないな」と感じる」(佐藤監督)

CGW:主人公たちのキャストに対しては、どのような演出をされましたか?

佐藤:森川 葵さん(長瀬ソラ役)、松井玲奈さん(吉月ミレ役)、百田夏菜子さん(川谷レイカ役)の3人は実写のドラマや映画などに出演している方々で、僕もいくつかの作品を観ていたので、芝居については心配ありませんでした。本作では、シナリオを踏まえてキャラクターを演じるスキルに加えて、ソラならソラ、ミレならミレのリズムというか、それぞれのキャストがもっているものをキャラクターに反映してほしかったんです。

画に合わせることを優先すると、それを消すことになってしまうので、「画に合わせようとせず、少しはみ出るくらいの芝居感でやってください」とお願いしました。まず画を見ずに、台本に沿って演じながらキャラクターをつくってもらい、それから改めて画を見て演じていただきました。口パクに合っていなくても良いテイクが録れた場合は、画の方を後から修正することもありました。ただ、皆さんお上手なので、こちらが心配したほどにはそういったことは起きませんでした。

鎌谷:3人とも声優としての経験があまりなかったにも関わらず、事前にけっこうキャラクターをつくってきていたんです。ただ「自然な感じで」とお願いすると、台本を読んでいくにしたがって本当に自然な感じになりました。本作の主人公たちは我々と同じ世界にいる人のつもりでつくっているので、その自然な感じが上手くハマりましたね。

CGW:キャストのお芝居によって、より引き出されたキャラクターの要素として、どんなところが思い浮かびますか?

佐藤:ソラは、どこかじれったい感じが、良い意味で空気を読む優しい感じとして表れました。ミレは、その画とセリフの印象だけだと、けっこうキツいタイプの女性に見えてもおかしくないのですが、松井さんが声を当ててくれたことによって人懐っこさが出た感じがします。彼女がそう演じたというよりも、そこはかとなく漂う感じ。レイカは、自分が辛い思いをしているからこそ、他人がそうなるのが嫌で、自分が明るく振る舞うことで周りも明るくする子。百田さんはアイドルをされている方なので、他人を元気にしていきたいという感じが、ちゃんとレイカの成分の中に入ってきていて、こちらが予想した以上のプラスアルファになりましたね。

鎌谷:もう完全にキャラクターの中に入って、声を当ててもらっているんですよね。例えば実際の人でも、見かけと発する声がちがうことってあるじゃないですか。そういう部分も自然に出ています。この3人に当ててもらえて本当に良かったなと思います。

▲『どれみ』の魔法玉を主人公たちが月にかざすシーン


CGW:本作におけるCGの使い方はどのように考えましたか?

佐藤:映画の中でのCGの扱い方に僕はまだ結論を出せていないので、毎回が探り探りです。ただ、壮大な画をCGでつくると、それはそれで素晴らしい画面にはなりますが、映画のながれにおいては、「いかにも」な感じが出てしまうので、そういう使い方はしない方が良いとは思っています。今回もガッツリCGを使ったところはなくて、僕の方で指定したのは、最初の綿毛が飛んでいくシーン。ミレの勤める会社のビル内を窓越しに映しながらカメラが上昇するところは3Dで組んでもらいました。広さや存在感、質感を出すためにさりげなく使うのが、今回のCGの使い方だと考えました。

▲最初の綿毛が飛んでいくシーン。このシーンをはじめ、本作のCG制作の舞台裏を紹介する記事も近日中にお届けします。ご期待ください


鎌谷:昨今の映画であれば、海岸のシーンの波はCG班にお願いすることが多いのですが、本作では従来の『どれみ』の感じを引き継ぎたかったので、作画にしています。先程の綿毛やビルのシーン以外だと、モブキャラクター、クルマ、魔法玉の表現にCGを使っています(※)。主人公たちが魔法玉を月にかざすシーンでは、魔法玉の中で光が瞬く様子や、希望を連想させるような表現ができればと思い、CG部にアイデアを出してもらいました。とても綺麗な画にしていただき、ありがたかったです。

※モブキャラクター、クルマ、魔法玉は、いずれもカットによってCGと作画を使い分けている。例えばモブの場合は、遠景のものはCG、近景のものは作画で表現している。


CGW:撮影もとてもエモーショナルでした。京都観光の渡月橋のシーンの川面は、劇場のスクリーンで映える画づくりだと感じました。鎌谷監督から、特にお願いされたことはありましたか?

鎌谷:作中の光やレンズフレアには、様々な意味合いをもたせています。純粋な環境光もあれば、希望を示唆する演出もあり、それぞれで表現を変えてもらっています。このあたりは撮影班がとても頑張ってくれました。レイカの回想シーンの処理では、私の漠然としたイメージを色彩設計の辻田邦夫さんが形にしてくださり、それをマスターにして、撮影班が素晴らしい画づくりをしてくださいました。

▲京都観光の渡月橋のシーン


CGW:鎌谷監督にとって、本作での初監督はどんな経験になりましたか?

鎌谷:勉強することが多かったです。現実と同じ世界の作品を扱うのは初めての経験でしたし、イチからオリジナルのキャラクターを立ち上げることの大変さも知ることができました。

  • アフレコ・ダビングについては、佐藤監督のやり方を見習いながら勉強させてもらいました。この経験を踏まえて、次に活かせればなという感じですね。


CGW:佐藤監督は、『セーラームーン』や『どれみ』のシリーズディレクターを務めつつ、幾原邦彦さんや五十嵐卓哉さんなど、多くの後進を育ててきました。鎌谷監督は、その中でも最新の方になりましたね。

佐藤:幾原さんや五十嵐さんの頃は、自分たちがやりたいことを実現するにはどう振る舞えば良いかを伝えつつ、サポートするという感じでした。ただ、未就学児たちが観るアニメをつくるにはやりたいことだけでは駄目で、子供たちはアニメからいろんなものを獲得していきますので、こちらも覚悟が必要なんです。やはり東映アニメーションのような会社が、きちんとした子供向け作品をつくり続ける体制であらねばならないと感じています。

  • 次世代の子供たちに向けてアニメをつくれる現場であり続けてくれるよう、少しでも自分がやってきたものを残していきたいなという気持ちがあります。鎌谷監督は「いらないです」って言うかもしれないけど、「わかれ、受け取れ」みたいな(笑)。


CGW:そして、『どれみ』20周年記念作品として、また『どれみ』の生みの親のひとりとして、お客さんにはどのように受け取ってもらいたいですか?

佐藤:企画としては『どれみ』ファン以外にも届いてほしいという思いはありつつも、最初にお話ししたようにイベントでお客さんの目を見ていると、「もう、僕らのものではないな」と感じるんです。観てきた方々のものなんです。だから今回は、それを預かってつくるんだという気持ちでないといけないなという思いでした。子供向けにつくるものは、自分たちが楽しむためではなく、子供のためにつくるもの。そういう原点を改めて考えながらつくることができました。皆さんに観ていただき、楽しんでもらえることが一番の喜びですね。

▲撮影時、「ハッピーラッキーなポーズで!」とお願いしました。
快く応じていただき、ありがとうございました m(_ _)m



本記事は以上です。関連記事は以下よりご覧いただけます。
「広さや存在感、質感を出すためにさりげなく使うのが、今回のCGの使い方」>>おジャ魔女どれみ20周年記念作品『魔女見習いをさがして』公開記念

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