世界に冠たるRPG『FINAL FANTASY』(以下、FF)シリーズの中でも屈指の人気を誇る『FF VII』(1997)のリメイクとして話題をさらった『FINAL FANTASY VII REMAKE』。本稿では、本誌268号に掲載したメイキングに追加要素を加え、全3回に渡って詳解する。第2回は、スクウェア・エニックスの技術の粋を結集したアニメーションと、舞台となるミッドガルの緻密な再現手法を紐解く。
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※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 268(2020年12月号)に掲載された記事にトピックを追加し、再編集したものです
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EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
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『FINAL FANTASY VII』
開発・販売:スクウェア・エニックス
リリース:発売中
価格:8,980円+税
Platform:PlayStation 4
ジャンル:RPG
www.jp.square-enix.com/ffvii_remake
© 1997, 2020 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
CHARACTER DESIGN: TETSUYA NOMURA/ROBERTO FERRARI
LOGO ILLUSTRATION: © 1997 YOSHITAKA AMANO
© 1997, 2019 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
CHARACTER DESIGN: TETSUYA NOMURA
©2005, 2009 SQUARE ENIX CO., LTD.All Rights Reserved.
CHARACTER DESIGN : TETSUYA NOMURA
キャラクター性を損なわずリアルなアクションを目指す
原作のデフォルメされたアクションを、画的にフォトリアリスティックにするだけではなく、そのキャラクター性を損なわずに今の時代に合ったものに仕上げる。それが本作でのアニメーション制作の指針となっている。「リアルさだけではなくデフォルメの良さ、原作の世界観の良さを再現することにフォーカスしました」と語るのはアニメーションディレクター・相馬文志氏。
アニメーション作業はまず大きくカットシーンとそれ以外に大別され、後者はさらに「バトルモーション」、「フィールドモーション」、「簡易イベント」、「フェイシャル」、「セカンダリアニメーション」に分けられる。メインツールはMayaで、カットシーンでMotionBuilder、フェイシャルキャプチャではDynamixyzが使用された。「まずアタリとしてモーションキャプチャ(MC)を行なって実装に回し、そこからコンセプトを反映していく詰め作業を進めました。リアルな芝居はそのままMCが活かされる部分も多いですが、アクション性が高い場合はMCから調整を重ねて最終的にはほぼ手付けということもよくあります」(相馬氏)。
バトルモーションも、テーマとしては同じくユーザーの中のイメージを大事に、原作を踏襲した懐かしさに新鮮さをプラスする方針で作成されている。またそれぞれのプレイヤーキャラクターには簡単なサブテーマとして「クラウド=豪快さ」、「ティファ=連続性」、「バレット=重量感」、「エアリス=優美さ」が設けられているといい、操作時にはそのちがいを楽しみたい。
バトルモーション作成では、最初に仮データを用意し実装、仮データを企画意図にそって調整し、実装完了後につくり込みが行われる。攻撃方法、尺、タイミング、攻撃回数など、仮データからつくり込みに進んだ際に他セクションに影響があるような変更を加える際には、その旨共有して連携が図られる。事前にわかっている変更であれば、企画発注会議などですり合わせを行うが、それ以降の段階でも「表現を増すために骨の変更・追加の必要性が発覚する」「攻撃のイメージが膨らむ」など急遽発生する場合もある。
「ティファのドルフィンブロウの例では、発注段階では特に技の指定がなかったためモーション担当者が自由に作成しました。ユーザーを楽しませたい!という思いから試行錯誤し、フィニッシュのイルカのアイデアに至りましたが、その時点でイルカのモデルはなく、開発も終盤。タイミング的に難しいかとも思いましたが、相談したところ快諾され、実装されました。やりたいことが実現できる環境はありがたいです」(バトルアニメーションディレクター・山地裕之氏)。
▲ティファのドルフィンブロウ
リギングにはスクウェア・エニックス謹製モジュラーリギングシステムとして知られる「CRAFT」を採用しているほか、骨物理を実現する「Bonamik」、新開発の「Body Driver」といった同社テクノロジー推進部の技術が多数投入されていることがCEDEC 2020にて詳しく語られている。そちらも合わせてご覧いただきたい(※)。骨構造は本作用に新規につくり起こし、人型キャラクターは全て共通となっている。また、Maya側でバリエーション制作を減らすためにUE4へ組み込み後に調整できるようコントロールリグを開発、技のエイムなどはそちらで調整している。
※:『FINAL FANTASY VII REMAKE』におけるキャラクターアニメーション技術
cedil.cesa.or.jp/cedil_sessions/view/2304
Bonamikによる揺れもの設定
▲髪、スカートなどの揺れものは、スクウェア・エニックス テクノロジー推進部が長年開発している骨物理システムである「Bonamik」(ボナミック)を使用。チーム方針として、可能な限りベイクせずBonamikによる処理を活かし、どうしてもカバーしきれないケースのみ手付けアニメーションとブレンドしている。中でもエアリスの揺れもの設定が最も物量が多く大変だったという。【左】Mayaでの設定画面。髪、スカート、ジャケット、リボンなど37系統のBonamik Groupが確認できる/【右】UE4でのプレビュー。座りモーションなどは地面やキャラクター自身など干渉箇所が多く、全てを計算にまかせることは難しい。手付けによる最良のフォルムとパラメータでブレンドする
エネミーのリグ
▲「CRAFT」によるエネミーのリグの例。【上段左】エリゴル、【上段右】アプス、【下段】ジェノバBeat。バトルアクションの中でも攻撃アクションは特にメリハリ、外連味が必要となり、またエネミーでは画像のように人と構造が異なるケースも多いため、大部分が手付けとなる。これらはキャプチャのみでは難しく、他のアニメーションと比べて手付けスキルや瞬発力が問われる分野となっている。「特色としては、プレイ時の直感的な操作感、リアクションを含めた手応えを意識して作成しています」(山地氏)
UE4上での調整を可能にしたコントロールリグ
▲UE4に組み込んだアニメーションをUE4上で調整すべく、独自のコントロールリグを開発。多機能・汎用ではなく、本作で必要な機能にフォーカスして組み上げられている。【左】Foot IKとバランス。斜面で足の高低差を調整するだけでなく、胴体の傾きを補正/【右】ボーン角度の制限とLookAt
▲【左】エイムありと【右】エイムなし。右腕・左腕・尻尾がそれぞれ別のエイムターゲットに追従している。これらを用いて、1つのアニメーションアセットで多様な状況に対応できるようになっている
形状痩せをリアルタイム補正する「KineDriver」
▲補助骨による形状補正システム「KineDriver」(KDI)は、肘や脇を曲げたときに発生する形状痩せなどをリアルタイムに補正する。Maya上でもUE4上(ランタイム)でも動作し、アニメーション制作時から正しい形状を確認しつつ作業を進めることができる/【左】補正前。肘メッシュの尖りや上腕のひねりによる痩せが確認できる/【右】補正後。より好ましい形状変形が得られている。「KDIはMotionBuilderでも動作するようになっており、多人数登場するカットシーンでも軽量に作業できるよう任意にON/OFFが可能になっています」(リードカットシーンアーティスト&モーションキャプチャディレクター・作山 豪氏)
感情を乗せるリップシンク
▲リップシンクはスクウェア・エニックスのタイトル開発で広く使われているという「Happy Sad Face」を本作向けにアップデートして使用。音素ごとに形状を登録しておき、音声から抽出した音素に合わせて自動的にリップシンクを作成。「音素に対応した形状パターンはボーンアニメーションとなっており、ブレンドシェイプは使わずフェイシャルアニメーターが作成しています」(フェイシャルディレクター・岩澤 晃氏)。また、音量や感情に合わせて微調整が行われるしくみも用意した。感情の検出にはAGIのST Emotion SDKを使用。これらはフィールドやバトルでのフェイシャルアニメーションに用いられており、4言語に対応している(カットシーンは手付けで、日英2言語に対応。画像は「Happy Sad Face」による表情例。左が以前の結果、右が本作での結果。より感情が受け取れるような表情となっている
フェイシャルアニメーション
▲DynamixyzでキャプチャされたフェイシャルはMaya上で調整される。クラウドのフェイシャル調整作業の様子。感情ごとに表情が登録されており、「AnimMemo」というツールから呼び出す。画像は「Hope(期待)」を呼び出したところで、口角や目元が上がっているほか、右の「Fcont」を見ると各部に細かく値が入っていることがわかる
▲キャラクターごとの表情変化の印象を共有するための表情集「フェイシャルエクスプレッション」。上段左からクラウド、バレット、エアリス、ティファの例。これによって、表情をつくり込んだ結果が担当者ごとに異なってしまうのを回避している
VATを活用したアニメーション
▲大量に描画する必要のある一部のアセットは、アニメーション制作後Houdiniを使ってVATで出力されている。「本作では、基本的にVATを用いる際にはHoudiniを経由するパイプラインが敷かれています」(リードアニメーションプログラマー・原 龍氏)。本作終盤で謎の存在「フィーラー」が大量発生し神羅ビルを取り巻くシーンでは、VATの容量削減もかねてパスに沿ってVATが移動するしくみを構築。スピード、大きさ、VATの再生スピードなどが同期して見えないよう設定可能となっている。「このしくみを用いて、フィーラーの大群は100fほどのループアニメーション数種類だけで表現することができました」(原氏)/【上段左】敷かれたパスに沿って周回するフィーラー/【上段右】神羅ビルの周回パス/【下段】フィーラーを表示した様子
▲またウェッジの落下シーンでは、風圧で顔の肉が震える表現にもVATが用いられている。Mayaでの表示。頭部のメッシュがVATの対象となっている
▲カットシーンでの結果
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映像・ゲームのノウハウを結集して構築されたミッドガル
映像・ゲームのノウハウを結集して構築されたミッドガル
「原作が愛され、期待されている中でのリメイクということで、みんなの夢を壊さない、それだけでなく思い出をアップデートしよう、という挑戦を軸に開発を進めました」とエンバイロンメントディレクターの三宅貴子氏は語る。
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市原麻菜/Mana Ichihara
リードエンバイロンメントアーティスト
(株式会社アティック)
背景を制作する上では「原作の世界観が現実にあったならば」を出発点にイメージを掘り下げていき、そこから実際にモデリングする際の設計へとつなげていった。「都内の繁華街や近郊の工業地帯など、ミッドガルのイメージに近しい環境がロケハンしやすい範囲にあり、日々インスピレーションを膨らませることができました」(リードエンバイロンメントアーティスト・玉ノ井 彰祥氏)。カオス感のある雑踏に置かれているオブジェクトひとつとっても、そこに何らかの歴史的経緯がある。そういった思いがミッドガルの世界観へとつながっているのだという。
ツールはMaya、ZBrush、Substance Painterを中心に、一部にSubstance Designer、布のオブジェクトにMarvelous Designer、破砕オブジェクトなどの表現にはVATを用いている。
AAAタイトルの背景制作は量産期には多くの人員を要するが、本作でも社内外問わず大規模に人員を投入したことが知られている。「才能あふれるメンバーが集まったので、その能力を発揮できるよう環境を整えるのが私の役目でした」(三宅氏)。映像分野でハイエンドな背景をつくってきたメンバーに恵まれ、プリレンダーとほぼかわらないクオリティラインで制作を進めることができたという。
「これまで映像分野で経験を積んできて、初のゲーム案件でしたが、制作手法には大きくちがいがなく、クオリティを上げる作業に注力できました」(株式会社アティック リードエンバイロンメントアーティスト・市原麻菜氏)と、本作の開発を通して相互に刺激しあう好循環が起きていたようだ。
3段階に分けて詰められる背景制作工程
▲背景制作の工程は便宜上大きく「1st Pass」、「2nd Pass」、「3rd Pass」の3段階に分けられる。ここでは「伍番街スラム教会」【左】、「七番街スラムプレート支柱」【右】ロケーションを例に各工程を紹介する。画像は1st Pass。ラフモデルを作成する。モックとして簡易なモデルで空間設計と動線設計を考える工程。「想定されているバトルに必要な空間構成、広さ、テクスチャ解像度などをここで探ります」(市原氏)。教会では簡単な人型と花壇が配置されている
▲2nd Pass。外部パートナーも含め大規模に展開し、本番想定のハイモデルアセットに置き換えていく【上段】。また、テクスチャの大部分を作成【下段】。2ndの後半からライティング班との連携が始まる
▲3rd Pass。レイアウトを細かく詰め、ライティング含め全体のクオリティアップが行われる。ライティングが加わったことにより、教会は厳粛な雰囲気と荒廃した様子、支柱では工業地帯の構造物然とした雰囲気が引き立っている
UE4とSubstance Painterでの描画の統一
▲本作の開発では、UE4とSubstance Painterで見た目を統一するカスタマイズが施され、ツール往復時の負担を軽減している。【上段左】カスタムされたUE4上での見た目。ACESのトーンマッピングにインスパイアされており、ゲーム内の基準ルックとなっている。なお、この画像の光源はIBLのみ/【上段右】デフォルトのSubstance Painter上の見た目。左と同一IBLを用いているが、トーンが異なってしまっている/【下段】Reinhard関数でトーンマッピングした上で、基準ルックに写像するLUTを適用したSubstance Painter上の見た目
フレーバーシートの活用
▲画づくりの方向性を決めるべき要所では、参考画像のような展開図やExcelシートを使ったりして、軸を可視化して議論するための「フレーバーシート」が作成された。従来もオブジェクト単品や限定された空間に対してはフレーバーシートが作成されてきたが、ロケーション全体に対してフレーバーシートを活用したのは今回が初の試みであり、協力会社とのコミュニケーションの中で発展し定着していった。「今回は映像系の協力会社さんとやり取りする中で、多種多様なクライアントに向けて培われた提案手法や、つくりたい画に間違いなく進んでいくためのロジカルな考え方に強く刺激を受けました」(三宅氏)。モデリングやライティングなどを進める前に設定の深掘りが必要となったら、個々人の頭の中にしかないイメージをチーム内で共有するためにこのフレーバーシートが作成される。「フレーバーシートを用いて明言化していくことで、意見を交わして発想を広げられますし、同じゴールをもって安心して力を発揮していくことができます」(玉ノ井氏)
エラーチェッカー
▲背景制作では、好ましくないデータが実装されないよう、エラーチェッカーが用意された。【左】カラー(デバッグ表示)によるチェック。陰影を描き込んでしまっていないか確認する/【右】ワールドノーマル(デバッグ表示)によるチェック。光の当たり方がおかしいオブジェクトを見つけた際にはこの表示で確認する。面の向きに合わせて色が表示され、好ましくない状態のメッシュを発見しやすい
▲【左】PBR(デバッグ表示)。正常は青、許容範囲は黄緑、問題がある場合には赤で表示される。画像内の黄緑は「錆び付いた金属」で、当初は赤だったがテクスチャ調整により黄緑に収めた状態/【右】オクルージョンのチェック。オクルージョンベイク時の距離が統一されていないと、光が届く範囲が正しく計算されずスケール感がちぐはぐになってしまう。「プログラマの尽力によりSSAOのみでもかなりのところまで表現することができるようになりましたが、より細かい部分はアーティストが手作業でベイクする必要がありました」(三宅氏)。オブジェクトごとのベイクは、人力である以上ベイク時の設定ミスなどのリスクがあり、スケール感の統一を確認するためのデバッグ表示が活躍した
▲【左】ライトベイクのチェック。動くオブジェクト以外はベイク済み表示(青)になっているのが正しいが、わざとライトベイクを外した【右】では、ベイクされているべき鉄塔が未ベイク(赤)となっている
『FINAL FANTASY VII REMAKE』(3)
VFX&ライティングに続く>