>   >  2021年はスマートグラス元年! 先陣を切って発売されたNrealLightと『スペースチャンネル5 AR』体験版の可能性
2021年はスマートグラス元年!  先陣を切って発売されたNrealLightと『スペースチャンネル5 AR』体験版の可能性

2021年はスマートグラス元年! 先陣を切って発売されたNrealLightと『スペースチャンネル5 AR』体験版の可能性

VR版のビジュアル素材が直接活きたAR版の開発

このように5G時代における戦略商品の1つとして、KDDIが力を入れるNrealLight。本プロジェクトにソフトウェアやサービス開発の側面で協業するのが、ジャムズワークスMawari Inc. だ。

ジャムズワークスは、元マリーガル・マネジメント(リクルートと任天堂による合弁会社/現在は存在しない)の安藤 摂氏らが設立したスタジオで、他社やクリエイターと協業しながら、ゲームや最新デジタル技術を活用したコンテンツ・サービスなどの企画プロデュースや、開発マネジメントなどを行なってきた。2020年2月に発売された『スペースチャンネル5 VR あらかた☆ダンシングショー』でも、メインで開発を担当したグランディングと共に共同プロデュースしたほか、開発にも一部携わっている。こうした縁もあり、『スペースチャンネル5 AR』体験版では企画プロデュースを担当したという。

Mawari Inc.はメキシコ出身のルイス・オスカー・ラミレス・ソロルサノ氏が立ち上げた、XRコンテンツの普及と技術開発を進める企業だ。これまでアドバタイズメント・ブランディング・デジタルの3分野で横断的に活躍し、DJの経験もあるルイス氏。IoTセンサ/XR系スタートアップ参画などを経て、2017年にMawari Inc.を起ち上げた。本社機能は東京に構えるが、主要な開発部門はロシアにあり、ビデオ会議などを活用しながら開発を進めている。

2018年に同社のCTOとしてジョインしたアレクサンダー・ボリソフ氏もロシア在住だ。同社が研究開発を進める次世代XR配信プラットフォーム「Mawari XR Streaming SDK」のキーマンであり、『スペースチャンネル5 AR』体験版でもテクニカルディレクターとしてUnityの開発チームを指揮。本取材にもZoom経由でジョインした。コロナ禍でテレワークが浸透する中、それを先取りするような国際的な開発スタイルで業務に取り組んできたのだ。

もともと異なるルートでKDDIと協業していた両社は、奇妙な縁で繋がった。ジャムズワークスとKDDIの縁は、『スペースチャンネル5 VR ウキウキビューイングショー』(2016)のデモ版開発から始まる。グランディングと協業し、東京ゲームショウ2016のHTC Viveブースでauのコンテンツとして試遊展示した。このときのKDDI側の担当者が上月氏だったのだ。これを契機に、「5Gで文化財 国宝 聖徳太子絵伝 ARでたどる聖徳太子の生涯」など、同社の5GおよびXRに関する実証実験や、プロジェクトに参加。『スペースチャンネル5 AR』体験版の開発へと繋がったという。

一方でMawari Inc.は、「Mawari XR Streaming SDK」の研究開発を通してKDDIと縁ができた。「Mawari XR Streaming SDK」はクラウドゲームと同様に、ストリーミングを通してXRデバイスにコンテンツを配信するための技術で、5G世代のキラーテクノロジーになることを目指している。本技術および5Gに関する実証実験を進める過程でジャムズワークスと接点ができ、本作の開発にも参加することになった。

そして最後のキーマンがエイトビットモンキースタジオの湯田高志氏だ。セガ出身でオリジナル版『スペースチャンネル5』(1999)のディレクターを務めた、いわば『スペチャン』の生みの親ともいえる人物だ。『スペチャン』の世界観を誰よりも理解していて、NrealLightという新しいデバイスでARゲームという新しい体験を短期間(開発期間は約3ヶ月だった)でつくり出せる人物として、白羽の矢が立った。

  • 安藤 摂/Osamu Ando
    ジャムズワークス
    取締役・プロジェクトマネージャー

  • ルイス・オスカー・ラミレス・ソロルサノ/Luis Oscar Ramirez Solorzano
    Mawari Inc.
    チーフエグゼクティブオフィサー・ファウンダー

  • アレクサンダー・ボリソフ/Aleksandr Borisov
    Mawari Inc.
    チーフテクノロジーオフィサー

  • 湯田高志/Takashi Yuda
    エイトビットモンキースタジオ

前述のようにNrealLightではUnity向けのSDK「NRSDK」が無償配布されており、Unity上で動作する公式エミュレータと2種類のサンプルが用意されている。開発機材「DevKit」をPCにUSBで接続する、もしくはNrealLightと対応スマートフォンを用意すれば、すぐにUnity上でコンテンツを開発し、ビルドして試せる環境が整っているのだ。演算ユニットとなる「XPERIA 5Ⅱ SOG02」、「Galaxy Note 20 Ultra 5G SCG06」のスペックも優秀で、VR版のビジュアル素材がそのまま流用されているほどだ。

もっとも、プロトタイプを開発することとそれを製品クオリティに引き上げることでは、大きなちがいがある。以下、KDDI側から行われたオリエンテーションの内容から、企画内容の変遷、そしてARゲーム開発ならではの注意点について、4名のインタビューを基に整理してみよう。

▲NRSDKに付属の「TrackableImageEmulator」(上)と「TrackablePlaneEmulator」(下)

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