>   >  キャラクター性や世界観を損なわずリアルに表現~『FINAL FANTASY VII REMAKE』(2)アニメーション&エンバイロンメント
キャラクター性や世界観を損なわずリアルに表現~『FINAL FANTASY VII REMAKE』(2)アニメーション&エンバイロンメント

キャラクター性や世界観を損なわずリアルに表現~『FINAL FANTASY VII REMAKE』(2)アニメーション&エンバイロンメント

映像・ゲームのノウハウを結集して構築されたミッドガル

「原作が愛され、期待されている中でのリメイクということで、みんなの夢を壊さない、それだけでなく思い出をアップデートしよう、という挑戦を軸に開発を進めました」とエンバイロンメントディレクターの三宅貴子氏は語る。



  • 三宅貴子/Takako Miyake
    エンバイロンメントディレクター


  • 玉ノ井 彰祥/Akiyoshi Tamanoi
    リードエンバイロンメントアーティスト

背景を制作する上では「原作の世界観が現実にあったならば」を出発点にイメージを掘り下げていき、そこから実際にモデリングする際の設計へとつなげていった。「都内の繁華街や近郊の工業地帯など、ミッドガルのイメージに近しい環境がロケハンしやすい範囲にあり、日々インスピレーションを膨らませることができました」(リードエンバイロンメントアーティスト・玉ノ井 彰祥氏)。カオス感のある雑踏に置かれているオブジェクトひとつとっても、そこに何らかの歴史的経緯がある。そういった思いがミッドガルの世界観へとつながっているのだという。

ツールはMaya、ZBrushSubstance Painterを中心に、一部にSubstance Designer、布のオブジェクトにMarvelous Designer、破砕オブジェクトなどの表現にはVATを用いている。

AAAタイトルの背景制作は量産期には多くの人員を要するが、本作でも社内外問わず大規模に人員を投入したことが知られている。「才能あふれるメンバーが集まったので、その能力を発揮できるよう環境を整えるのが私の役目でした」(三宅氏)。映像分野でハイエンドな背景をつくってきたメンバーに恵まれ、プリレンダーとほぼかわらないクオリティラインで制作を進めることができたという。

「これまで映像分野で経験を積んできて、初のゲーム案件でしたが、制作手法には大きくちがいがなく、クオリティを上げる作業に注力できました」(株式会社アティック リードエンバイロンメントアーティスト・市原麻菜氏)と、本作の開発を通して相互に刺激しあう好循環が起きていたようだ。

3段階に分けて詰められる背景制作工程

▲背景制作の工程は便宜上大きく「1st Pass」、「2nd Pass」、「3rd Pass」の3段階に分けられる。ここでは「伍番街スラム教会」【左】、「七番街スラムプレート支柱」【右】ロケーションを例に各工程を紹介する。画像は1st Pass。ラフモデルを作成する。モックとして簡易なモデルで空間設計と動線設計を考える工程。「想定されているバトルに必要な空間構成、広さ、テクスチャ解像度などをここで探ります」(市原氏)。教会では簡単な人型と花壇が配置されている

▲2nd Pass。外部パートナーも含め大規模に展開し、本番想定のハイモデルアセットに置き換えていく【上段】。また、テクスチャの大部分を作成【下段】。2ndの後半からライティング班との連携が始まる

▲3rd Pass。レイアウトを細かく詰め、ライティング含め全体のクオリティアップが行われる。ライティングが加わったことにより、教会は厳粛な雰囲気と荒廃した様子、支柱では工業地帯の構造物然とした雰囲気が引き立っている

UE4とSubstance Painterでの描画の統一

▲本作の開発では、UE4とSubstance Painterで見た目を統一するカスタマイズが施され、ツール往復時の負担を軽減している。【上段左】カスタムされたUE4上での見た目。ACESのトーンマッピングにインスパイアされており、ゲーム内の基準ルックとなっている。なお、この画像の光源はIBLのみ/【上段右】デフォルトのSubstance Painter上の見た目。左と同一IBLを用いているが、トーンが異なってしまっている/【下段】Reinhard関数でトーンマッピングした上で、基準ルックに写像するLUTを適用したSubstance Painter上の見た目

フレーバーシートの活用

▲画づくりの方向性を決めるべき要所では、参考画像のような展開図やExcelシートを使ったりして、軸を可視化して議論するための「フレーバーシート」が作成された。従来もオブジェクト単品や限定された空間に対してはフレーバーシートが作成されてきたが、ロケーション全体に対してフレーバーシートを活用したのは今回が初の試みであり、協力会社とのコミュニケーションの中で発展し定着していった。「今回は映像系の協力会社さんとやり取りする中で、多種多様なクライアントに向けて培われた提案手法や、つくりたい画に間違いなく進んでいくためのロジカルな考え方に強く刺激を受けました」(三宅氏)。モデリングやライティングなどを進める前に設定の深掘りが必要となったら、個々人の頭の中にしかないイメージをチーム内で共有するためにこのフレーバーシートが作成される。「フレーバーシートを用いて明言化していくことで、意見を交わして発想を広げられますし、同じゴールをもって安心して力を発揮していくことができます」(玉ノ井氏)

エラーチェッカー

▲背景制作では、好ましくないデータが実装されないよう、エラーチェッカーが用意された。【左】カラー(デバッグ表示)によるチェック。陰影を描き込んでしまっていないか確認する/【右】ワールドノーマル(デバッグ表示)によるチェック。光の当たり方がおかしいオブジェクトを見つけた際にはこの表示で確認する。面の向きに合わせて色が表示され、好ましくない状態のメッシュを発見しやすい

▲【左】PBR(デバッグ表示)。正常は青、許容範囲は黄緑、問題がある場合には赤で表示される。画像内の黄緑は「錆び付いた金属」で、当初は赤だったがテクスチャ調整により黄緑に収めた状態/【右】オクルージョンのチェック。オクルージョンベイク時の距離が統一されていないと、光が届く範囲が正しく計算されずスケール感がちぐはぐになってしまう。「プログラマの尽力によりSSAOのみでもかなりのところまで表現することができるようになりましたが、より細かい部分はアーティストが手作業でベイクする必要がありました」(三宅氏)。オブジェクトごとのベイクは、人力である以上ベイク時の設定ミスなどのリスクがあり、スケール感の統一を確認するためのデバッグ表示が活躍した

▲【左】ライトベイクのチェック。動くオブジェクト以外はベイク済み表示(青)になっているのが正しいが、わざとライトベイクを外した【右】では、ベイクされているべき鉄塔が未ベイク(赤)となっている


『FINAL FANTASY VII REMAKE』(3)
VFX&ライティングに続く>



  • 月刊CGWORLD + digital video vol.268(2020年12月号)
    第1特集:百花繚乱! 最新ゲームグラフィックス
    第2特集:『モンスターストライク THE MOVIE ルシファー 絶望の夜明け』
    定価:1,540円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:128
    発売日:2020年11月10日

特集