11月13日(金)より公開中の映画『魔女見習いをさがして』は、主人公の3人(ソラ・ミレ・レイカ)が『おジャ魔女どれみ』シリーズ(以下、『どれみ』)ゆかりの地である飛騨高山・奈良・京都などを "聖地巡礼" するロードムービーだ。実在する観光地を巡る本作では、旅のリアリティを高めるため、各地の人混み(モブキャラクター/以下、モブ)をしっかり描くことが重視された。ただし全てのモブを作画で表現するのは現実的ではなかったので、遠景のモブはCG、近景のモブは作画で表現することになり、東映アニメーションのデジタル映像部では先々まで視野にいれたモブ表現の新たな技術開発が行なわれた。その成果をはじめとする本作のCG制作の舞台裏について、CGプロデューサーを務めた福長卓也氏に解説してもらった。

TEXT_日詰明嘉 / Akiyoshi Hizume
EDIT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
ASSISTANT_柳田晴香 / Haruka Yanagida(CGWORLD)

▲おジャ魔女どれみ20周年記念作品 映画『魔女見習いをさがして』特別映像~おジャ魔女トラベル!~


▲おジャ魔女どれみ20周年記念作品『魔女見習いをさがして』特別公開~本編冒頭6分アヴァン映像~
0:49からの、近景の上昇する綿毛と遠景の窓越しのビル内を映しながらカメラが上昇するカットは、シーン全体がCGで組まれている。佐藤・鎌谷両監督がこだわった本カットのメイキングは、本記事の2ページ目の最後に掲載している。ぜひご覧いただきたい


  • おジャ魔女どれみ20周年記念作品『魔女見習いをさがして』 11月13日(金)全国ロードショー
    原作:東堂いづみ、監督:佐藤順一・鎌谷 悠、脚本:栗山 緑、キャラクターデザイン・総作画監督:馬越嘉彦、プロデューサー:関 弘美、アニメーション制作:東映アニメーション
    出演:森川 葵、松井玲奈、百田夏菜子(ももいろクローバーZ)、千葉千恵巳、秋谷智子、松岡由貴、宍戸留美、宮原永海、石田 彰、浜野謙太、三浦翔平
    https://www.lookingfor-magical-doremi.com
    ©東映・東映アニメーション


本作を機に、モブ表現の新たな技術開発に取り組むことに

本記事に先立って公開した佐藤順一監督、鎌谷 悠監督 インタビューにて、佐藤監督は「広さや存在感、質感を出すためにさりげなく使うのが、今回のCGの使い方だと考えました」と語った。


▲【左】CGで表現された清水寺(京都)のモブ。ほんの数秒のカットだが、複数のモブが舞台上を行き交っている/【右】ソラ・ミレ・レイカが名古屋駅で落ち合うカット。このような近景のモブは作画で表現されている。なお、モブ以外にも、魔法玉、クルマ、綿毛、ビルの表現にCGが使われている


本作のCG制作において、福長氏が最初に依頼されたのが作中のモブ表現だった。同氏はこれまでにも多くのCGモブを手がけてきたが、既存のモブシステムは特定プロジェクト向けに開発されていたため、この機会にモブ表現の新たな技術開発に取り組むこととなった。CG制作のメインツールはMayaで、モーションキャプチャデータの処理にMotionBuilder、モブ表現にGolaem 、テクスチャ制作にMari、エフェクト制作にHoudini、レンダラにArnold、撮影(コンポジット)にAfter Effects(以下、AE)、制作管理にSHOTGUNを使用。モブのモーションキャプチャはXsens MVN(以下、MVN)で行なっている。

以降では、モブ表現と、佐藤・鎌谷両監督がこだわった最初の綿毛が飛んでいくシーンのCG制作を掘り下げて紹介する。

CGアニメーターがMVNを着用し、モブの日常芝居を演じる

本作のモブのデザインは、メインキャラクターと同様、馬越嘉彦氏(キャラクターデザイン・総作画監督)が担っており、本作の世界観に合わせたバリエーション豊かなデザイン画がつくられた。『どれみ』はシリーズを通して学校のクラスメートやゲストキャラクターの1人1人まで丁寧にデザイン画をつくり、彼らのエピソードも描いてきた。そんな妥協のない姿勢は、本作のモブ表現にも踏襲されている。

本作のCGモブは子供(男女)・成人(男女)・老人(男女)からなる6パターンのモデルがベースとなっており、髪型・服・小物などのパーツと、それらの色を変えることで数多くのバリエーションをつくっている。あくまでモブなので、画面上で目立つような特徴は出さず、それでいて本作の世界観に則ったモデルに仕上げる必要があったという。また、レンダリング時の素材の出し方を工夫し、最終的にAE上でもパーツの色変更に対応できるようにすることで、CG作業に戻ることなく完結するしくみも準備されている。

▲CGモブの成人(男)のベースと、そのパーツの数々。奈良・京都の観光地が出てくる本作らしく、修学旅行中の高校生のような服が含まれている。これらは前述の馬越氏のデザイン画をCG化したものだが、唯一の例外がスマホで、作品の内容を考慮してモデリング時に追加された。いずれのパーツも色変更ができるしくみになっており、自動的に様々なバリエーションのモブをランダムに生成したり、シーン内に配置するインハウスツールを作成することで、作業者の負担を軽減している


CGモブのアニメーションは、MVNによるモーションキャプチャがベースとなっている。MVNは専用カメラやスタジオを必要としない、慣性センサーを搭載したフルボディスーツによるモーションキャプチャシステムだ。キャプチャは東映アニメーションの会議室で実施され、CGアニメーターを中心とするCG班のスタッフがMVNのスーツを着用してモブを演じた。

▲MVNを着用し、スマホで自撮りする観光客の芝居をキャプチャするCGアニメーター。本作ではこのようなCGモブ用の日常芝居が数多く必要とされたので、CGアニメーターが自分の担当するモブのアクターを自ら務めるケースが多かったという


▲MotionBuilderの作業画面。個別のデータに分離し、Maya上で動きをブラッシュアップした上で、Golaemを用いてシーン内に配置された


▲CGモブのアニメーションを管理するSHOTGUNの作業画面。Maya上で増やしたバリエーションも含め、全てのアニメーションが総覧できるようになっている


 

「あくまでモブなので、画面上で目立つような特徴は出さない」という前述の方針は、アニメーションにも適用された。「リアルな世界観なので、ちゃんと動いている方が自然に見えると思いがちですが、動きすぎるとメインキャラクター以上に目立ってしまいます。リアルな動きをキャプチャしたからといって、全部をそのまま使うのではなく、動かす必要のないところは動かさないという思い切りが大事でした」(福長氏)。

▲近景にソラ・ミレ・レイカ、遠景にCGモブを配置したカット


▲近景にレイカ、中景に作画モブ、遠景にCGモブを配置したカット


©東映・東映アニメーション

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行き交うCGモブとクルマが旅のリアリティを高める渡月橋のシーン

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監督の愛車から観光バスまで、多彩なクルマを用意

本作ではモブ同様にクルマも数多く描かれており、ここでもCGと作画が併用された。社内のライブラリから流用したモデルもあるが、本作の仕様に沿った改良が行われている。「(CGを)さりげなく使う」という監督の希望に応え、CGのクルマを本作の世界に溶け込ませるため、色に対しては格段の気配りがなされている。前述のCGモブの作成と同様、効率的な作業を心がける一方で、色彩設計の辻田邦夫氏に色域や組み合わせを確認し、最終的にはカット内でのバランスを人の目でチェックした上で、細やかな調整が施された。いくつもの観光地を巡るという本作の特性を踏まえ、軽自動車から観光バスまで多彩なクルマが用意されている点もこだわりのひとつだ。その中には監督の愛車と同じ車種もあり、東映アニメーションらしい楽屋オチ的な遊び心が入っている。

▲CGのクルマを管理するSHOTGUNの作業画面。本作用に作成されたクルマを総覧でき、各モデルのターンテーブルもSHOTGUN上から確認できるようになっている


▲クルマのレンダリングした素材を読み込んだAEの作業画面


▲撮影処理を経て完成した作中カット

行き交うCGモブとクルマが旅のリアリティを高める渡月橋のシーン

京都観光の渡月橋のシーンでは、ソラ・ミレ・レイカの周囲でCGモブとクルマが頻繁に行き交う。「カットが切り替わっても整合性が取れているか、CGモブとクルマの種類や動きが単調になっていないか、慎重に見極めながら配置しました」(福長氏)。

▲渡月橋の歩道部分にCGモブを配置しているMayaの作業画面


▲同じく、渡月橋の車道部分にCGのクルマも配置している


▲先のデータを使って制作された渡月橋のカット。渡月橋の美術を手前と奥の2枚のレイヤーに分け、行き交うCGモブとクルマを挟み込んでいる


▲カットの背景原図に合わせ、渡月橋以外の場所にもCGモブを配置している


▲渡月橋の上で語り合うソラ・ミレ・レイカのカット。遠景の土手の上をCGモブが行き交っている


▲ソラと大宮竜一が会話する逆光表現が印象的な本カットは、約720コマ(約30秒)もある長尺だ。初期のテイクでは対岸の土手にCGモブも配置されていたが、途中のテイクで不要と判断され、画面右側の渡月橋の上を行き交うモブとクルマだけが残された。ここぞという見せ場では、あえて要素を減らし、観客の視線をメインキャラクターに集中させる演出が採用された格好だ


本作にはアートとテクニカルのスタッフが数多く参加し、Maya、Golaem、Arnold、インハウスツールを連動させたモブ表現の新たなシステムが開発された。本システムは今後の作品制作での活用も予定されており、長期的な視野で開発を継続するという。「さらに使いやすく、汎用性のあるCGモブを扱えるシステムを確立することが当面の目標です。ひとくちにモブと言っても、求められる表現は作品ごとにちがいます。各作品を最大限に活かすモブを制作できるよう、課題解決に努めていきたいです」(福長氏)。

CGアニメーターのこだわりが詰まった入魂の綿毛カット

本記事の締めくくりに、佐藤・鎌谷両監督がこだわった最初の綿毛が飛んでいくシーンのCG制作を紹介する。どれみの「みんなは大人になったら何になりたいの?」というセリフの直後、風に吹かれたタンポポの綿毛が画面いっぱいに舞い飛び、その中のひとつがミレの勤める会社のビルに飛来する。

近景の上昇する綿毛と遠景の窓越しのビル内を映しながらカメラが上昇するカットは、シーン全体がCGで組まれている。窓越しにうっすらと見えるビル内のオフィスには数多くのCGモブ・机・PC・椅子などが配置されており、CGモブにはちゃんとアニメーションも付けられた。短い尺にも関わらず、CGアニメーターのこだわりが詰まった入魂のカットに仕上がっている。「ビル内で大勢の人が働いていることを伝えつつ、ミレのいる会議室のカットへシームレスにつなげたいという演出意図があったので、鎌谷監督もCGアニメーターも、モブの配置や動き、カメラワークなどにかなりこだわっていました」(福長氏)。

一連のカットを通して、佐藤・鎌谷両監督の演出術の一端が垣間見えるので、ぜひ注目してほしい。

▲ビル内のオフィスのCGモデル。一瞬しか見えないカットだが、CGアニメーターのこだわりが詰まった配置になっている


▲近景の上昇する綿毛と、遠景の窓越しのビル内を映しながらカメラが上昇するカット。全てCGで組まれており、ビル内のCGモブにはアニメーションが付けられている


▲先のカットに続く、ミレのいる会議室のカット。本カットのモブは全て作画で、右から2番目にミレが座っている



本記事は以上です。関連記事は以下よりご覧いただけます。
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