<5>特徴的な山のシルエットを強調する逆光気味のライティングで画づくり
作業の前に画のイメージを固めるよう心がける
これまでの工程では個々のアセット制作やスキャタリングなどデータを作る作業が主でしたが、ここからはライティングやコンポジットなど最終的な見映えに関わる画づくりを行っていきます。同じ風景でも切り取る時間帯や天候、キーライトの位置がちがえば画面内の印象は大きく変わってきます。日中なのか夕景なのか、晴れているのか曇っているのか、画面内のどこを強調して見せたいのか。ただ闇雲にライティングをするのではなく、作業に着手する前にどういった方向性の画に落とし込んでいくのか、頭の中にしっかりとしたイメージを固められるようにリファレンスを集めて、事前に方向性を決めておきましょう。
今作ではメインとなる山のシルエットが特徴的だったので、シルエットがより強調されるように逆光気味にライティングしています。ただし逆光にしすぎると画面内が影に覆われて立体感がなくなってしまうので、トップめからの逆光にして、光が当たっている部分と影になっている部分のバランスが適切になるよう意識してライティングしました。
自然景観の画づくりにおいては、ライティングのみならず、霞、フォグ、雲(と雲の影)などの空気感の演出やカメラワークもスケール感を表現する上で大切です。現実をしっかりと観察し、集めたリファレンスを読み解いてリアルな表現を追求していきます。
陰陽バランスを考慮したライティング
▲HDRIをベースに、Distanceライトをキーライトにして別途コントロールしています
▲逆光すぎるライティング例。光と陰のバランスが悪いと立体感の乏しい画になってしまうのでなるべく避けます
雲の影などゴボ効果の活用でスケール感が出る
▲今作では行いませんでしたが、雲の影などのゴボ効果を入れることで、よりスケール感が出て画に立体感が生まれるのでオススメです
Volumeによる霞の表現
Volumeを使って霞を入れていきます。こういった霞はコンポジットで入れてしまうこともありますが、今回のような逆光の場合、3D的に表現した方が光の回り込み感がリアルに出るでしょう
▲霞を入れたい部分にBoxを配置し、Cloud SOPでボリューム化します
▲Standard Volumeの設定。Scatter Colorに若干青みを入れています。また、逆光感を強調するために[Anisotropy]を0.5に設定しています
▲霞の適用前
▲霞の適用後(どちらもコンポジット前)
レンズ効果を施してコンポジット
▲HDRI素材をCardにプロジェクションして空を作成。Cardは上にいくにつれカメラ側にくるよう変形し、カメラワークで多少パララックスが感じられるようにしておきます
▲レンズ効果として、グローや色収差、レンズディストーション、グレインを入れていきます。レンズ効果は過剰に入れがちですが、実際のカメラやレンズで起こりうる範囲に留めておくことがリアルな画づくりにつながります
▲最近のシネマレンズでは広角レンズでもほとんど色収差は感じられなかったり、このくらい明るいシーンではノイズもそこまで乗ることはありません。そういった「実際のカメラやレンズだったらどうなるか」を意識しながらコンポジットします
まとめ
少し前までは、このような自然景観を3DCGでつくるのはコストが高くなりがちでした。ですが現在では、Houdiniがあれば短時間でも説得力のある画を生み出せるようになりました。しかも、今回作ったシェーダやスキャタリングのしくみはプロシージャルに組んでいます。もし別のプロジェクトで使いたいとなった場合にも、すぐに流用することができるのです。
特に自然景観では、地形から植物の分布まである程度決まったルールに基づいていることが多いです。そのため、一度Houdiniでつくったしくみをライブラリ化しておけば、限られた制作期間の中でもさらに効率良く制作できるはずです。また、複雑でテクニカルな工程をHDA(Houdini Digital Asset)化しておくことで、Houdiniに慣れていないアーティストでも感覚的に作業できます。これもHoudiniの大きな強みです。
筆者の所属しているSpade&Co.では現在、大作映画のVFXに関わっています。今回ご紹介したようなエンバイロンメントワークやエフェクトなどを日々Houdiniで制作しているので、ご興味がある方はぜひご連絡ください。